履いていた靴を脱ぐ。見渡す限りの青い海があるこの場所が私のお気に入りだ。白い砂浜を裸足で踏みしめると、重力のままに指の形に砂が歪む。体温より熱いそれに全身の力が抜けるのが分かった。自分で思っているよりも身体に力が入っていたようだ。
ゆらゆらと波の揺れる海を目の前に、1枚ずつ服を脱いでいく。瑠璃色のショール、体型に合っていない銀鼠色ローブ、最後に動きやすさ重視で選んだ下着を外し、いつもより冷たい海に足を進めた。冷たく感じるのは気温のせいか、はたまた〈大いなる厄災〉との戦いで疲れた身体が発熱しているのか。
どっちでもいいかと独り言ち、地面に足がつかない場所まで身体を沈めた。雲一つない空を見上げ、息を吐きながら海の浮力に身を預ける。魔法で浮くことは簡単だが、自然の力はやっぱり落ち着く。空を遮るように目を閉じると考えるのは〈大いなる厄災〉のこと。

仲間が死んだ。ヒースクリフを庇ったファウストも大怪我を負った。ベットで呻く彼を見ていられず、逃げ出す様にマナエリアへ来た。知っている人が死ぬのも、傷つくのも慣れたと思っていたのに。あの時もっと動けていれば、魔力がもっとあれば、皆を守るという強い心があれば。なんて自分の事で精一杯だった私が一丁前に何を思うか。目を開け空を優雅に飛ぶ鳥を見ながら、自嘲した。

次の厄災がくるのは一年後だ。そのための万全の準備をしなければ。次は仲間を失わないために、今回より被害を抑えるために、強くならなければ。

「よし、泳ぐか」

仲間を失った悲しさ、もっといい結果に出来たのではないかという後悔、今年は終わったという安心感、様々な感情が入り混じるのをかき消すように水を掻き分けた。

空に赤みがさした頃、服の散らばる砂浜へと戻る。置いていたタオルで身を包み、お酒の入った瓶を口に当てた。顎を上げると重力に従う液体は東の有名なワイナリーのものだったか。さらりとした口当たりのワインは香り高く、後に心地の良い苦味がくる。

お酒を飲み終え、砂を払い服を着ると、ローブの右腕部分が破れていることに気づいた。見ると二の腕から肘にかけ皮膚が裂けている。血は止まっている様だが、傷を認識すると急激に痛みがやってきた。ズキズキとした痛みに顔が歪む。疲れではなく傷からきた熱だったか。今まで気がつかなかった自分の余裕の無さに驚いた。けどそれも先程までの自分だ、私はまだ頑張れる。

東の国にあるマナエリアは、中央の魔法舎とさほど離れていない。箒を飛ばせば、夜までには着く。自分の頬を叩き喝を入れ、目的地までスピードを出した。



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