※共学
それぞれ不格好な星屑が、五つの花を照らすすがたはまだ少しだけ眩しかった。煤けた時計塔には足を運ぶ気になれなくて、執務室から見る空を思い出した俺は、ひとりになれないことをわかっていながら気づけば屋上へのとびらを開けていた。格子とパイプの機械的な風景に似合わない少女が、貯水タンクの足場を言葉通りに踊り場にして、天を見上げるようにたからかに歌っていた。
「ひばりが鳴いているかと思ったよ」
階段と息とをひそりと鳴りやませて彼女は「そっか、わたしはもうサヨナキドリじゃあないのね」と言う。それは安堵したように言う言葉なのかとごちると、「冬沢くんらしくない、そう、夜の明けた顔をしてるもの」彼女――苗字は手すりに両の腕を乗せ、逆光で色などうかがえるはずもない俺の顔を見て言った。
妙に現実離れした雰囲気に似合わないこの粗雑さが、無機物に囲まれる苗字を人たらしめていて、まるで舞台装置のうえにいるように見えてきた。それも、これも、太陽が眩しいせいだろうけれど。
知ってか知らずか太陽に被さるように、たかたかと苗字が階段を駆け下りる。俺の傍に寄って、顔を寄せるモーションは彼女なりの鳥の真似事だろう。と思うと、両手のひらで俺の頬を挟み、悪態を吐く。目まぐるしく突拍子もない、いい意味で気を遣わない苗字の傍はこれまでも今日も嫌いではないというのに、苗字はあっけらかんと言った。
「きれいな白磁が台無し。いきいきしてる。好きじゃない」
「俺も人の子だからね。不服かな」
「禊の時間です。冬沢くんが人になるために背負わされた欠点を述べなさい」
苗字に言って何がわかる、そう言いたい俺のことはすでに見透かされているのだろう。苗字は微笑んで「わたしは聞いていないから、好きに話してね」とわかりやすく矛盾したメッセージを残して屋上という名のステージへ、広々と跳ねて行った。
そうしてお前も俺を見ないんだな――いきなり浮かんだ感情を俺はひどく嘲けた。違うだろう、それはもう理解っている、理解らされた、気づきたくなかったことを、気づかされたくなかったやつに。それを情けなくも下手に積みあがったプライドがつっかえて嚥下できないまま、ここに来ている。次にあいつらの前に立つとき、この情けない顔を見せないために。その意図さえ、苗字は感じ取っていたのだろう。即興のでたらめを歌って踊る苗字は、人のこころの機微への勘がいい。ただひとりごとを言って解決しろと言ったのではない。現になんでも独りでできると驕る俺を、これまでもこうして幾度も否定してきたのだった。蓋をしたばかりの奥底に住む怪物がぐらぐらと俺の心を狙っている。だけれど、俺はもうただの愚かな知恵者ではない。
最初からわかっていた。これだけの感性をもって、これだけの才能があって、歌がすきで、踊りがすきで、華があって、板の上を遊べる。なのに、これまでは埋もれていくしかなかった者たちのことを。そして、それらがいつか、ただただまっすぐに正当に研鑽を積んだ俺を飲み込む日がくることだってあることを。それは四季や星谷だけではなく、もっと、始めから。
「苗字、なぜお前が星屑なんだろうな」
「あなたを愛してしまったからよ」
なんちゃって。笑う彼女に背筋が凍る。これから先のどんな自由も彼女にはもう遅い。