平行線を辿る日々
サラがおかしい。
俺を明らかに避けている。挨拶は軽くするものの、前みたいにつるんだり、一緒に行動しなくなった。何より目を合わせて会話をしていないし、笑った顔も見ていない。
理由はなんとなく分かってる。
ホグズミードに行く前の、俺がおでこにキスしたこと。あれが原因‥だと思う。
自分でもなんであのタイミングであんなことしたのかは今思い出してもよく分からない。分からないけど、とっさにしてしまった自分の行動に今は後悔するよりほかなかった。
「なぁ、相棒?少ーし詮索なんだが、サラ明らかにお前を避けてないか?」
「フレッドじゃあるまいし、お前がなんかしたってわけじゃなさそうだけどどうなんだ」
「おいリー!俺、心に何か刺さった!」
「分かった分かった。何でも良いから大人しくしてろ」
今はそんなことよりジョージだろとリーは続けるけれど、正直今はそっとしておいてほしい。というか放っておいてほしい。俺の心の中に土足で踏み込まないでほしい。
あの日、ホグズミードにはリーと適当に回って、たまにフレッドとも合流して3人でゾンコに行ったりした。
その時サラとの約束でハニーキャンディのことがあった俺は、ハニーデュークスで密かにそれを買うことも忘れなかった。が、一緒に行動していたリー曰く、朝のことを思い出しては頭を掻きむしったり、ため息をついたり、俺の行動は側から見ても本当におかしかったらしい。そんな行動は学校に帰ってからも続き、夜にはすっかり元気になっていたサラと再会したときは後悔とか照れとか色んなものが混ざり合い爆発しそうだった。いや、むしろ爆発してしまいたかった。
俺はあの時自分のことで手一杯だったけど、思えばあの時から既にサラは俺によそよそしくなっていた。‥多分。
だとしたら本当にあのおでこにキスしたことが原因で間違いない。
でも。
「‥おでこにキスしただけなんだよ‥なぁ」
「「は?」」
おでこにキスなんて、俺からすればママからよくされるし兄弟でそれは無いにしてもジニーになら俺を含めて他の兄弟でもよく目にしている。それはスキンシップの一環で、サラも慣れていると思ってた。現にフレッドがふざけてやった時はやめてよと割と本気で嫌がるだけで、その後は別に普通だったしこんなことにはならなかったはずだ。
「おでこにキス?何の話だよ」
「ジョージ?」
「いや、サラに何かしたって話。おでこにキスした」
「「‥は?」」
頼む、一度で理解してくれ。
そう懇願するように軽く2人を睨み付けると、その空気を破るかのようにフレッドが率先してゲラゲラと笑い始めた。それもかなり爆笑で、息も絶え絶えになりながら、なんでおでこにキス?と聞いてきている。
うるさい。むしろ俺が聞きたい。
「ジョージ、原因は間違いなくそれだな」
リーは顎に手を当てて悪戯めいた笑いをしながら淡々と話していく。その姿はまるで名探偵気取りだ。
というより、それは分かってるんだ。自分でもそうだと気づいてるけど、それがなぜかまでは分からない。
「サラはきっと恋愛に関して初心者なんだよ」
「‥初心者?」
「そ。だからお前にそんなことされてきっと戸惑ったはずだ」
「それであの態度ってわけか」
納得納得!と2人は交互に言うけど、全くもって意味不明だ。サラが恋愛初心者なのは誰がどう見ても分かりきっている。俺の知る限り、彼氏はおろか好きな人すらいなかったはずだ。でもそれとこれとはなんの関係もない。
「サラはお前のことが好きなんだろ、ジョージ?」
そう思おうとしていた矢先、フレッドが俺に爆弾を落としてきた。
「‥は?!」
「おいフレッド。そこはサラの為にも慎めよ」
「でもこうでもしないとこいつら何も発展しないぜ?サラはあんなだし、相棒も悪戯の才能はあるのにこと恋愛となると‥」
ちらりと向けられた視線がなぜか痛い。
言いたいことは分かってる。遊び人のフレッドとは違って、俺は本当に好きになった子としか付き合いたいと思わない主義だ。よって今までデートこそ数多く重ねたものの、彼女はいなかった。そこは俺たち双子の最大の違いだった(ただ、フレッドのフリをして何人かとデートしたことがあるのは、あくまでフレッドからの頼みであってカウントされてない部分もある)
それにしても。
サラが俺を好き‥?
何の冗談だよ‥
俺とサラは友達で、俺はサラのこと‥
俺が狼狽えたのは誰の目にも明らかだったはずだ。
そんな俺を見て、フレッドもリーも漏らすため息を隠さない。相当呆れているようだった。
「ジョージ、確かにサラは友達だ」
「けど、おでことは言えキスしたってことはお前もサラのことを少なくとも友達以上に見てるんじゃないのか?」
そう指摘されて言葉に詰まる。
何か言い返したかったのに、言い返す言葉が何一つ浮かんでは来なかった。
**
ちょっと1人で考えたい、そう2人に別れを告げて誰もいない湖のそばまでやってきた。
フレッドやリー、そしてサラを交えて大イカを見にきたのはついこの間のことだ。あの時はこんなことになるなんて、こんなやるせない気持ちになるなんて誰が想像しただろうか。
あの時、俺はなんでサラにキスなんてしたんだっけ。
サラが熱で寝込んでるってアンジェリーナに聞いて、でもアンジェリーナはフレッドとデートだからってそんなサラのことはさておき2人で舞い上がってて、それってちょっと違うんじゃないかサラは1人で寝込んでるんだぞって2人の様子にムッとしたのを覚えてる。
ジョージ様子見に行ってあげてよ、なんてアンジェリーナに言われてしぶしぶ見に行ってみると本当に辛そうで、そんな姿初めて見て、なのに明るく元気に振る舞うもんだから、余計に、こう‥放っておけなくなったというか。守ってあげたくなったというか。
途中変な方向に話がまとまって行った時には、若干焦ったけど、満足したように俺の目の前で寝ようとした(っていうか少し寝てたと思う)サラがちょっと憎らしく思えて、少しくらいなら‥って。
「少しくらいならいいか、なんて俺かっこ悪すぎるだろ‥」
サラは俺にそんなことされてどう思ったんだろう。フレッドの時とは違う反応を見せた彼女のことが本気で分からなかった。それに‥俺自身のことも。
俺は、サラのことどう思ってるんだろう。
嫌いじゃない。それは確かだ。でも、好きかと聞かれたら‥それは分からない。
嫌いじゃない=好き、ではないことくらい分かってる。俺が今までデートはしたことがあっても彼女を作らなかったのは好きではないと確かな確信があったからだった。告白されて、一度デートしてほしいとせがまれて、まぁデートくらいならと。それでも1回きりだった。フレッドに言わせれば、結婚するわけじゃないから適当に可愛いと思ったら付き合えばいいのに、らしかったが、それはなんだか気が引けた。好きでもないのに、抱き合ったりキスしたり、その先のことをするなんて俺は絶対に嫌だった。リー含め、2人はそんな俺を完全にお子ちゃま扱いするけど、無理なものは無理。だって、それでサラと一緒にいられなくなったらどうするんだよ。適当な彼女にサラと一緒にいることを問い詰められでもしたら、俺は一気に冷める自信がある。何言ってんだよ、君にサラのことをとやかく言われたくないと言うに決まってる。
そう、サラは‥
「‥っていうか俺、なんでサラを自然と隣に置いて考えてんだろ」
元々生まれた時から一緒だったフレッドが隣にいることなんて、息をすることくらい当たり前のことで、それがここホグワーツにきてからはリーとサラがそれに加わった。学年が上がりフレッドがアンジェリーナと付き合うようになってからは俺の隣にはほとんどサラが居た。
そう、今みたいに1週間もサラが隣にいないなんてことは今まで全くなかった。一度だって。1日だってなかったはずだ。
「‥くそっ」
それが、たったそれだけのことが、こんなにも辛いだなんて。
当たり前のことが当たり前じゃなくなって。
当たり前がもう一度当たり前になってほしいだなんて。
「‥‥これが好き、ってやつなのかな」
思えば、サラが隣にいてくれるのが自然なことすぎて気づかなかったけど、女の子とデートする時常にサラと比べてしまっていた。サラだったらこう言うだろう、サラだったらきっとこうしてくれた、サラだったら、サラだったら‥って。
「俺‥サラのこと」
ここまで考えて、気づけないほどバカじゃない。
俺はサラと一緒にいたい。
それが、好きだと思ってる何よりの証じゃないのか。
なんで今まで気づかなかったんだろう。
フレッドやリーが先ほどまでの俺を見て、呆れるのも無理はないと思った。
「まずは話さないと、だな」
この平行線を交えるために、どんな仕掛けをしてやろうか。