好き、だからキスしたい



バンっ!!!

窓ガラスに何かが張り付いた。というより激突したエロールがいる。あちゃーと思いながら窓を開けてあげると、エロールは息も絶え絶えに嘴に加えた手紙を差し出してくれた。「ありがとう」とお礼を言って、代わりに窓際に置いてあるクッキーを1つ差し出すと嬉しそうにパクッと食べて、そのままフラフラしながら主人の元まで飛んで帰っていった。

この夏休み、ジョージとやりとりしたか手紙の数はゆうに50は超えるんじゃないだろうか。彼はささいなことでも手紙に記して送ってくれる。それはとても嬉しいことだけど、なんというか、

「エロールが不憫‥」

飛んで行ったフクロウを見えなくなるまで眺め、窓をそっと閉めた。
今日はどんなことが書いてあるのだろう。
結局夏休みには誰とも会えなかったけど、ジョージの手紙があるから乗り越えることができた。エロールには悪いけれど、今日の出来事やフレッドとのいたずらグッズの出来映えや、はたまたロンのドジ話、ハリーがきたよの報告まで色んなことを間を開けずに書き寄越してくれるものだから、それだけで私の夏休みはジョージと一緒に過ごしたような気持ちになれるのだ。

「さてさて」

封を開けると可愛らしい便箋が出てきた。ジョージは羊皮紙の切れっぱしのようなもので書いてくることもあれば、今日みたいに可愛らしい便箋も使うこともあってなんだかそのちぐはぐ具合が私は好きだった。

便箋は3枚入っている。
手紙の内容は至ってジョージらしい内容だった。
宿題が終わっていないこと、それを隠していたらママに見つかってロンとフレッドと3人纏めて怒られたこと(ママにリビングの柱に縛り付けられたんだ!と書かれてある)、遊びに来ていたハリーは怯えて、ハーマイオニーはそんな3人にゴミを見るような目を向けてきたこと、ジニーはハリーと話したいのに中々勇気が出せずにいること、などなど。

読んでいるうちにみんなの姿が想像できてしまって思わず笑ってしまった。
楽しそうだなぁ。私も行きたかった。
ジョージは決まって手紙の最後には必ず、サラに早く会いたいよと一言を添えてくれる。そしてその隣に君のジョージよりと。なんともキザったらしい文末だけれど、それもジョージの個性が出ていて好きだ。

「会いたいなぁ‥」

その文面を慈しむように指で撫でれば、なんとなく近くにジョージを感じることができた。

元々ジョージは私を何度も何度も根気強く誘ってくれていたけれど、父さんが許してはくれなかった。男女7歳にしてなんとかっていう、日本の古き良き習慣があるようで、父はそれを素晴らしいと言ってイギリス人のくせに遵守しているのだ。日本人には悪いけれど全くもってくだらないと思う。

「ふぅ‥」

けれどもそんな父と毎日顔を合わせるのも今日でようやく終わる。明日になればやっとホグワーツに帰れるのだ。そしてジョージに会える。
胸がドキドキと高鳴るのを感じながら、荷物の入ったトランクケースをガチャンと閉じた。

**

「おはようサラ!!」
「おはようアンジェリーナ!アリシア!」
「サラ背伸びたわね」
「そうかな?それでもまだまだ2人には追いつかないや」
「「まぁね」」

お決まりの3人組でまとまってコンパートメントを取りお菓子片手に誰からともなく夏休みの出来事を話し出す。アンジェリーナは海に行ったりクィディッチの公式試合を見に行ったり相変わらずアクティブに動き回っていたようで、アリシアは旅行に行ったり買い物に行ったりと、2人とも思い思いの夏休みを過ごしていたようだ。

「サラは?どうだったの?ジョージとデートなんてしたり‥」
「し、してないよ!」
「えー?本当それ?怪しいなー」
「本当だって!父さんが厳しすぎて会うことすら出来なかったもん」

私がそう言うと2人とも何かを察してくれたようで、「あぁ‥」と呟きそれ以上何も言わなかった。

「あ、でも家族でフランスに行ったの!ボーバトンで教師をしている先生と母さんが友達でね、その人に会ったりして。はいお土産」
「ありがとうサラ」
「ありがと!そういえばサラのお母さんってボーバトンだったわね」
「うん。水色の綺麗な制服が今でもうちに残ってるよ」

お土産を渡すと2人はとても喜んでくれた。アンジェリーナは「サラも楽しい夏休みを過ごせたみたいで安心した」と言ってくれた。
心配してくれてありがとうとお礼を言えばアンジェリーナは一度目を見開いて、すぐに笑みを見せてくれる。
そう。ジョージに会えなかったのは残念だったけれど、家族と過ごす夏休みは決して悪いものではなかったのだ。父さんのお小言さえ目を瞑れば、の話だけれど。

「やぁやぁお嬢さん達。こんなところでガールズトークですか?」
「俺たちもどうか加えてはくれないだろうか」

ナイトさながらの話し方でコンパートメントの扉に其々片手を付きながら格好良く現れたのはジョージとフレッドだ。

「ジョージ!久しぶりだね!」
「サラ、会いたかったよ」
「おいフレッド、それは俺のセリフだ」
「おっと」
「ふふ。フレッドも久しぶり」

2人のやりとりも相変わらずのようだ。すぐにジョージは近くまで来てくれて「サラ元気だったかい?会いたかったよ」と声をかけてくれた。
アンジェリーナとアリシアは双子の登場にどこか冷めた目で見ているけど、それでも友人に久しぶりに会えたことに喜んでいるようで、すぐに顔を綻ばせた。

「それで?フレッドにジョージ、あんたたち課題は終わったの?」

アンジェリーナが長い足を組んで片目を瞑りながら聞く。すると、2人は目をパチクリさせてお互いに顔を見合わせる。そしてそのまま再度アンジェリーナを見た。

「‥終わってないのね」

2人がニッと笑ったのと、リーが扉をあけて「こんなとこにいたのか」と話しかけてきたのはほぼ同時だった。

**

9月2日の朝からホグワーツは大忙しだった。
9月1日の夜は新入生歓迎会が行われ、新たなグリフィンドール生を迎えながらも久しぶりの級友たちとの会話を楽し‥むはずだった。
しかし現実はそれとは程遠く、課題が終わっていない双子とリーのために私たち女子3人組はほとんど丸写し覚悟で教えていった。ちなみに終わったのは朝方だと言ってもいい。アンジェリーナはブチギレて羽ペンを折るわ、アリシアは無言で杖を握りながら手と足を組んで3人を見下ろすわでシュール且つ恐ろしい光景が広がっていた。あのフレッドが手に汗を浮かべていたのを見るのは初めてのことだった。
そんな朝から始まり、課題の終わった景気付けにとばかりに双子とリーによる連続長々花火があちこちでバンバン鳴り響き、マクゴナガル先生とパーシーによるお説教が轟いた時点でまだ朝ごはんすら食べていないのだから驚きである。

「ふぁあ〜」

先程からあくびが止まらない。今日はどの授業も課題提出や解説なんかを重点的にやっていったので、これといって難しいことがなかったことが救いだった。スネイプの授業があったらきっとシェーマスのように大鍋を爆発させていたかもしれない。
やっと1日の授業が終わったものの、図書館に行く気もしなければ談話室に行くのも憚られた。少し湖のほとりにある木陰で休むことにしよう。

木に凭れながら腰かけ、湖を見つめる。まだまだ残暑が残るものの、サーっと吹き抜けていく風は秋を知らせてくれているかのように爽やかだった。

「サラ」
「ジョージ!」

ふいに名前を呼ばれて振り向き見上げると、そこには大好きなジョージの姿があった。彼はそのまま「ヨッ」と軽やかに私の隣に腰掛けるとポケットから飴玉を差し出してくれた。それをお礼を言って受け取り口に入れる。あぁハチミツの甘い香りが堪らない。

「なんかジョージ久しぶり」
「おいおい。昨日会った男前はどこのどいつだと思ってるんだい?」
「だって昨日は課題課題課題でゆっくり出来る雰囲気じゃなかったじゃない」
「‥悪かったよ」

ジョージはバツの悪そうな顔をして、軽く頬をかいた。その様子がなんだか可笑しくて軽く笑うと、今度は少しだけムッとした表情を見せてくれる。コロコロと表情が変わるのが子どもみたいで可愛い。

あぁジョージが隣にいる。それだけで私の心がこんなに満たされるなんて。

私がそう思っていることが伝わったのか、ジョージは肩を抱いて引き寄せてくれた。ドキッと胸が高鳴ったのは一瞬で、そのあとはドキドキドキドキと心臓の音がやけに煩く全部ジョージに聞こえてしまうかと思うほどだった。

「夏休みさ」
「うん」
「フレッドはアンジェリーナとデートしたみたいでいない日が何日かあってさ、ロニィは論外だけどまぁハリーやグレンジャーが遊びに来てるし、ジニーはハリーに会えてるし‥」
「うん」
「あのパースですらなんかデートしてたみたいで‥」
「‥ジョージ?」

なんだかうんうんと相槌を打っていると愚痴めいた言葉が出てきている。いつものジョージらしくなくてどうしたんだろうと彼の顔を覗き込むと、目線を斜め上にしたままなんだか怒っているような照れているようななんともつかみ所のない顔をしていた。

つまり、ジョージも寂しかったと言いたいのだろうか。自惚れかなと思ったけど、だんだんと耳まで赤くなっているのを見たらそうでもないのかもしれない。

「ジョージ、もしかして寂しかったって言いたい?」

私がそう言うと彼は覗き込む私の目を一瞬だけ見て、またふいっと視線を外した。少し口が尖ったようにして「サラは違ったのか?」と小さな声で言ってくる。あぁなんて可愛いんだろう。

「寂しかったに決まってるじゃない」
「本当に?」
「うん」
「絶対?」
「うん」
「嘘じゃない?」
「うん」
「じゃぁキスして」
「うん‥ん?」

軽快なやり取りの後に続く言葉を耳にし、何言ってるのと思って湖の方に向けていた顔を再度ジョージの方に向き直るとそのままキスをされた。
間近にジョージの顔がある。少し伸びた赤毛が顔にかかってこそばゆい。
唇はすぐに離れた。固まったままでいる私を見てジョージがニッと口角を上げたのが分かった。

「ハチミツの味がした」
「‥だって飴まだ残ってるもん」
「じゃぁ頂戴、それ」

そう言うや否やまたジョージの唇が戻ってきた。今度は私も目を閉じてきちんと応える。会えなかった分の寂しさを埋めるように、ジョージは何度も何度も角度を変えてキスをくれる。いつのまにか舌で器用に飴玉を取られたことに気づいた時にはすっかり息が上がってしまっていた。

「‥あげるって私言ってない」
「嫌だとも言ってないよ」

なにそれ。すごい理不尽。
だけど、それすら嬉しいと感じてしまっている自分がいるのだから怒る気にはなれない。

ジョージは私の頭にコツンと自分の頭を軽く乗せて湖を見る。夕焼けの空の色が湖にも映ってキラキラと輝いているのが見えた。なんて綺麗なんだろう。フランスに行った時にも同じような景色を見ることがあっだけれど、その時よりも今のこの景色の方が何倍も素敵だ。
もうそろそろディナーの時間になるだろう。2人で居られる時間は残り僅かだ。

「ねぇジョージ」
「なんだい?」

そう問うジョージの顔を見ようと少しだけ頭をずらす。するとジョージもどうした?と顔に書きながらこちらを見たので、お返しとばかりにキスをした。

「え‥」

一瞬だけ固まったジョージを見て自分のしてしまったことの重大さに気づいた。ちょっと大袈裟な表現だけど、あながち間違いではない。キスなら付き合ってから何度もしたけれど、それは全てジョージからの贈り物だったからだ。
ジョージも私からのキスが初めてということにきっと気づいている。口元に手を当てて、目を瞬何度も瞬かせて思考はどこか別の場所で取り込み中のようだ。

「ジョージが言ったんだよ」
「‥なんて?」
「じゃぁキスしてって」
「覚えてるよ」
「満足した?」
「全然」
「えー」
「もっと欲しい」
「贅沢だなあ」
「サラは?」

もう満足したのかい?
そんなこと聞かれても普段の私なら絶対にそうだなんて言わない。だけど、今日は熱に浮かされてたらしい。気づいたら「そんなわけないよ」と、「まだまだ全然足りないよ」とそんな言葉を口走っていた。

私のその言葉とは裏腹にジョージはとても満足そうな顔をした。そうかと思うと、今度はまた私の肩を少しだけ引いて「贅沢だなぁ」と言った。
反論しようと顔を上げた時にジョージからのキスが降ってくるかもしれないのはなんとなく分かっていた。
もちろん、ジョージはお約束のようにそれをくれた。

「‥ねぇもっと欲しい」
「了解、お姫様」

贅沢だと言われても良い。
私は私が思う以上にジョージのことを欲していたんだと、ジョージからのキスを貰いながら頭の片隅でそんなことを考えていた。
会えなくて寂しかった心を、どうか貴方で満たさせて。


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9月1日にあなたに会えて
9月2日にあなたに触れて