人生でこんなにも起きていたことは初めてである。意外と眠眠打破に頼らなくても起きてられるんだなと思ったのも束の間、もう限界。果てしなく限界。もう無理。なんであいつあんなにも飄々としてんの。やっぱ人間やめてんの?サイボーグかなにか?あぁ目の前に花が見えてきた。どうしよ、これ絶対やばいやつじゃん。目がチカチカする。あー眠い。ガチで眠い。もう木の上だろうと地面の上だろうとどこでも良いから早く寝たい。ってか目が8割閉じかかってる私、自分で言うのもアレだけどもはや使い物になる?ならんよね?もう寝ちゃおうかな。キルア氏見失ったら、その時はその時だ。いくら探すの大変って言っても所詮はこの島だけの話で、暗黒大陸からジャポンまでのどこかにいるよ☆みたいな果てのないかくれんぼじゃないし。要するに見失ってから考えたら良い。これがメンチ先輩の試験なら血反吐吐いてもやるしかないって思うけど、なんせリッポーさんだもん。別にどうでも良い。あの人の顔にだったら泥でも何でも塗ってやる。ああもう本当にどうでもよくなってきた。おやすみ世界。私はもう限界です。よくやったよ私。褒めてあげるよ私。へっぽこなりによく頑張ったよ。よし!おやすーーー

「なぁ」
「ーーみなさいって、うわぁ!!!」
「?」
「いきなり目の前に現れないでください!!あーもうびっくりした!」
「あーワリ!」

う、うぜぇ。なんだその全く悪びれてない謝罪は。もはや謝罪かそれ。気持ち0パーセントの謝罪なんてしない方がマシなんだけど。

「こんなとこで寝んなよなー。お前鈍臭そうだし落ちても知らねーぜ?」
「‥‥‥」
「なー聞いてる?」
「聞いとるわ!!そんな心配するくらいならさっさと私のためにお前が寝ろや!!」
「‥‥‥」

おっといけない。気持ちが先走りすぎてつい本音が。
眠気マックスの私の理性はとうに死んでいる。言葉遣い云々なんて気にしていられない。一刻を争う事態に私はイライラしてるのかどうしたいのか分からず思わずパニックになって涙が出そうになってしまった。

キルア氏はそんな私を見て心底呆れたのか、深く深くため息を吐いた。そんな姿を見ると更に追い討ちをかけられたような気分になる。本当にやめてくれ。

「ほらよ」

けれど、キルア氏はそんな私の気持ちなんて露ほども知らないはずなのに、自身が大きな木に凭れて座るとその隣をトントン叩きながら声をかけてきた。
ん?座れってこと?

「生憎俺は寝なくても平気なんだよ。お前も気づいてるだろうけど、誰かにつけられてるような状況でおちおち爆睡できるほど呑気でもない。でもお前は俺が寝ないと立場上寝られねーんだろ?だったら俺はここに居るからお前は隣で寝てろよ」

それなら俺が起きててもお前は寝れるだろ、彼はそう言ってまたも自分の隣をトントンと叩いた。

「‥‥‥」

失礼だけど、これはキルア氏の皮を被った赤の他人では?
私が訝しげな視線を投げると、キルア氏は不機嫌そうに「嫌なら別に良いんだぜ?」と言って立ちあがろうとした、のを全力で押し戻した。

「待って待って!!嘘!嫌なわけない!そんなわけないです!!なんてゆーかあなたのおっしゃったことが神様すぎて!棚からぼたもちすぎて!あ、今のは言葉のあやね。まぁなんにせよ、思考が追いつかなかったと言いますか、私なんかの浅慮な頭ではあなたの優しさが上手く受け止めきれなかったと言いますか‥!!」
「‥‥‥」
「と、とにかく!ささ!早くお座りくださいませ!!」

もう必死だった。藁にもすがる思いだった。ここから真夜中のお散歩になんて持ち込まれたら睡眠不足で絶対死ぬ。ハンターなんて仕事に保険なんてまぁあるわけなくて、労災なんて言葉は以ての外だ。死んだらそれでおしまい。ネテロ会長は少しくらいなら悲しんでくれるかもだけど、まぁでも「死んでしもうたか。残念じゃの〜」とか心にもない事言われて誰かと合葬されて終了だ。パリストンさんに至っては笑い飛ばしそう。そんなの絶対嫌だ。
はぁ。
もう一体誰、こんなに優しく神様なキルア氏を生意気だとか言った奴。

「お前ってさ」
「はい!」
「ゴン以上に変な奴だな」
「‥‥‥」

耐えろ、サラ。これはキルア氏にとって最大の賛辞かもしれないじゃないか。私を寝かせようとしてくれてるのは誰?優しい声をかけてくれたのは誰?
目の前の彼は神様、そう神様!

「でもハンターの素質っていうの?それは絶対にゴン以下」
「ああ?!」

はっとした時にはもう遅かった。立て膝で座るキルア氏は立てた右膝の上に右腕を乗せて、そのまま顔を下にしながらまた肩を震わせている。あぁやられた。

**

試験管補佐の女に声をかけたのは気まぐれだった。コロコロ表情が変わるのも、鈍臭い場面が多いのも、総じて言うならば面白かった。ゴンといる時とまた違う面白さ、なんてゆーかくだらないけど笑えてしまうアニメみたいな感じ。そう、それだ。

「ほんとおもしれーくらいに乗せられるよな、お前」
「年上の女性にそんなこと言うの失礼にも程があると思いますけど」
「そんな変わらねーだろ?」
「10代の3歳差は変わる!天と地くらいの差がある!」
「え、お前14?‥見えねー!」
「あぁん!?」

これはもうほとんど素の自分を出してい流に違いない。最初のツンツンした感じからは想像できないくらいの砕けよう。って言っても打ち解けんの早すぎだけど。ゴンといいコイツといい、他人のことをもう少し疑えよ。
しっかし14ってマジか。身近な14歳なんて居ないから知らないけど、もう少し落ち着いてても良いんじゃないのか。しかもハンターだろ?大丈夫かよ。

女はドスンと俺の隣に座った。どうやら本気で眠いらしく、そこは素直に俺の提案に従うようだ。

「キルア氏」
「?」
「移動する時は殴ってでも起こして下さい」
「‥はいはい」

女は目を閉じるとものの3秒で寝落ちした。
あ、あり得ねー。どんだけ呑気なんだよコイツ。
別にこいつが寝ようが死のうがどうでもいいけど、ハンターのくせに弱いし、弱いくせに呑気で単純だし、なんてゆーか色々とちぐはぐすぎて人ごとなのに心配になってきた。

俺をずっとつけてきてる奴は気配も消せない雑魚だし、まぁコイツを叩き起こすほどの何かは今のところ無いだろう。
空を見上げると月明かりが綺麗だった。

コツンと肩に少しだけ重みがかかる。
「だから‥」
呑気にも程があるだろって。
出かかった言葉は口から出ることはなかった。
月明かりに照らされた寝顔はなんの疑いも知らないような、なんていうか邪気なんて一切無いような、そんなひどく純粋無垢な顔をしていたから。

別に振り払っても良かったけど、なんだかそんな気は起こらなかった。重くはないし。
変なの。
こいつも大概だけど、それを受け入れてしまってる俺も‥相当だ。