from:ゴン
title:9月1日、ヨークシンシティで!
久しぶりに会おうよ
「ヨークシンかぁ‥」
仕事が終わって家に着き、今朝ベッドの上に忘れてしまったプライベート用のスマホを見ると一件のメールが届いていた。送り主の名前に懐かしさを感じて思わず目を細める。過酷なハンター試験で知り合い、それからも数々の冒険や体験を共にした彼らとはここ最近全くと言っていい程顔を合わせていなかった。
「今まさにそこにいるんだけど」
長くそびえ立つビル街の中にある憩いの場、ベランダからはそんなデイロード公園が見えるマンションの一室に私は住んでいる。もちろんここに居ることは仲間の誰にも教えていない。
ボフン!と音が鳴るような勢いでベッドに倒れこむと、指が液晶にあたってしまったようで画面が受信メールの一覧に戻ってしまった。そこに表示されていた懐かしい名前はゴンだけではない。
「キルア‥」
ほんの2日前のことだ。彼からも同じようなメールが届いていた。
from:キルア
title:久しぶり
今度ゴン達と会おうってことになった。9月1日にヨークシンシティ。名前も来いよな
再度開いて見ても、懐かしさとよく分からない気持ちが入り混じって苦しくなる。なぜだか涙が出そうになった。この気持ちの名前はなんというのだろう。上手く言葉にできないけど、心臓を掴まれたような、嬉しい気持ちとよく分からない焦りが混じったような感覚が全身を襲う。キルア、という文字を見ただけでも、自分がどれほど彼を欲しているのか嫌でも気付かされた。
返信ボタンを押し、文字を打とうとする。けれど、何と打てばいいのか分からない。「分かった。行くね」それだけでも良いはずなのに、もっと他に何か言えないだろうかと考えて考えて、結局諦めてしまう。そんなことをこの二日間で何度しただろうか。
遅れれば遅れるほど返事がしにくくなる一方なのに、頭ではそれが分かっているのになかなか行動に移せない。石橋も叩きすぎると割れるだろうに、一体全体私は何をやってるんだろう。
「はぁ‥」
窓から覗く空はここ数日の間にいつのまにか高くなっていて、雲の形もどんどんと夏のそれに近づいている。私の気持ちとは裏腹にどこまでも澄んだ青と白のコントラストが眩しい。
この日も結局、返事は返せなかった。
そんな夏の始まり。
**
from:ゴン
title:No title
出口で待ってる!
飛行船から降りると蝉の鳴き声がそこら中から聞こえてきて、あぁ夏になったんだなと気付かされた。そういや日差しもバカみたいにきつい。少し空を見上げると、青い空に白い雲がくっきりと浮かんでいて、まるで1つの絵画のようだった。
「おーい!キルアー!」
ゴンと最後に会ったのはいつだったか。
あいつが大怪我してそれを治して、アルカと旅を始めたあたりが最後、かな。
メールや電話で近況報告し合ってはいたが、いざ顔を合わせることはなかった。こちらに向かって大きく手を振る親友に、俺は軽く片手を上げて応えてみせる。それなりにお互いいい年になったというのに、キラキラと満面の笑みを見せて手を大きく振る姿は出会った頃となんら変わっていないみたいだ。
「久しぶりだね!元気だった?」
「おー。ゴンは‥うん元気そうだな。ってか背高くなったんじゃね?」
「うん!キルアもね。けどそれ以外はあんまり変わらないね」
「お前がそれ言うかよ。ゴンほど良くも悪くも変わってねー奴いねぇだろ」
「あはは!確かに!」
会ってない時間がまるで嘘のように会話が弾む。
あぁいいな、この感じ。
普段なら照れ臭くて思うことすら憚られるけど、久しぶりの再会にテンションが上がったのだろう。素直にそう感じることができた。
「で?他の奴らと待ち合わせした日にちよりだいぶ前に誘い出した理由は?」
「んーなんとなく。キルアに1番に会いたいなぁって思ってさ」
「んな‥っ!そういうこと言うなってば!ハズいだろ!」
「もー相変わらず照れ屋なんだね、キルア」
「うっせー!」
誰のせいだ誰の!
本当にこいつはこんなところまで相変わらずだ。世間一般では俺たちは思春期真っ只中だろうに、こいつには照れも恥もないのだろうか。
「まぁたっぷり時間もあるしさ、まずは聞かせてよ!キルアとアルカの旅や今までのこと!」
「あぁ。いいぜ」
「じゃぁ朝ごはんも兼ねて高台にあるここのカフェ行こうよ」
そう言ってスマホに表示されたカフェ(名前はアルカンシエルというらしい)の地図を見る。ふーん、なるほどな。
俺が地図を少し見ただけですぐに覚えることをゴンは知ってる。連れてけってことかと思ってゴンを見ると、こいつはニッと白い歯を見せて笑った。
「ってことで、競争ね!」
「は?!あ、おい!待てよゴン!」
言うが早いか、ゴンは勢いよく走り出した。しょうがねえなぁといった気持ちでゴンに続く。
目当てのカフェは飛行場からは少し離れているけれど、今は朝の通勤ラッシュが少しピークを過ぎたところだろう。俺たちならタクシーを拾うより走った方が早い。
四年前よりもまた更に速くなった友人の背中をしばらく追っていたが、負けず嫌いに火がついた俺はカフェが見えてきたあたりで少しばかり手にオーラの電気を纏う。
「あだっ!!」
「へっへーん!俺の勝ち」
「ずるいやキルア!念使うなんて!」
「使っちゃダメだなんて言ってなかっただろー」
「そんなの屁理屈だ!」
「念っつっても静電気くらいのもんだっただろ?スタートが同じじゃなかったんだし、これくらいのハンデありだって」
「そうかなぁ‥」
ゴンはそれでも納得いかない目をして「でもずるいと思う」と言っていた。もう一回やろ!と渋るゴンを軽く流し、カフェの扉を開く。カランカランとアンティークな音を奏でて、その後を「いらっしゃいませー」とどこか抜けた店員のお決まりの挨拶が続いた。
「ほら、入るぞ」
そう言ってゴンを手招きしようと振り返る。このカフェは高台にあるから都会の中でも空が見えやすい。空の青さに思わず息を飲む。雲の白さは空港で見た時よりもはっきりとしていた。