「カリニアフォルシティの鰐の保護か。やっぱお前ってオヤジさんと似てるんだろうな」
「うん、ジンも遺跡とか絶滅危惧種の保護をやってるって聞いた時、俺もしたいって思ったんだ」
「まぁクジラ島で慣れてるだろうし、それって天職ってやつじゃねーの?」
「あはは、そうだと嬉しいなあ」
他愛もない話をしながらテーブルの皿にどんどん手をつけていく。テーブルに並べられた、朝ごはんというには少し重たいメニューの数々も俺たちの手にかかればあっという間に胃袋に入っていった。
「キルアは主にどの辺りに行ったの?」
「ん?俺は治安の良い地域を選んで観光メインでやってたな。あ、そういやジャポンにも行ったぜ?チャイネとかさ」
「うわー!本当?俺まだ行ったことないや!」
「ハンゾーに連絡して穴場スポットとか教えてもらってさ」
「羨ましいなぁ。アルカも喜んだよねきっと!」
「あぁ」
アルカとは一通り観光メインでやってる国や地域には回って、たまに天空闘技場みたいなところで稼いでの繰り返しを2年近くやっていた。といっても、アルカは一般人のこどもとなんら変わらないから稼いでいたのは俺だけど。それでも勝ってから与えられた部屋に戻った時のアルカの喜びようは凄くって、俺もそんなアルカに癒されていた。兄妹2人の旅はなかなかに良いものだった。
それから旅が一通り終わりに差し掛かった辺りでアルカは唐突に家に帰ると言い出した。当初はイル兄に操作されたのかとも思ったけど、どうやらそれは杞憂に終わり自分の意思で帰ることにしたという。あの家ではだいぶ心配だったけど、オヤジにアルカに危害を加えないことと自由にしてやることを約束させて家に帰した。そして今に至る。
「あ、そういやコルト共和国に行った時にビスケに会ったぜ」
「え!ほんと?」
「あぁ。珍しい石が見つかったとかなんとか。これその時にもらった石の1つでさ、ビスケ曰くけっこう価値は高いらしい」
「へー。綺麗な石だね。俺には石のことはサッパリだけど」
「だよな。俺もそう。まぁ色とか形とかけっこう気に入ったから穴開けてネックレスにしたんだ。たまたま近くに革紐売ってる店もあったし」
「そっか。そういやこれキルアの髪の色と同じだね。似合ってるよ」
「おぉ‥ありがとな」
本当に照れもしないで似合ってるとかよく言えるな。悪い気はしないけど。ゴンはその石をじっと眺めてから礼を言って返してくれた。
「俺もまたキルアと一緒に旅したいなあ」
「そうだな」
「それにクラピカ、レオリオ、名前とも!なんかハンター試験が懐かしいや」
「そう、だな」
そういえば名前と最後に会ったのも、ゴンと同じだった。
俺がアルカを迎えに行っている時、死にかけたゴンの側でずっと命を繋いでくれていたのが他でもない名前だった。名前がいてくれなかったら例え俺が最速でアルカを連れて戻っていたとしても、ゴンは手遅れだっただろう。俺が家に行く前に「キルアを信じる」と言ったアイツの言葉は未だに耳に残っている。ゴンはもちろん、アルカも助けてやりたい一心で必死に家の連中から逃げていたけど、名前を裏切りたくない思いが胸の中で実は1番強かったのを覚えている。
「9月1日に会えるのが待ち遠しいや」
「あぁ」
アルカと旅を始めると決意した時、1番にそのことを話したのは実は名前だった。そして、一緒に行こうとも。
「そういえばキルア、名前と連絡とってる?」
「‥は?」
「だから、名前と連絡とってる?」
「あぁ‥いや、取ってない」
というか、実際は取れていないが正しい。この間それとなく9月1日に集合する旨をメールで送ったけれど、返事はまだだった。というより、別れてから今の今まで連絡1つ取れていない。調べ尽くしたら簡単だけど、あいつが生きてるのか死んでるのかさえ今は分からなかった。
「え!キルア、もしかして名前と全く会ってないの?」
「まぁ、な」
「ふーん。なんか意外だね」
「‥どういう意味だよ」
「だってキルアあんなに名前のこと好きだったじゃん」
ぶはっ、と勢いよく飲んでいたメロンソーダが吹き飛んだ。テーブルはもちろん椅子にまで飛んでいる。いやそれくらい許してほしい。何突拍子も無いこと言ってんだこいつは!
「な、な、な」
「え?違った?」
「いや、違うとかそん‥ってか何言ってんだ!」
「天空闘技場に居てた頃とか、しょっちゅう名前のこと気にしてたしずっと見てたじゃん」
「‥‥‥」
「俺キルアは絶対に名前のことが好きなんだって思ってた」
もはや何も言えなかった。ゴンの言っている「見てた」がどのことを指しているのか全然覚えはないけれど、絶対に違うとも言い切れない。俺が名前への気持ちに気付いたのもちょうどその頃だったし、無意識に名前のことを見ていた可能性もある。そしてその可能性は、大。
「俺はキルアと別れてからクジラ島に1回帰ったけど、名前はキルアとアルカと一緒に旅するもんだと思ってたからさ。別れて1ヶ月くらいしてからキルアにメールした事あったでしょ?あの時に名前と一緒じゃ無いって聞いてビックリしたよ」
「あ、あぁ‥そんなことあったな」
吹きこぼしたメロンソーダを拭いながら思い出した。アルカと旅をしているのにふとした時に名前のことを思い出して、鳴らない携帯電話に対してイラついてた頃だ。やっと鳴ったメールの着信音にすぐさま反応して開いてみたら(ゴンには悪いけど)表示された名前がゴンだったので内心かなり落ち込んだのを覚えている。
「名前、元気かな」
「元気にしてんじゃね?きっと」
「9月1日名前も来られたらいいけど」
「そう、だな」
「俺メール送ったんだけど、返事きてないんだ」
「え、まじ?」
「うん」
ゴンにも返事がきていない。俺だけが避けられているのかと思っていたけど、そうじゃないらしい。いやこれは本当に生きてるのか死んでるのかわからなくなってきた。あの名前が、俺はともかくゴンにさえ返事を返さないなんて。
「あ」
「お」
ちょうどその時だった。ピコポン!とメールの着信音が2人同時に鳴ったのは。
すぐさまスマホを確認する。メールの送り主はたった今話題に上がっていた名前だった。
from:名前
title:遅れてごめん
9月1日、なるべく行けるようにするね
あんなに待たせといて「行く」と断言しない辺りが名前らしいといえば名前らしい。
懐かしい名前が表示されたその部分を親指で軽く撫でる。忘れかけていた気持ちが再び熱を持ちそうで変に胸が苦しかった。
「名前からだったよ。9月1日行けたら行くってさ」
「俺も名前からだった」
「なんて?」
「なるべく行けるようにするってさ。相変わらず勝手な奴だな」
「もうキルアはー。そんなこと言って嬉しいって顔に書いてるよ」
「は?!んなわけねーだろ!」
本当にこいつはいつもいつも突拍子も無いことを言う。
「来られたいいね、名前」
「‥‥そうだな」
そう言ってメールのアプリを閉じてスマホをOFFにする。そのままポケットに終おうとした時にまたもメールの着信音が鳴った。それはゴンがトイレに行くと言って席を立ったのとほとんど同時だった。ゴンには「おー」と軽く返事をし、終いかけたスマホを再度開く。送り主はまたも名前だった。
from:名前
title:No title
誘ってくれてありがとう。
会えるのを楽しみにしてるね。
「‥‥‥」
トイレに立った時、ゴンはスマホをテーブルの上に置いていった。チラリとそれを見やるとどうやらゴンには届いていないらしい。
To:名前
title:No title
絶対来いよ
もっと気の利いた言葉もあるんだろうけど、それを考える気にはなれなかった。
4年間俺がたまに送ったメールやら着信やらことごとく無視しやがって。今もこんなメール1つ返すのに何日かけてんだ。
そうは思ったが、俺だけに送られたという事実に内心嬉しいと思っている自分がいることも確かだ。
「‥ほんと、勝手な奴」
それはきっとお互い様だ。