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「お前ら、俺の仕事に付き合えよ」

「は?」
「仕事?」
「そうだ。と言っても内容は前と変わらねぇ。お前たちが話してたオーラ?だったか?あれでこの競売市のお宝を探り出してくれ」

いきなり何を言いだすかと思いきや、要は凝で物のオーラを見て回れってことだった。そのくらい朝飯前だがそんなこと俺らに頼むってことはつまり、

「なぁもしかしてハンター試験まだ受かってねぇの?」

ゼパイルの肩が大袈裟なくらいに飛び跳ねた。図星かよ。

「そうだ!けど俺には向いてねぇと思ってだな、自ら手を引いたんだ」
「だから何だよ。俺と一緒に受けた時はまぁ仕方ないにしても、それから5年くらい経ってんだぜ?いくらなんでも受かるだろフツー」
「お前な‥!俺はお前らと違ってフツーの人間なんだよ」
「俺も?!」
「人を化け物みたいに言うな」

「そんなこと今はどうでも良いんだよ」と舌打ちしているゼパイルを無視し、俺とゴンは何の気なしに互いに見合った。
ゴンがあからさまにどうする?と目で言っている。
普段なら全く気乗りしないけれど、やらなきゃならないことも今は無いし、何より今日はなんだか気分が良い。
俺はニッと広角を上げて右手をゼパイルに差し出した。

「分かった。その代わり換金したらその半分は俺たちの取り分としてきっちり貰うぜ?」
「‥やっぱお前可愛くねぇな」
「どうも」

ゼパイルが勢いよく俺の右手を掴んだ。
その横からゴンが「それじゃゼパイルさんに悪いよ」と遠慮がちに伝えてくる。本当にこいつは相変わらず甘ちゃんだな。ビジネスのことを何も分かっちゃいない。数字に弱いゴンのことだから仕方ないのかもしれないが、ゼパイルが仕事として話をしてきた以上、値段交渉はきっちりしておかなければならない。これは家族間でもそうであったように、謂わば習慣だった。

「まぁそれでいいさ」と目を瞑りながらため息混じりに話すゼパイルに、問答無用でさらにニヤリと笑うと、とてつもなく嫌そうな顔をされた。

「じゃぁ俺はこっちを探すからキルアは元来た道の方をお願いね。ゼパイルさんは?」
「俺はとりあえず先に見繕ったこいつらを換金してくる。オークションに出せる程でも無いしな。どれくらい時間がかかるか分からねぇからお前たちだけで頼めるか?」
「いいぜ。まぁ期待してなよ」
「それじゃぁゼパイルさんは換金が終わったら連絡してね。キルア、俺たちは15時にここに集合ね」
「おー」

「お前ら、頼んだぜ!」

ゼパイルはにかっと笑って左手の親指をあげながら、足取り軽く換金所があるだろう方向に向かって歩いていった。俺たちも顔を見合わせて1つ頷き、互いに別の方向に進んでいく。

さて、凝をしたままどれくらい保っていられるか。
久しぶりにやってみるか。

**

あー食べた食べた。お腹が満たされると心まで満たされるのはなんでかな。
あんなものでも返せなかった返事をやっと返せて、ほんの少し肩の荷が下りたのかもしれない。それはちょっと大袈裟だけど、でもなんだか気持ちが晴れ晴れとしていた。

カフェから中心街まで向かうにはなだらかな坂道を下りていかなければいけない。バスもあるけど今日はなんだか歩きたい気分だった。夏の日差しが照りつけてくるけど、並木道で空を仰げば日差しを受けてキラキラと輝く木々の姿や木漏れ日の淡い光を見るのが私は大好きなのだ。ヨークシンの中心街はあまり好きではないけれど、ここ都会のオアシスはお気に入りの場所である。

15分ほど歩けば先ほどの静けさが嘘のように、人や車や物の喧騒で賑わう大都会が現れる。6年前幻影旅団に壊滅的被害を受けたここヨークシンも、復興が進み当時よりもセキュリティ強化がより一層施された高層ビルが立ち並ぶようになった。

今日は少しハイブランドのブティックで仕事用のドレスを見繕っておこう。特にこれといった仕事に就いているわけではないけど、たまに護衛や同伴者の依頼を受けることもある。今までは借りることがほとんどだったけれど、もうそろそろ3、4着ほどは自身のドレスを持っておきたいと思っていたところだった。

「といってもやはりハイブランドは敷居が高い‥」

BUCCIの前にたどり着きよく磨かれたお店のショーウィンドウに映る自分の姿をまじまじと見る。よくよく考えると今の格好はとてつもなくカジュアルでとてもじゃないけどハイブランドのお店に行けるような格好では無い。

「ありがとさん、今知り合いに目利きの仕事を頼んでんだ。また今日かもしくは近々こっちに寄らせてもらう。その時は良い値で頼んだぜ」

少しため息をついた時にふと懐かしい声が聞こえてきた。ハイブランド通りから中に入った裏通り、通称換金街からだった。懐かしいといっても聞いたことがあるという程度だと思う。思い出そうとしても思い出せない。だけど、なんだか妙に気になった。
その通り沿いをチラリと覗いてみる。

野太い眉に針みたいにピンと張ったもみあげ。豪快な立ち居振る舞い。あーあれは確か‥ゼニールさんだったはず。

「じゃ、また来るぜ!」
「おいゼパイル!これ忘れてるぞ」
「おう!ありがとな!」

うん、ゼパイルさんだった。そういやいたね、そんなキャラ。教えてくれてありがとう店主さん。そうだよね、ゼパイルだよね。ゼニールって誰。当たらずも遠からずと思いたいけど、ゼニールって‥。
かっかっかーと豪快に笑い飛ばしながら忘れ物したであろう何かの袋をゼパイルさんは受け取った。
ゼパイルさんゼパイルさん。うん覚えた。私はなんて間違いをしていたんだろう。でも待って。別にあの人の名前間違えようが顔忘れてようが今後の私の人生になんら差し支えないよね。連絡取ってないどころか連絡先すら知らないのに。

ゼパイルさんはこちらではなく、換金街の通りを歩いてどこかへ行くようだった。思わず絶をしてそのまま後をつける。
ここからでは背格好しか見えないけれど、6年前も私はゴンとゼパイルさんの後ろを歩いていたから、この人の後ろ姿はなんとなく記憶に残っていたようでじわじわと当時のことを思い出してきた。
6年も経ったのにゼパイルさんはなんら変わり映えしていないようだった。

それから彼は競売市の方に出て、誰かに電話をかけた。そっとそのまま近づいていく。途中絶をしていることで通行人が私に気づかずぶつかりそうに何度かなりながらも話し声の聞こえる場所まで近づけた。というよりなんでこんなにコソコソしないといけないんだろう。

「おう、じゃぁ競売市の外れにリトルボーイって名前のファミレスがあるんだ。そこに集合しようぜ、ゴン」

彼はそう言うと通話を切った。そこまでは良い。そこまでは。
彼は切る直前に「ゴン」と言わなかっただろうか。
ゴン、ゴン、ゴン。
決してありふれた名前ではない。そして、それは彼と私の共通の知人の名前でもあった。

もしかしてーーゴン?

考えるが早いか、私は元来た道を一目散に駆けていた。駆け出し当初女性2人にぶつかってしまったのは覚えているけれど、それ以降はあまり覚えていない。気づいた時にはマンションのオートロックを解除していた。私何やってるんだろう。ゼパイルさんに見つかったとしても、彼の電話口の相手が私の知っているゴンであったとしても、コソコソと逃げる必要なんて無いはずだ。何をやましいことがあるというのだろうか。

だけど、私は気づいている。ここまで焦って駆け出してきた割には頭は不思議と冷静みたいだ。

私はきっと怖いんだ。ゴンがこんなところにいるということは恐らくきっと、いやそれは必ずといってもいいほどにキルアがいる。そうキルアが近くにいるんだ。
散々連絡を蔑ろにして今更どんな顔して会えばいいのか分からない。
あんな返事をしておきながら、会うのが怖いだとかどこまで自分は勝手で矛盾しているんだろう。

ガチャガチャとやけに鳴り響く音が煩わしい。
部屋の扉を開けるのがこんなにも難しいと思ったことはない。鍵穴に鍵がなかなか入らない。

あぁ、もう‥!

会いたくないわけではない。それでも今はなぜか見つかりたくはなかった。
鍵がやっと入ったと思った時には急いで玄関を開けて部屋の中に入っていた後だった。