夏の終わりー前ー


初めてソイツに会ったのは、一年に転校生が来たと聞いてから三日後の授業の終わったばかりの二年の教室だった。

「硝子センパーイ!」

バタバタと廊下を走る音が聞こえた後に何の迷いもなく勢いよく教室の引き戸が開かれた。そこに立っていたのが金髪の耳にピアスを引くほど付けた女だったので、隣の傑も驚いて目を見開いていた。


「見て〜!これ七海にやられたの〜!マジであいつ手加減しないし!治してください〜!」

見て、と自分の左頬を硝子に向けるソイツは俺たちの事を見えていないのか気にしていないのか、素通りで窓際の硝子の席に縋り付いている。え、ちょっと待って、コイツが噂の?

「あー顔は可哀想だね、すぐ治すからねー」

待て、硝子待て。そんな平然と犬をあやすみたいな態度で話を続けるな。こっちは状況を掴めずに呆然としてるんだぞ。

「ん?あ!もしかして!」

傷自体は深いものではなくほんの一瞬で治った様だ。まああの七海が女相手に本気を出すなんてあり得ないのだけれど。ってそうじゃない。呑気にすごーい流石硝子センパーイ、と言っていたソイツはこちらに顔を向けて何も喋らない二人の男を見てあ!と声を上げて立ち上がった。

「五条先輩と夏油先輩ですよね!初めまして〜苗字名前でーす。お二人のことは色んな人に聞いてますよ〜」

ヘラヘラ、そう本当にヘラヘラと挨拶をするソイツ。口を開いたときにきらりと何かが反射した、ピアスか?
傑はすぐに「よろしくね」と愛想のいい笑みを浮かべてソイツを見ている。何この空気。

「てかマジ二人ともイケメンじゃん!硝子先輩ヤバいね!二年の先輩って美男美女の集まりじゃん。ヤバ〜!」

コイツ、アホなのか?こんな奴が術師とか無理じゃね?

「名前気をつけてね、コイツら実力は確かだけど、クズだから」

おい。

「マジ?ちょーウケる。でもまぁイケメンって大体性格クズですもんね」

おいおい。お前ら本当いい加減にしろよ。
傑も黙ってないで何とか言えよ。

「...まぁ、違うとも言えないかな」

クックッと肩を震わせている傑に「ガチじゃん!やば〜ウケる〜」と笑っている苗字も、何もウケねぇよ。硝子まで笑っている。なんなの本当コイツ...



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