01
莉子は集団ポストの中から、二○二、とラベルの張られたポストを開く。冷たい鉄の感触と、乾いた空気が莉子の手を撫でた。
莉子はそんな感触を無視し、中に入っている物を一つずつ取り出すと、それの詳細を確認した。電気料金の請求書、今月のクレジットカードの明細、茶色の分厚い封筒、そして近所の弁当屋のチラシ。
あまり変わり映えのしないラインナップだった。これだったらこんな深夜にわざざ取りに来る必要も無かっただろうか。莉子はエレベーターに昇りつつ、各々を詳細に目を通した。
電気の請求書、カードの明細に関しては普段より少し請求価格が高くなった、ということ以外変わりはない。冬服を買いすぎたというのと、炬燵で度々寝てしまっている、というののせいだろうか。莉子は開封済みの封筒をバッグに押し込み、残りの郵便物へ視線をずらした。弁当屋のチラシは、このチラシを持ってきた人には半額にしますよ、というクーポンのようなもので、ほぼ毎日の料理を自分で賄っている莉子にとっては、縁のないもの、といっても過言ではなかった。
最後に残った分厚い封筒、それは他の三つとは違い、奇妙な所が至る所にあった。まず、差出人の名。普通なら差出人の住所、名前、郵便番号などを書くはずのスペースには、ただ一言『私立藤堂探偵事務所』と書かれており、それ以外は買ったばかりの封筒のように真っ新であった。
直接ポストに投函したのだろうか。莉子はその封筒を嘗め回すように見た。そのとき、ピンポーン、という軽快な音がして、エレベーターが一四階に到着する。莉子ははっとしたように前を向き、エレベーターから脱出する。
莉子は封筒を蛍光灯で照らし、中に何が書いてあるのかを調べようとした。しかし、何かが見えそうになったとき、莉子は家についてしまったのである。カバンから鍵を取り出し、ノブに差し込み、手を右に回す。ガチャリ、と音がした。玄関のドアを開き、靴を脱ぐ。
大きく息を吸い、玄関の直ぐ傍にある自室のベットに莉子は封筒を放り込んだ。今日はもう疲れた。着替えることもせず、自分もその後を追うように飛び込む。ぼさん、という音ののち、莉子は布団に着地した。
枕に顔をうずめつつ、指の先でベットの横に置かれたナイトテーブルに触れる。そしていったん体を起こし、その上に置かれた鋏を手に取ると、封筒の口を切り開いた。
出てきたのは、軽く二十枚は超えているであろう、文字を全て手書きで書かれた大量の便せん、であった。
莉子は目を剥く。
――よく自分が書いた記事について抗議の手紙を送ってくる人間はいるが、ここまで書いた奴は初めてだ。
そんな興味本位で、莉子は手紙を読み始めた。
〔拝啓 週刊文冬 大津莉子様〕
お久しぶりです。大津莉子様。
果たして貴女様は、僕のことを覚えているでしょうか。
僕です。大学のサークル仲間で、あなたの元カレだった、藤堂寿です。
本当に、本当にお久しぶりです。花の葬儀以来だったから……、かれこれ一五年、程になるでしょうか。
僕はあれから一五年、外部とのかかわりを一切立ち、マスコミや警察、周囲の目など……、私の生活を脅かすであろう物への繋がりを絶ったのです。
ではなぜ僕は、今如何様な手紙を、最低最悪のマスコミ、と比喩されている雑誌で記事を書いている貴女に当てているのか、貴女はきっと不思議に思ったでしょう。
実は、折り入って莉子さんにお願いがあるのです。
先日私は、花の遺品を整理し、ふと可笑しなことに気が付いたのです。
それは、私が花にプレゼントしたはずの、婚約指輪がどこにもない、ということであります。
その指輪は木彫りのオーダーメイドで、花の名前が彫ってある、世界にたった一つのもので、花はそれを命の次に大事にし、寝るときと風呂に入るとき、その二つの時以外はどこに行くときも、何をするときも指にはめていました。
それがない。花は自殺した時、指輪を外したのでしょうか、いいえ、花のあの事件について調べてみても、指輪は生前外した、などと言うことは一切供述されず、指輪は何処かに捨てた、と書かれていました。
どういうことか。私は知っているのです。あの自殺した日の朝自殺する直前に、花は確かにその指輪を着けていたのです。
私が家を出たのが八時三十分。その時確かに花は指輪を着けていました。花が自殺したのが八時三十五分。 花はその日、指輪を捨てることは、不可能だったはずです。その日、警察の憶測では、花は私を見送ったのち、遺書を書き綴り、ロープを用意、そしてすぐさま首をつった、らしいのです。
もし何処か遠くの川や、山に指輪を捨てたり、外に出たりしのなら、死亡時刻はもっと遅く、この時刻に死亡することは不可能だというのです。私はそれらの事実から、あることを考えつきました。
もしかしたら花は、死ぬ直前まで誰かと会っていたのではないか、と。
その人物は花を殺し、花の婚約指輪を奪ったのではないか、と。
僕は、それが真実か、それとも僕自身の妄想なのか確かめるため、莉子さんの手を借りたいのです。
莉子さんは、最低最悪の雑誌の、ではありますが、一応雑誌の記者です。警察へ資料を請求したり、一般人が入れないようなところに入る事だって出来るでしょう。
貴女がもし、花の事件の調査に手を貸す、というのなら、下部に住所と電話番号を書き記しておきます。
どうぞ連絡ください。
〔私立藤堂探偵事務所 藤堂勝〕
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