青春グラフィティ
「谷地さんは次何乗りたい?」
「ん〜〜⋯あ、あそこ行ってみたいな!」
日向が問うと仁花は4Dアトラクションを指した。
傍に居た山口も「面白そうだね」と頷き、影山もドキソワしているのが丸わかりで期待感いっぱいの表情だ。
「皆ごめん。私あの手のやつ画面酔いしちゃうから外で待ってるよ」
「そうなの?だったら違うアトラクションに⋯」
「谷地さん、私のことは気にしないで楽しんできて。折角来たんだから乗りたいもの制覇して帰らなくちゃ」
私はそこに座ってるから、と後方のベンチに目配せして念押しすればまだ何か言いたげだった仁花も最終的には笑顔で了承した。
そんな中、もう一人待機を主張する声が。
「僕も今回はパス」
「あれ、ツッキーもこういうの苦手?」
「別に平気だけど。ちょっと疲れたから休憩」
「そっか。じゃあ悪いけど俺達行ってくるね」
4人を見送ってから宣言通りベンチに向かうも、月島は逆方向に歩き出す。どちらかといえば彼は大勢で群れるよりも単独や少人数を好む性質であることは承知しているのであえて引き留める様なことはせず腰を下ろした。
数分後。
俯いてスマホを操作していると突然日差しが遮られ、驚いて顔を上げれば月島がジュースを差し出して立っていた。
「これ⋯私に?」
「そうだけど」
「ありがとう。ちょっと待ってね、今お財布を」
「いいよ別に。僕が勝手に買ってきたんだし」
「じゃあ遠慮なくお言葉に甘えて」
再度お礼を述べてからプルタブを引いた。
ついでにちらりと横を見れば、月島はミルクココアを口にしている。
「月島くんって、実は甘党?」
「⋯だったら何?」
「別に?単純にそうなのかな〜って聞いてみただけ」
他意はないことが伝わったのか、彼の眉間に薄っすら浮かんでいた皴はすぐに消失する。
「甘党ならカフェとかお菓子屋さんとか詳しかったりしない?」
「まぁ⋯気に入ってる店ならいくつか」
「そうなんだ。もしチーズケーキが美味しいお店知ってたら教えて欲しいな、なんて」
「神崎さんはチーズケーキが好きなの?」
「うん。特にベイクドチーズケーキが好き」
「へぇ」
「月島くんの好きなケーキは?」
「僕は苺のショ⋯」
言いかけて、月島ははっと我に返ったように口を噤んで正面に顔を背ける。
「もしかして、ショートケーキって言いかけた?」
「⋯⋯」
月島は無言を貫いているが明らかにその顔は肯定を示していて。
月島に限らず、この世界で関わる人達には要所要所で何かしらの可愛さを憶えてしまうことが多々ある。結果今回も緩んだ表情が隠しきれず、それに気づいた月島から今度は遠慮なしの不機嫌オーラが飛んでくる。
「その“揶揄いたいの必死で我慢してます”みたいな顔、やめて欲しいんだけど?」
「ご、ごめん⋯!そういうつもりはないんだけど月島くんが可愛くて、つい」
「男に向かって『可愛い』は誉め言葉じゃないから」
「分かってるけど、そう力説されると余計に⋯」
真面目に反論してくる姿がまた可愛くて、クスクス笑いが零れて〜の悪循環。ある意味笑い上戸と化してしまった春菜に月島は徐々に呆れモードに。けれどそれで終わらないのが月島蛍という男だ。
「いいよ。キミがそういう態度ならご所望のチーズケーキが美味しい店、教えてあげようと思ったけどやーめた」
フフン、と勝ち誇った顔で宣言する月島。
慌てて謝罪するも当然主導権は月島にあり、余裕綽々にいつもの人を小ばかにした表情で「どうしようかな〜」と口にする。
すると同時にアトラクションを終えた4人が出口から姿を現した。
ふと前方を見遣った影山はベンチにいる二人の姿を捉える。自身と同様、男女問わずお世辞にも社交的とは言えないあの月島が春菜を相手に素の自分で会話しているように見えて。
彼女が臨時マネージャーとして入部して以後も己が知る限り二人はそれほど親しくしている様子はなかったと思う。それなのに、この短時間の間に―――。
気が付くと影山はいつの間にか前を歩く日向達を追い越し、足早にベンチへ近づいていた。
「おい」
影山の声がして春菜と月島はその主へと視線を向ける。
「影山くんお帰りなさい。どうだった?4Dアトラクションは」
「⋯おう。すげー迫力でおもしろかった」
「王様と日向が大声で燥いでるのが目に浮かぶよ」
「んだと月島⋯!」
グワッと影山が食って掛かろうとしたタイミングで他の3人も合流する。
「お待たせツッキー。神崎さんも」
「すみません⋯!長らくお待たせしてしまいまして」
「全然、気にしないで。日向も楽しめた?」
「もうサイッコーだった!」
「それは良かった」
再び全員揃ったところで、日向は早々に園内地図を広げて次はどのエリアに行こうかと山口と話し始めて。そこに加わろうと一歩踏み出そうとしたまさにその時だった。突然背後からくいっと腕を引かれ、何事かと勢いよく後ろを振り返る。
「!? ⋯びっくりしたー。影山くんどうかしたの?」
「お前は何か乗りたいもんはないのか」
「私?」
影山から直接問われ、鞄から自分用の園内地図を取り出してチェックしていく。
「――これなんかどう?グループで行動+銃でゾンビやっつけながら脱出するの」
そう言うと影山も気になったのか、これはどのエリアにあるのかと地図を凝視し始める。すると傍で話を聞いていた月島も口を挟んだ。
「このアトラクション、ゾンビ役の人の演技がリアルでかなり怖いって聞いたことあるけど。女子二人は大丈夫なの?」
「なになにー?!ゾンビやっつけるなんて面白そーじゃん!!」
「ハハ!日向は何でも来いって感じだね」
「ゾ、ゾゾゾゾンビは怖そうだけど皆で一丸となり恐怖を乗り越えての脱出は達成感が半端無さそうですね⋯!?」
「谷地さんは好奇心が勝ったかな?」
「私はホラー好きだし、谷地さんが大丈夫なら行きたいな」
「なら決まりだな」
「よーし!全員で見事生還してみせるぞー!!」
「「「「おーー!!!」」」」
「(一応忠告はしたし、僕はどうなっても知らない)」
2021/03/17
「ん〜〜⋯あ、あそこ行ってみたいな!」
日向が問うと仁花は4Dアトラクションを指した。
傍に居た山口も「面白そうだね」と頷き、影山もドキソワしているのが丸わかりで期待感いっぱいの表情だ。
「皆ごめん。私あの手のやつ画面酔いしちゃうから外で待ってるよ」
「そうなの?だったら違うアトラクションに⋯」
「谷地さん、私のことは気にしないで楽しんできて。折角来たんだから乗りたいもの制覇して帰らなくちゃ」
私はそこに座ってるから、と後方のベンチに目配せして念押しすればまだ何か言いたげだった仁花も最終的には笑顔で了承した。
そんな中、もう一人待機を主張する声が。
「僕も今回はパス」
「あれ、ツッキーもこういうの苦手?」
「別に平気だけど。ちょっと疲れたから休憩」
「そっか。じゃあ悪いけど俺達行ってくるね」
4人を見送ってから宣言通りベンチに向かうも、月島は逆方向に歩き出す。どちらかといえば彼は大勢で群れるよりも単独や少人数を好む性質であることは承知しているのであえて引き留める様なことはせず腰を下ろした。
数分後。
俯いてスマホを操作していると突然日差しが遮られ、驚いて顔を上げれば月島がジュースを差し出して立っていた。
「これ⋯私に?」
「そうだけど」
「ありがとう。ちょっと待ってね、今お財布を」
「いいよ別に。僕が勝手に買ってきたんだし」
「じゃあ遠慮なくお言葉に甘えて」
再度お礼を述べてからプルタブを引いた。
ついでにちらりと横を見れば、月島はミルクココアを口にしている。
「月島くんって、実は甘党?」
「⋯だったら何?」
「別に?単純にそうなのかな〜って聞いてみただけ」
他意はないことが伝わったのか、彼の眉間に薄っすら浮かんでいた皴はすぐに消失する。
「甘党ならカフェとかお菓子屋さんとか詳しかったりしない?」
「まぁ⋯気に入ってる店ならいくつか」
「そうなんだ。もしチーズケーキが美味しいお店知ってたら教えて欲しいな、なんて」
「神崎さんはチーズケーキが好きなの?」
「うん。特にベイクドチーズケーキが好き」
「へぇ」
「月島くんの好きなケーキは?」
「僕は苺のショ⋯」
言いかけて、月島ははっと我に返ったように口を噤んで正面に顔を背ける。
「もしかして、ショートケーキって言いかけた?」
「⋯⋯」
月島は無言を貫いているが明らかにその顔は肯定を示していて。
月島に限らず、この世界で関わる人達には要所要所で何かしらの可愛さを憶えてしまうことが多々ある。結果今回も緩んだ表情が隠しきれず、それに気づいた月島から今度は遠慮なしの不機嫌オーラが飛んでくる。
「その“揶揄いたいの必死で我慢してます”みたいな顔、やめて欲しいんだけど?」
「ご、ごめん⋯!そういうつもりはないんだけど月島くんが可愛くて、つい」
「男に向かって『可愛い』は誉め言葉じゃないから」
「分かってるけど、そう力説されると余計に⋯」
真面目に反論してくる姿がまた可愛くて、クスクス笑いが零れて〜の悪循環。ある意味笑い上戸と化してしまった春菜に月島は徐々に呆れモードに。けれどそれで終わらないのが月島蛍という男だ。
「いいよ。キミがそういう態度ならご所望のチーズケーキが美味しい店、教えてあげようと思ったけどやーめた」
フフン、と勝ち誇った顔で宣言する月島。
慌てて謝罪するも当然主導権は月島にあり、余裕綽々にいつもの人を小ばかにした表情で「どうしようかな〜」と口にする。
すると同時にアトラクションを終えた4人が出口から姿を現した。
ふと前方を見遣った影山はベンチにいる二人の姿を捉える。自身と同様、男女問わずお世辞にも社交的とは言えないあの月島が春菜を相手に素の自分で会話しているように見えて。
彼女が臨時マネージャーとして入部して以後も己が知る限り二人はそれほど親しくしている様子はなかったと思う。それなのに、この短時間の間に―――。
気が付くと影山はいつの間にか前を歩く日向達を追い越し、足早にベンチへ近づいていた。
「おい」
影山の声がして春菜と月島はその主へと視線を向ける。
「影山くんお帰りなさい。どうだった?4Dアトラクションは」
「⋯おう。すげー迫力でおもしろかった」
「王様と日向が大声で燥いでるのが目に浮かぶよ」
「んだと月島⋯!」
グワッと影山が食って掛かろうとしたタイミングで他の3人も合流する。
「お待たせツッキー。神崎さんも」
「すみません⋯!長らくお待たせしてしまいまして」
「全然、気にしないで。日向も楽しめた?」
「もうサイッコーだった!」
「それは良かった」
再び全員揃ったところで、日向は早々に園内地図を広げて次はどのエリアに行こうかと山口と話し始めて。そこに加わろうと一歩踏み出そうとしたまさにその時だった。突然背後からくいっと腕を引かれ、何事かと勢いよく後ろを振り返る。
「!? ⋯びっくりしたー。影山くんどうかしたの?」
「お前は何か乗りたいもんはないのか」
「私?」
影山から直接問われ、鞄から自分用の園内地図を取り出してチェックしていく。
「――これなんかどう?グループで行動+銃でゾンビやっつけながら脱出するの」
そう言うと影山も気になったのか、これはどのエリアにあるのかと地図を凝視し始める。すると傍で話を聞いていた月島も口を挟んだ。
「このアトラクション、ゾンビ役の人の演技がリアルでかなり怖いって聞いたことあるけど。女子二人は大丈夫なの?」
「なになにー?!ゾンビやっつけるなんて面白そーじゃん!!」
「ハハ!日向は何でも来いって感じだね」
「ゾ、ゾゾゾゾンビは怖そうだけど皆で一丸となり恐怖を乗り越えての脱出は達成感が半端無さそうですね⋯!?」
「谷地さんは好奇心が勝ったかな?」
「私はホラー好きだし、谷地さんが大丈夫なら行きたいな」
「なら決まりだな」
「よーし!全員で見事生還してみせるぞー!!」
「「「「おーー!!!」」」」
「(一応忠告はしたし、僕はどうなっても知らない)」
2021/03/17