君の君たる所以の光

烏野男子バレー部、2泊3日のプチ合宿2日目。
今日は天気も良いので選手の気分転換も兼ねて長テーブルを館外に置き、そこにおにぎりやおかずを大量に盛った大皿を並べてビュッフェ形式で各自好きなものを好きなだけ食べられるようにした。

1年から3年、そしてマネージャーの二人。
皆でわいわい楽しくにぎやかにしている光景を少し離れた所から眺めながら、さっき取ってきたおにぎりを一口頬張る。おかずと交互に口に運んでおにぎりを全て咀嚼し終える頃、傍らでふいに人の気配が。

「此処、僕の休憩スポットなんだけど?」
「へ〜そうなんだ?」
「⋯⋯」

遠回しな牽制にも全く動じる様子がない春菜に月島は溜息を吐きながら、仕方ないといった風に隣に腰を下ろした。

「月島くんもうご飯食べ終わったの?」
「そうだけど」
「しっかり食べとかないと午後からの練習もたないよ」
「その言葉、そっくりそのままキミに返すよ」

月島は春菜が手にしている皿に目配せし、呆れたように言った。

「私は後でいいの。まず成長期のみんなが沢山食べないと」
「だからそれもお互い様デショ」
「⋯あ〜そう言われちゃうと確かにね」

笑いながらペットボトルの栓を開け、お茶を含む。

「この場所いいねー。向こうからはちょっと死角気味になってて」
「言っとくけど、最初に見つけたのは僕だから」
「でも今日は先に居たの私の方だし」
「⋯⋯」
「⋯⋯」
「⋯ほんとキミって、ああ云えばこう云うよね」
「『その言葉、そっくりそのままキミに返すよ』」

先程の月島の口調を真似てそう返せば。
今度は無表情のまま明らかに苛立ち混じりの視線が上から降ってきて。直後、右手で両頬をぶにっと掴まれて唇がタコ状態に。

「ぶふっ、変な顔」
「は、はにゃちて」
「えー?何言ってんのか分かんない」
「〜〜〜〜!!」
「悔しかったらやり返してみれば?」

いつものような軽快な反論もできず、やり返そうにも月島が後ろに避ければ手を伸ばしても届かない。明らかに悔し気にしている彼女を見て、ようやく満足した月島は勝ち誇った表情を浮かべてから手を離した。

「⋯月島くん、近頃私への扱いがとても雑になっていませんか」
「マネージャーに限っていえば、清水先輩も谷地さんも僕に一々突っかかってきたりしないし。僕はそれ相応に対処してるだけ」
「私も突っかかってるつもりはないんだけど」
「神崎さんも王様と同じ人種なワケ?無自覚だとしたら余計に性質悪いよ」
「自覚有りで捻くれた物言いをする月島くんも人の事言えな⋯」
「え、何?もしかしてさっきのじゃ足りなかった?」

言いながらまた手を近づけようとする月島に慌てて口を噤む。すると次の瞬間、月島は急に真面目な顔つきになって静かに問うた。

「⋯神崎さんってさ」
「ん?」
「一生懸命マネの仕事もやってるし、日向達や先輩とも上手く付き合ってんのに時々こうやってわざと距離を置くようなことしてるよね」

まるで、見えない一線を引いているかのような。

月島の指摘に咄嗟に上手い返答ができず苦笑した。
他人には興味ないという風に見せていて、実のところ彼はよく人を見ている。

「月島くんと同じで一人の時間も好きなだけだよ。それに今はあくまでも“臨時”の立場だしね」
「⋯⋯」
「うわ、全然納得してないって顔してる」
「立場とかそんなの関係ないでしょ。それに僕と違って神崎さんは必要とされてる人間なんだから」

さっきまで我先にと必死に食べ物を取り合っていた日向と影山だが、今は春菜の姿が無いことに気づき仁花達も巻き込んで“何処に行ったのか”と騒ぎ始めている。

「――それは違うよ、月島くん」

言いながら立ち上がり、数歩前に出て服についた土埃を軽く払ってから後ろを振り返る。

「このチームに必要不可欠なのは月島くん。それは絶対」
「⋯⋯」
「私は⋯いつまでこの場所に居られるか、分からないから」

本当に無意識だった。

思わず小さく零れた本音は、突風の所為で月島の耳に届いたかは分からない。けれど月島の目には太陽を背にしている春菜の身体が一瞬透けて見えたような気がして、驚愕に瞠目した勢いで立ち上がった。

「ねぇちょっと⋯今、」
「あ〜!あんなとこに居た!神崎さーん、月島ー!!」

此方に向かってブンブンと勢いよく手を振る日向。その横で「そんなとこで何やってんだ」と言わんばかりの顔をしている影山。そして最後に仁花も手を振ってから口元で三角を作って叫ぶ。

「神崎さーん!月島くーん!そろそろ果物も出すよ〜」

それに笑って手を振り返し、了解した意を伝える。

「―だって。月島くんも行こうよ」
「⋯⋯」
「ほらほら、早く!」

なんだか全て上手い具合にはぐらかされた様な気がして釈然としない。けれども目の前には普段と変わらない春菜がいるのは確かで。

まあ今はこれでいいか、と月島は自身に言い聞かせた。


2021/04/14
お題配布元:誰花