恋ってやつは、

「よし。じゃあ10分休憩!」

コーチの号令と共に各自水分補給に向かう。
ブロック練習をしていた月島もネットから離れ、給水ボトルに手を伸ばしたその一瞬。

「⋯っ!」

右手薬指に僅かに走った痛み。
けれど手当てをする程でもないか⋯と自己完結させボトルを掴んだ時だった。

「月島くん」

声に振り向くと春菜が月島のタオルを差し出している。

「⋯どうも」

一応礼を述べてタオルを受け取ろうとした。が、即座に手首を掴まれて月島はギョッとした。

「突き指、してるよね?」
「⋯⋯⋯」
「どの指?テーピングしてあげるからこっち来て」
「⋯いいよ別に。大した事ないから」
「その“大した事ない”が後々響いたりするの。休憩後もまだブロックとスパイク練習あるんだし」
「はぁ⋯。ほんとキミって、変なところ目敏くて強引でお節介」
「月島くんの目敏さには負けるけどねー」

何を言っても引かない春菜に渋々ながら体育館の隅に移動する。その場に腰を下ろすと、その隣でテキパキと救急箱の中から必要な物を選んでいく春菜。

「右手こっちに貸してくれる?」
「いや⋯あとはもう自分で」
「月島くん右利きでしょう?自分じゃ巻きにくいし、適当にしたんじゃ意味ないから」

これまで清水に声を掛けられた時も自分で出来る、とやんわり処置を断っていた月島。清水もそんな彼の心情に配慮してか『助けが必要な時は遠慮なく声を掛けてね』と言って食い下がるような事はなかったのに⋯。

小さく聞こえた月島の2度目の溜息を諦めの反応と勝手に解釈し、それ以上有無を言わせず春菜はテーピングを施し始める。

「月島くんって指長いね。手のモデルさんになれそう」
「勘弁してよ」
「⋯?」
「四六時中手袋付けて手荒れと怪我に気を遣うなんて僕は御免だね」
「え、何でそんなに詳しいの」
「偶々テレビで特集見たことあるだけ」
「そういうこと。てっきり手のモデル目指したことあるのかと思った」

そんな他愛もない話をしていればあっという間にテーピングは完了。その手際の良さと巻かれた指の感覚に月島は感嘆した。

「――意外と上手いな」
「意外とって失礼じゃない?」
「これならまた次も頼んでもいいかもしれない」
「更に謎の上から目線⋯!」


今思えば、この日の出来事がきっかけだったような気がする。気安く軽口を叩き合える異性など月島にとって初めてで。気が付けば休憩時間に自ら彼女に話しかけることも増えていった。

もちろん“王様に嫌がらせをする”という目的も含んでいたけれど、それと同時に自身の想いも自覚せざるを得なくなってきている今日この頃。

「おい神崎、昨日の勝負の続きすんぞ」
「えっ?!昨日勝負の後も遅くまで自主練したし、今日はもう帰って休んだ方が⋯」
「勝ち逃げは許さねェ」

練習終了後、近頃見慣れてきた恒例のやり取りを始めた影山と春菜。それを少し離れた所から見ていた月島は二人に近づき割って入った。

「まったく毎日毎日⋯王様大概にしなよ。神崎さんも嫌なら嫌ってちゃんと口にしなきゃダメでしょ」
「あ?何だと月島⋯!」
「彼女は王様みたいな体力馬鹿じゃないんだから少しは考えなよ」
「あ、ありがとう月島くん。でも私は別に嫌って訳じゃ⋯」
「気持ちは嫌じゃなくても、バイトとマネージャーの仕事掛け持ちしてんだから少しは自覚すべきなんじゃないの」

月島の言葉に影山はハッとして。
先程とは打って変わり、些かバツの悪そうな顔をして今日はこれで切り上げることに決めたようだ。

「ボール片づけてくる」
「分かった。私も着替えて来るから」
「おう」

籠を倉庫へ運んでいく影山を見送った後、春菜は月島を見遣った。

「月島くんありがとね。影山くんも最近オーバーワーク気味だったから助かったよ」
「別に。僕は思ったことを言っただけだし」
「⋯ツンデレツッキー(ぼそ)」
「ん?今何か言った?(笑顔+アイアンクローの構え)」

恋ってやつは、些細なことをきっかけに生まれるらしい。


2022/08/29
お題配布元:確かに恋だった