10:ゆめゆめお忘れなきよう

「昨夜はお世話様でした」
「評価はどうだった」
「ジンさんのおかげでめちゃくちゃ上司に褒められました。出来が良すぎて『次も頼むよ』なんて冗談とも本気とも取れるお言葉まで頂戴しちゃいましたけど」
「ククッ」
「笑い事じゃないですよ」
「“使えない部下”のレッテルを貼られるよりはマシじゃねぇか」
「それはまぁ⋯そうですけど」

云いながら、おつまみの類を並べていく。

「外国の銘柄には詳しくないのでジャパニーズウイスキーにしましたけど、良かったですか」
「ああ⋯問題ない」
「飲み方はどうします?」

問うと彼は銘柄を確認してから即答した。

「ロックでいい」
「了解です」

所望通りロックで用意し、そのグラスを差し出す。

「私は先にお風呂済ませてくるので後はご自由に」
「ああ」

今夜は酒とつまみが充実しているせいか、表情からは読み取りにくいけれど機嫌がいいことは分かる。成り行きとはいえ夜遅くまで仕事を手伝わせてしまった罪悪感から少々値の張るウイスキーを購入したが、彼も満足そうにしているのを見て内心ほっとした。


入浴諸々を済ませてから自らもテーブルにつく。
お風呂上りのハイボールは喉越し最高。

その後も明日は休みだから、とそれなりのペースで飲んでいると。

「――見かけによらず割とイケる口なんだな」
「『見かけによらず』ってどういう意味ですか」
「見たまま中身もガキなのかと思っていた」
「相変わらず失礼ですよね、ジンさんって」

チョコレートの包みを開封しながらジト目で睨む。

「酒に強い女は嫌いじゃねぇ」
「ジンさんの『強い』の基準が分かりませんけど、私だって杯数が増えればそれなりに酔いますよ?見た目に分り辛いだけで」
「⋯だろうな」

すでに頬の血色が仄かに良くなってきているし、いつにも増して饒舌だ。

「仕事面でも酒に弱いと話にならないじゃないですか。男の隣に座ってにこにこお酌してる自分なんて、想像するだけで気持ち悪いし。そういう目でしか女を見れない男も軽蔑します」
「⋯⋯」
「でもまぁ⋯そういうのって可愛げがないんだろうなぁとは思います。ジンさんも前に言ってたじゃないですか。私のこと『可愛げのない女だ』って」
「⋯⋯」
「ねぇ、ジンさん」
「⋯なんだ」
「ジンさんのいる組織って男女で待遇が違うとか⋯そういうの、無いんですか」
「当然だ。実力さえあれば関係無い」
「組織の女性陣は実力もある上に美人揃いですよね」
「女狐ばかりだがな⋯ベルモットなんざその筆頭だ」
「あっ そういえばシェリーとはどういう関係なんです?実は恋人、だったり?」
「お前⋯シェリーの事も知ってんのか」

此処に居候するようになって以降、ジンの世界のことを名前が口にしたのはノックリストに載っていた人物の名を羅列したのが最後だ。あれから何度か彼女が知っている情報を聞き出してやろうと試みてはいたものの、決して口を割ることはなかった。

しかしながら、今夜は酒の影響でいつもの理性が緩んでいるらしい。

「奴の居所を知ってるなら今すぐ吐け。そうすればお前の質問にも答えてやる」
「⋯⋯やっぱいいです。今のナシで」
「⋯名前」
「さてと、次はお湯割りにしちゃおっかな〜と」
「ほぉ⋯俺を無視するとはいい度胸じゃねぇか。向こうへ戻るまでに必要な情報は全て吐かせてやるから精々覚悟しておくんだな⋯」
「〜♪〜〜♪(とことん何も聞こえないフリ)」


お題配布元:fynch
2021/3/25