軽やかに砕け散る音

「菊⋯そこをどきな」
「嫌です。絶対にどきません」
「⋯⋯」
「いくらお兄様とて、こんな所業が許されるはずがありません!」

未だぐったりしているアイラを背後に庇いつつ、菊は目の前に立つ兄に鋭い視線を向ける。

「これはおれ達夫婦の問題だ」
「二人が夫婦である以上、アイラさんは拙者にとっても家族です。大切な姉上がこんな目に合ってるのを黙って見過ごせというのですか?!」
「もう一度だけ言うぞ菊。――そこをどけ」

イゾウは殺気を帯びた低い声で告げると同時に懐から愛銃を取り出し、静かに銃口を向けた。

「!!?」

菊は驚愕のあまり瞠目し、息を飲んだ。

信じられない⋯という心境でイゾウを見遣るが兄の眼が本気であることを物語っている。どうして大好きな兄とこんな形で争わなければならないのかと思うと悲しくて胸が締め付けられる。しかし兄が本気である以上、このまま引き下がる訳にはいかない。

葛藤の末に菊も小刻みに震える手でとうとう己の刀に手を掛けた。

だが、次の瞬間。

「お菊ちゃん⋯もういいから⋯」

一触即発な空気が漂う最中。
今まで身を横たえていたアイラがか細い声で菊を呼べば、はっと我に返った菊が刀の柄から手を離してすぐさま彼女に駆け寄った。

「アイラさん大丈夫ですか?!」
「うん⋯平気、」

菊の肩を借りてアイラは何とか立ち上がるとにこりと笑みを作ってみせた。

「私は大丈夫だから⋯イゾウのこと、あんまり責めないで」
「でも⋯!」

菊の静止も聞かず、アイラは這うような歩調でイゾウの元へ。
それを見たイゾウは満足げに口角を上げると銃を懐に仕舞い、傍らに来たアイラの体を姫抱きにした。

「菊、お前は先に城へ戻れ」
「⋯っ!」
「アイラを部屋に送り届けたらおれもすぐに向かう。モモの助様にもそう伝えてくれ」
「お兄様⋯!!」

菊の悲痛な叫びも虚しくイゾウは背を向けてその場を去っていく。
抱えられたまま酷くやつれた面持ちで俯くアイラの耳元に、イゾウはそっと唇を寄せて囁いた。

「どうやら、まだ躾が足りてなかったみてェだな⋯?」


2022/03/02
お題配布元:確かに恋だった