にこいち
フルーレは鼻歌交じりに型紙を引いていた。主様と出会ってからというもの、創作意欲が刺激されっぱなしなのだ。
フルーレの作る衣装は飾りが多く豪華な造りをしている。街に出たらやや浮いてしまうそのデザインは決してシンプルとは言えず、好き嫌いがあるであろうことはフルーレも自覚している。執事たちは大貴族のお抱えである立場上、それなりの身なりが求められるため豪華な装いへの不満を聞いたことがないし、すっかり慣れている様子だ。
しかし、別世界から来た主様となると話が変わってくる。フルーレは主様の世界の姿を詳細には知らないが、あちらから帰って来る主様の服装はシンプルで飾り気がなく、フルーレの作る洋服とは対極のデザインをしている。そのため、フルーレは自分のセンスが受け入れられるか密かに尻込みしていたのだが。
「このお洋服、全部作っているの⁉ かわいい! すごい!」
執事たちの服を全てフルーレが仕立てていると知ったとき、主様は目を輝かせて興奮気味だった。
舞踏会の際に勢い余って複数着のドレスを仕立てたときも「選べないしもったいないから、舞踏会が終わってもデビルズパレスで着る」と笑顔だった。
執事たちの服装も衣装ではなくお洋服≠ニ呼び、生活の一部と受け止めている。これはきっと、どれだけフリルとリボンを盛っても受け入れてもらえる。
フルーレは遠慮をやめて、ただ主様にこれを着て欲しい一心で次々に洋服を仕立てた。主様はその度に喜んで、デビルズパレスではフルーレの仕立てた洋服を着て過ごすようになった。
今もフルーレは主様の洋服の型紙を作製中だった。いつもワンピースやジャンパースカートを仕立てているが、主様はパンツ姿もきっと素敵だ。パンツにジャケット、ブラウス、それに合わせた帽子と靴も。タイはどういうデザインにしようか。
作業に熱中していると、部屋のドアがノックされた。
「フルーレくん、いる?」
女性の声だ。フルーレは型紙と鉛筆を置いてドアを開けた。
「おかえりなさいませ、主様!」
「ただいま。あの、ちょっとだけいい?」
「はい、もちろん」
主様は作業机を見て「新作だ!」と笑みを浮かべた後で、どこか遠慮がちにフルーレを見た。
「あのね、フルーレくんにちょっとだけお願いがあって」
「なんでしょうか?」
「フルーレくんのお洋服可愛くて好きなので、フルーレくんみたいなお洋服も着てみたいなって思ったりしている」
「俺の……?」
「おソロコーデ的な」
「おソロ……コーデ……!!」
フルーレに激震が走った。自分の服のセルフオマージュを主様が着る。おソロコーデ。そんな贅沢が許されていいのだろうか!
フルーレの脳内にまた新たなデザインが浮かぶ。数秒の無言の後、フルーレは嬉しさと興奮で紅調しながら主様の手を取った。
「やっぱり、わたしには可愛すぎるかなあ」
「そんなことありません! 絶対お似合いです! お揃い、嬉しいです!」
「ほんと?」
「今すぐ取り掛かります!」
「え、急がなくていいよ」
「一番大事なお仕事ですよ!」
大切な主様とお揃いだ。今から口角が上がる。
お揃いは他の執事たちから羨ましがられるだろうし、後々執事側から要望が上がりそうだが、最初のお揃いは自分だ。
イベントの度に十着以上の衣装を仕立てるフルーレにかかれば、一着仕立てるくらい朝飯前だ。主様の衣装ならば尚更、スピードも上がる。
フルーレは自分の燕尾服に使う布を引っ張り出して広げ、残りを確認してから早速型紙を作り始めた。
主様尊い……。
そよ風のかんざし
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