優しさを閉じ込める


 主様のベッドサイドには、テーブルにある花瓶とは別に花が一輪生けられている。それは執事の誰かが主様に贈ったもので、ハウレスとアモンの頻度は高いがその限りではない。あのラトがふらりとやって来たときには目を疑った。
 花は美しいが、咲いている期間はほんの僅かだ。花の手入れは基本的にアモンの仕事だが、ハウレスも花びらが傷み始めていればすぐに取り替えるようにしている。当然主様不在の時に手入れをするが、そのときはたまたま、ハウレスが手入れのために花瓶を持った直後に主様がやって来た。

「あ、まだ待って!」

 挨拶よりも前に主様が言う。ハウレスは花瓶を持った体勢で固まったものの、すぐに置いて一礼した。

「おかえりなさいませ、主様」
「ただいま、ハウレスくん。その花、取り替えるのちょっと待ってね」
「構いませんが、どうかされましたか?」
「その……ええと……」

 主様はじりじりと花瓶に近寄り、ハウレスを伺いながら花に手を伸ばす。

「あのう……あのさ、その、行儀が良くないとは分かっているの」
「はい?」
「見逃してください、すみません」

 気まずそうな主様は、ハウレスを置き去りにして何故か謝罪をする。そして痛み始めた花に手を伸ばし、花びらを一枚千切り取った。
 主様は花びらをつまみながら早口で続ける。

「みんなよく花をくれるでしょう。アモンくんが一番多いけど、みんな。それがすごく嬉しいから、貰う度に一枚花びらを取って押し花にしているの。花の名前と、誰に貰ったかと、日付をメモしてるんだ」
「押し花を……」

 主様が優しいことは知っているし、ハウレスたちとの時間を好んでいることも分かっている。しかし、執事たちとの日常をここまで大事にしてくれているとは思わなかった。
 主様が言うように、主様の部屋にはいつでも誰かから贈られた花がある。花がない日はない。
 主様の繊細な感性に感動していると、黙ったハウレスに何を思ったのか、主様は花びらをつまんでいない方の手を左右に振った。

「執着じみててちょっとキモいかな?」
「とても嬉しいです。本当に……俺の主様は、なんて素敵なお方なのだろうと思いました」
「ありがとう。素敵なのはみんなのほうだよ」
「他の執事たちにも共有して良いでしょうか。こんなにも素敵な主様の習慣、みんなとても喜びます」
「いいよ。ちょっと恥ずかしいけど」

 主様は手元の花びらを見て照れ臭そうに笑う。
 これはますます、主様の部屋が花で包まれそうだ。主様の押し花コレクションは瞬く間に増えるだろう。



主様尊い……。
そよ風のかんざし
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