性別:主様


 ルカスは口元を手で覆い、溢れそうな笑いを咳払いで誤魔化した。
 さきほどまで夜の繁華街を楽し気に見回していた主様が、驚愕の表情でハウレスを凝視している。当のハウレスは、女性が苦手なことをロノにからかわれて居心地悪そうにしており、主様からの視線には気付いていないようだった。
 ルカスは、きまりの悪そうなハウレスの肩を叩く。

「ハウレスくん、主様が何か言いたげだよ」
「え?」
 ハウレスが主様を見て、自分を凝視する主様の視線に目を瞬いた。

「どうかされまし、」
「ハウレスくん……女の人が苦手だったの……!」
「あ、いえ、その」
「わたし大丈夫? 離れようか? 担当にしちゃったのまずかった?」
「ま、待ってください。大丈夫です、離れないでください、主様の担当を誰かに譲る気もありません」
「ハウレスくんはわたしに対して絶対に迷惑だって言わない……!」
「本心ですよ!」

 主様が自分とハウレスの間にフルーレを挟む。フルーレは困惑気味にしながらも、大人しく壁にされていた。
 フルーレよりもハウレスのほうが優に背が高いため、ハウレスはフルーレの頭上から主様に話し掛けている。

「主様、俺は主様にお仕え出来て幸せです。噓ではありません。き、気疲れするのは知らない女性に対しての話であって、主様に対してそうは思っていません」
「ほんとに? 一対一でお茶するの、気が重いとかない?」
「思っていませんよ、むしろ楽しんでいますから」
「ハウレスくんはわたしに対して絶対に愚痴を言わない……! フルーレくん、どう思う?」
「えっハウレスさんは嘘を言っていませんよ、安心してください。『主様早く帰って来ないだろうか』って毎日そわそわしていて」
「フルーレ!」

 ハウレスが頭を抱えてうなる。ロノは腹を抱えて笑う。
 板挟みになって右往左往しているフルーレの背中から、主様がそろそろと顔を出した。

「ごめんね、そこまで疑っているわけじゃないんだけど……ハウレスくんに限らず、みんなわたしの前では良い執事だから。本音を言えていなかったらどうしようと思って」
「俺は主様に対して迷惑だとか気が重いだとか、思ったことはありませんよ」
「じゃあ、今後ともよろしくお願いします」
「ええ、喜んで」

 主様からの疑惑が晴れ、ハウレスが心底安堵しているのが分かる。主様の担当を外される寸前だったのだから当然だ。
 でも、と。壁になっているフルーレが主様を振り返る。

「ハウレスさんの本心が心配になったら、俺に声をかけてくださいね。主様の担当になるなんて光栄なことですから!」
「あ、俺も! いつでも呼んでくださいね、主様!」

 フルーレとロノが良い機会だと自分を売り込み始める。主様の様子からして担当を変えるつもりはなさそうだが、確かに、そうなったときのためにアピールしておくことは必要かもしれない。主様も、気分転換したくなるかもしれない。
 ハウレスが二人を止める前に、ルカスも主様の前に出た。

「わたしのことも覚えておいてくださいね」
「ルカスさんまで!」

 ハウレスの声は切実だったが、主様にハウレスの必死さは届いていない。「主様≠チて人気者なんだね。ね?」当事者だというのに、他人事のような顔でバスティンに同意を求めている。
 我関せずと食事のことだけを口にしていたバスティンだが、視線を露天から主様に移した。主様に話を振られると無視できなかったらしい。
 バスティンが相変わらずの無表情で言う。

「俺でもいいぞ、主様」
「あら、そうなの」

 軽いリアクションの主様とは対照的に、ハウレスが重い溜息をつく。油断ならないと思ったに違いない。



主様尊い……。
そよ風のかんざし
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