主様を愛でる会
二階の執事室にて、ハウレスは買い出ししてきた酒をテーブルに置いて一度手を叩いた。ツマミを置くフェネス、ちょうど腰を下ろしたアモン、早速ワインを開けるボスキの視線がハウレスに向いた。
「二階執事、集合」
「してるよ……?」
「ハウレスさん、もう酔ってるっすか?」
「違う。今夜は主様のことで話がある」
ハウレスが言うと、フェネスが不思議そうな顔をする。
「いつものことだよね。何回目かな? 主様を愛でる会。第七回くらい?」
「フェネスさん、それは全体の話っす。俺らだけなら……第十一回くらい?」
「十二回だ」
ボスキからも訂正が入り、ハウレスは視線をボスキに向けた。
「今回はお前の話でもある、ボスキ」
「はあ?」
「今日の昼、主様に膝枕をしていたな? どういうことだ」
「ひ、膝枕⁉」
「ボスキさん抜け駆けっすか!?」
「うるせえ」
ハウレスは見たのだ。主様が自分の部屋でボスキの膝を枕に昼寝しているのを。
主様は仕事の日だが、恐らく昼休みにこちらに来たのだろう。食後に眠くなったのも不思議ではない。ただ、なぜボスキの膝枕だったのか。起こすわけにもいかず声を掛けなかったのだが、頭から離れない。
ハウレスが知らないだけで、主様とボスキは相当親しい仲なのだろうか。主様と一番長い時間を過ごしているのは自分だと思っていたのだが。
三対の視線を浴びるボスキだが、かったるいと言いたげに晩酌を始めた。
「どういうことも何も、お前の見たことが全てだろ。眠そうだったから俺の膝を使うかって提案して、主様がそれに乗っただけだ」
「ボスキさんって抜け目ないっすよね」
「はあ? そんなに羨ましいなら、お前らも言えばいいだろ」
ボスキが口角を上げて面々を見る。勝者の余裕だ。
アモンが「じゃあ今度は俺も!」と無邪気な様子と対照的に、ハウレスはフェネスと共に押し黙った。
ハウレスは、自分が女性に対して器用なほうでないと自覚している。ましてや主様だ。他の女性に対するような気まずさこそないものの、とてもじゃないが気安い真似は出来ない。膝を貸すなど以ての外だ。ハウレスには、ワルツで手を握ることが限界だ。フェネスも似たようなものだろう。
余裕のあるボスキと無邪気なアモンが、黙りこんだハウレスとフェネスを笑ってくる。
「お前らはお硬いから出来ないだろ」
「課題は、主様が眠いときに近くにいることっすよね。ハウレスさんなんていつでも膝枕出来そうなものっすけど、ハウレスさん、こういうの駄目っすもんね」
「昼飯のあとは会社で寝ていることもあるっつってたし、主様の部屋の近くで待機してたら機会はあるんじゃねえの。俺はたまたまだったが。ああ、まあ、お前らには無理だろうけどな」
「俺は機会をうかがうっすよ!」
このままではまずい。主様の頭を撫でるという特権はハウレスのものだが、膝枕という特権がボスキのものになる可能性がある。
ハウレスは、あくびをする主様を思い起こした。アモンが言うように、眠たげな主様は何度も見ている。ソファでうたた寝をする主様にブランケットを掛けたこともある。そのタイミングで「俺の膝を使いますか?」と声を掛ける自分を想像して――耐えきれず、グラスを握る手に力を込めた。
「ちょっとハウレス、グラスを砕かないでよ」
「馬鹿力すぎる……」
アモンが絶句する。
ハウレスはヒビの入ったグラスを置いて、頭を抱えてため息をつきつつボスキを睨んだ。当のボスキは何食わぬ顔で酒を飲み進めている。
「ボスキ……覚えておけよ……」
「俺の膝で寝てた主様のことをか? 忘れねえよ」
「いい度胸だな」
フェネスから渡された新しいグラスを持ち、ウイスキーを注ぐ。
酒に酔った勢いで主様に自分の膝を貸せたらいいのだが、酒の力を借りても言葉が出ない気がした。そもそも、酔った状態で主様のそばに仕えたくない。
膝枕を警戒すべきは、ボスキとアモンと。ラムリやルカスも怪しい。
主様に、執事たちの膝を借りないよう頼みたいところだが、心を許している行為を止めることも出来そうにない。
主様尊い……。
そよ風のかんざし
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