自分を許す、ということ



 ルカスは、自身の城である医務室で主様と向かい合っていた。主様の主治医として、主様の健康には誰よりも気を配っている。既往歴から現在の体調まで丁寧なヒアリングが必要になる。
 主様はいくらかデビルズパレスに慣れてきたようだった。もう少し様子を見て、落ち着いていればヒアリングの頻度を落としてもいいかもしれない。
 初対面より幾分もリラックスした様子の主様に安堵していると、主様が控えめに切り出してきた。

「あの、気になっていることがあって……」
「何ですか?」
「わたしのことじゃなくて。ハウレスくんの」

 ハウレスは主様の担当執事だ。主様がデビルズパレスに来た当初からずっと、担当として仕えている。主様と過ごす時間が最も長い執事だろう。
 主様は話しづらそうだった。私生活はともかく、模範的な執事であろうと全てを卒なくこなすハウレスだが、主様からの視点では思うところがあるのだろうか。
 ルカスは穏やかに話を促した。

「何か気になることでもありますか?」
「彼、いつもすごくちゃんとしてて。他の執事さんたちの態度からも、真面目でストイックなのが分かる。わたしに対してはすごく優しいけど、多分、自分にすごく厳しい人だろうなって」

 確かに、ハウレスは自分にも他人にも厳しすぎるところがある。主様にもお見通しらしい。

「だからとても心配で。ハウレスくん、休めているのかなって。……わたしが担当に指名しちゃってると、自分の時間も減るだろうし。無理をさせていたら申し訳なくて」

 ルカスは主様のカルテを見た。主様は向こうの世界で通院中であり、飲み続けている薬もある。いくらデビルズパレスの主治医と言っても異世界の薬には詳しくないが、ヒアリングする中でそれがどういったものかは主様から聞いていた。
 精神を安定させる類のもので、主様は自分自身のことを「うまく自分を許せなくて、気付いたら薬を手放せなくなった」と言っていた。経験があるからこそ、主様はハウレスが心配なのだろう。

「主様はお優しいですね」
「それはみんなもだよ。わたしを甘やかしすぎ」
「主様がとっても大切だから仕方ありません」
「わたしだって、みんなを甘やかしたいんだけどなあ……」

 主様は腕を組んで思案気だ。
 ルカスは笑みを深めた。ルカスはもちろんハウレスも、主様に関われることが光栄なのだ。主様が幸せならば嬉しいし、頼られるのも嬉しい。主様は自分の世話で執事の時間が減ることを気にしているが、主様との時間こそが褒美なのである。

「主様。そう考えられているだけで、ハウレスくんは十分だと思いますよ」
「そんなことないと思うんですけども」
「もし気になるなら、散歩に誘ってあげてください。お茶の催促でも、お出かけの同行でも、たくさん声をかけてあげてください。主様と話すことがハウレスくんにとっての癒しになりますから」
「それだけで? ほんとに? むしろ仕事を増やしてない?」
「ふふ、主様との時間なら歓迎ですよ」

 主様は大げさに眉間のシワを深くして怪訝な顔をしている。主様はデビルズパレスに慣れてきてはいるが、執事たちの在り方についてはまだ理解出来ていないところがあるらしい。
 ルカスがヒアリングの間は主様を独り占め出来ることを楽しみにしているなど、想像もしていないのだろう。

「なんか……他愛ない話も振ってみる。真面目な仮面を壊してみる」
「それは楽しみですね」


 そうして数日後のヒアリングで、主様は何故か胸を張っていた。理由を聞くと、満足そうな顔でこう言った。

「ハウレスくんが、わたしの部屋で寝落ちした!」

 ルカスはデスクに突っ伏して笑った。久しぶりに涙が出るほど笑った。
 そこまで気が緩められているならば何よりだ。


主様尊い……。
そよ風のかんざし
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