これっくらいの おべんとばっこに
ロノの料理人魂は、主様が来てからというもの燃えっぱなしだ。
主様は少食だ。ロノが男性にしか料理を振る舞っていないせいでよりそう感じるのかもしれないが、執事中で一番少食なフルーレの半分ほどしか食べないと知った時には血の気が引いた。ラトはまた別なので比較対象としては除外である。おまけにアレルギーがあり、好き嫌いではなく体質の都合で食べられないものも多い。
ロノは主様に対し、限られた量、限られた食材で、栄養バランスの整った料理を振る舞わねばならないのだ。出来れば食べる量を徐々に増やしてもらいたいが、多くを食べて内臓に血液が集中し、脳への血液量がほんの少し減るだけでも不安感が増幅するとあってはもうどうしようもない。主様自身も困っている。
そして、ロノには大きな心配もある。主様自身が、食に対して無頓着なのだ。食欲があっても栄養食だけで済ませることが多いらしい。
仕事が休みの日、主様は屋敷で食事を摂ることがある。ロノは、昼食の小さなプレートを完食した主様に話しかけた。
「どうでしたか?」
「今日もとっても美味しかった! ロノくんのご飯はなんでも美味しいね」
「ありがとうございます! それで、今日はちょっと提案があるんですけど」
「うん?」
ロノは、自分の両手に収まる大きさの弁当箱を出した。
「これ、街で買ったんです。主様のお弁当、俺に作らせてもらえませんか?」
主様は、ロノが油断していると朝食・おにぎり、昼食・おにぎり、夕食・栄養食、というとんでもない食事で済ませているときがある。米が好きなことだけは伝わる。
主様の弁当を作ろうとは以前から思っていたのだが、主様は東の大地の食材や味付けを好む傾向がある。あちらの世界で住んでいる場所が東の大地の文化と似通っているということで、パンより米で、醤油が好きだ。
ロノはようやく満足出来る米を炊けるようになったので、主様お弁当食育作戦≠決行したのだ。
「東の大地の料理も覚えました。土鍋で米も炊けます。出汁巻き卵も、里芋の煮物も作れますよ!」
「いいの⁉」
主様の顔に笑みが浮かぶ。
「お弁当箱、このくらいの大きさなら食べられますか?」
「うん、大丈夫。じゃあ……あの、わたしからも一つ甘えていい?」
「何でも言ってください!」
ロノはもちろんと頷いた。主様はもっとわがままを言って、執事たちを振り回していいのだ。いつも、執事側がグロバナー家からの依頼やら天使討伐やらで主様を振り回してしまっている。
主様からの頼みや甘えは大歓迎だ。主様は弁当箱からロノに視線を移した。
「みんなと同じ朝ごはんか、お弁当と同じメニューで十分だから、朝ごはんもこっちで食べてもいい?」
「もっもちろんですよ! 任せてください!」
ロノは身を乗り出した。主様に料理を提供できる機会が増えることは喜ばしい。しかも、主様から申し出てくれたのだ。
主様の朝食と昼食に腕を振るえる。主様は就寝時間が早いこともあり、夕食をしっかり食べることを好まないので、朝と昼に栄養を摂ってもらわねば。
ロノは腕を組んで、頭の中でメニューを次々に思い浮かべた。主食は米。おかずは東の大地にものを中心にしつつ、中央の大地のものも取り入れる。
「……そうだ、主様。お仕事中にお菓子を食べられることってありますか?」
「あるよ。糖分欲しいし」
「じゃあ、お弁当に何か添えておきますね。主様のお好きなクッキーとかマドレーヌとか」
「いいの⁉」
主様の目が輝く。野菜クッキーにすれば栄養を摂ってもらう手段にもなる。一石二鳥だ。
ロノは喜びを抑えようと思ったものの失敗し、その場で拳を握った。
「やった! 主様にもっとお食事を振る舞える!」
「わたしも、もっとロノくんの美味しいご飯を食べられて嬉しいよ」
「それだけじゃないですよ。朝、主様にお会いできるんですから!」
仕事がある日の朝、主様が顔を合わせるのはハウレスのみであることが多い。起床後すぐに向こうの世界に戻り、出勤準備をするためだ。
主様が朝型で助かった。朝食時間が多少伸びても支障は無さそうである。現状の食生活で寝起きも悪ければ、昼食でしかロノの力は及ばないところだった。
ロノが喜びを噛み締めていると、対照的に主様は申し訳なさそうな顔をした。
「あ、でも、ハウレスくんだけじゃなくてロノくんにも早起きを強要することになってしまう……」
「気にしないでください! 主様とお会いすることより、優先することなんてありませんから!」
主様が食事のために滞在時間を増やすとなれば、ハウレスやロノに限らず、他の執事たちも早起き習慣となりそうだ。
主様からの「おはよう」と「行ってきます」を聞けるのだ。その日一日、充実して過ごせることが約束されるといっても過言ではないのである。
主様尊い……。
そよ風のかんざし
ALICE+