性別:執事


 デビルズパレスの執事たちのファッションは華やかだ。衣装の数も多い。それはイベントの数に左右され、フルーレの手腕によって造り出されている。基本的に装飾が多く煌びやかだがフルーレの気遣いにより見た目以上に動きやすい上、着脱もしやすくデザインされている。
 ハウレスはファッションに疎いので、基本的にはフルーレが用意した一式をそのまま着用している。美的センスのある執事は組み合わせを変えたりして楽しんでいるが、ハウレスには中々難しい。とはいっても、ハウレスに限らず最初に手にした燕尾服を着ることが多いので、日常の中でそこまでの変化は感じない。
 その日、ハウレスはたまたま、燕尾服ではなくややカジュアルな格好をしていた。シャツのボタンにもネクタイにも緩みは無いし手袋も外さないが、上着が無いだけカジュアルに見えていた。
 デビルズパレで昼食を摂るためにやってきた主様もハウレスの装いに気付く。

「あ、今日はちょっとカジュアルだ。そういうのもいいね」
「ありがとうございます」
「別にネクタイもしなくていいけど……そういうきっちりしたところ、ハウレスくんらしくてカッコイイと思うよ」

 主様が一つ頷いて食堂へ向けて歩き出すのに続く。
 ハウレスは自分の頬が緩んでいるのを自覚した。主様の言葉は何であっても嬉しいが、カッコイイ≠ニいう言葉は一層嬉しいと思う。三百年を越して生きていても少年じみた気持ちになることに気恥ずかしさもあるが、シンプルな褒め言葉だからこそ嬉しいのだ。
 ハウレスは素直に自分の気持ちを伝えた。

「ありがとうございます。俺も男ですから、カッコイイという言葉は嬉しいです」
「ん……うん、うん」
「……どうかされましたか?」
「いや……その……」

 主様は何故か良い淀み、ハウレスを見上げた。やや頬を紅潮させている。ハウレスが視線を返すと、主様はすぐにそっぽを向いた。

「わたし、ハウレスくんのことはちゃんと男の人だと思っているよ」
「ええ、そうですね」
「でも執事≠チて印象のほうが強くて……男の人なんだなあって改めて思っちゃって。なんか緊張してきた……」
「……」
「なんか照れる……」

 ハウレスは、主様の言葉に涼しい返答が出来なかった。
 ハウレスは女性が苦手だ。良く知って信頼できる女性ならばともかく、見知らぬ女性に対しては緊張するし目も見られない。主様は主様なため今まで緊張とは無縁だったが。
 そう、主様も女性なのである。
 ハウレスは、急激に顔が熱くなるのを感じた。今ハウレスの斜め前を歩く主様は女性だ。まごうことなき女性なのだ。
 ハウレスは言葉を詰まらせ、歩きながら左手の甲を口元に当てた。女性相手にどうすればいいのか分からない。何も言えずにただ足を動かしていると、主様がまたハウレスを見上げた。

「変なこと言ってごめ……ハウレスくん、とんでもなく顔赤いよ」
「すみません……その、いえ、俺のことはお気になさらず」
「ふふ、ハウレスくんって耳まで赤くなるよね」
「……主様」

「うん、どうしたの?」
 ハウレスは深呼吸をして、顔を隠していた手を外した。まだ顔の熱は感じるが、主様に対していつまでも失礼な態度はとれない。

「何でもありません。大丈夫です」
「カッコイイハウレスくんは、たまに可愛い所もあるよね」
「可愛らしいのは、主様のほうですよ」
「……その、わたしも大人だけど女の子だから。可愛いって言われるの、なんだか嬉しいな」

 主様が笑う。
 ハウレスは天井を見上げた。今日は主様の顔を見られないかもしれない。



主様尊い……。
そよ風のかんざし
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