最高の番犬


――わん。
 外から犬の鳴き声が聞こえて、ハウレスは窓辺に寄った。屋敷の広場で、ユーハンが大きな犬を撫でている。家を空ける貴族から預かっているペットだ。今回は、ユーハンが犬の世話担当となっていたのだった。
 ハウレスに並んで、主様も窓から外を見下ろす。

「あ、わんこ。今回はなんだかセレブなわんこだね。ボルゾイ?」
「ええ。今日から四日間、うちで面倒を見ます」
「行ってもいい?」

 ハウレスを見上げる主様の目は輝いている。主様はいつも犬と交流したがるので、ハウレスはもちろんと頷いた。
 主様はこの世界に来たときから馬を恐れる様子がなかったので、動物好きなのだろうとはなんとなく感じていた。それでも特に犬が好きらしい。貴族からペットを預かった際には必ず触れに行きたがる。
 早速ユーハンとボルゾイの元へ向かう。ユーハンは大きく細身なボルゾイをブラッシングする手を止めて立ち上がり、丁寧に一礼をする。

「こんにちは、主様」
「ごきげんよう、ユーハンくん。わんこ、撫でてもいい?」
「はい。とても大人しいですよ」

 主様はしゃがみこんでボルゾイと視線を合わせると、手の匂いを嗅がせながら顔の横を撫でる。ボルゾイは過度に喜ぶことこそ無かったが、揺れる尻尾からは人懐っこい気質が伝わってきた。
 主様は表情を緩め、ひたすら「かわいいかわいい」とボルゾイを撫でる。

「かわいいね、かっこいいね、わんこは良いね」
「主様は犬がお好きですね」

 ユーハンも膝を折り、主様とボルゾイと目線を合わせる。ハウレスも片膝をつくと、ボルゾイは主様の手を離れてハウレスの匂いを嗅ぎに来た。ハウレスも犬好きだ、思わず頬を緩めて撫でる。ボルゾイはされるがまま、三人に囲まれる中で凛々しい顔でお座りをする。
 主様は大人しいボルゾイの体を撫でながら、ハウレスを見た。

「ハウレスくんは、シェパードって感じがする」
「俺が、ですか?」
「うん。おっきくて力強くて忠実なところとか……頭や体を使いたいってところも似ているかも。責任感も強いよね。シェパード、カッコイイよ」
「ありがとうございます」

 主様にどう認識されているか、主様本人の口から聞くのは楽しい。主様からの「カッコイイ」にも顔の緩みを抑えきれない。

「ユーハンくんは、やっぱり甲斐犬かな」
「かいけん?」
「わたしの国に古くからいる犬種で、猟犬でもあるの。ちょっと古風な雰囲気があってすごく賢くて、忠誠心が強い。��一代一主の犬�≠チて言われるくらいなんだよ。ユーハンくんにぴったりじゃない?」
「嬉しいお言葉、ありがとうございます」

 こちらもべた褒めだ。ユーハンは照れ臭そうにしながらも、主様をしっかりと見て礼を伝えていた。
 そうなると、他の執事の犬種も気になってくる。ハウレスやユーハンが問う前に、主様が続けた。

「ぱっと思いつくのは……ボスキくんがドーベルマン」
「ああ、分かる気がします」
「ラトくんがスキッパーキ」
「初めて聞く犬種ですね」
「小柄で気まぐれなの。あと……ミヤジくんはボルゾイかな」

 主様が「ね?」と目の前のボルゾイに同意を求めながら撫でる。
 主様がここまで犬好きならば屋敷でペットを飼うことも考えたいが、生憎そうもいかない。かつ、主様があまりにも犬を可愛がるとムーが不貞腐れるのだ。
 ハウレスは主様の言葉に相槌を打っていたが、ふと思う。

「主様は、特に好きな犬種ってあるのですか?」
「うーん、特定の犬種は無いかも。しいて挙げるなら大きい子が好きかな。抱きしめられるから」

 主様は言いながら、お利口なボルゾイを抱きしめた。抱きしめられたボルゾイは身じろぎしたものの、特に反抗せず主様のにおいを嗅いでいる。
 ボルゾイはミヤジ。
 先ほど出た例が頭を過る。ただの雑談だとは分かっているものの、何となく面白くない。視線を感じてユーハンを見ると、頷きが返って来た。同じことを考えているらしい。
 ハウレスはユーハンと一緒になって、そっと主様の抱擁を解いた。


主様尊い……。
そよ風のかんざし
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