十三人からの労い
ベリアンは、新しく招いた主様にデビルズパレスの執事たちを紹介した。紹介と言っても名前を伝えて写真を見せるだけだ。大勢いる執事を並べては、事態を飲み込めていない主様をより緊張させてしまうことになる。
主様が最初に手に取ったのはベリアンの写真だった。主様が現時点で認識している執事はベリアンだけだ。意識が向くのも当然だろう。
主様は数秒無言で写真を見て、突然泣き始めた。ベリアンはいかなる状況でも良き執事であろうと努めているが、初対面の主様の突然の涙には少々狼狽えた。表情にも声にも出さなかったが、まさか見知らぬ環境がそこまでストレスをかけたのかと焦る。
ベリアンは床に片膝を付き、椅子に座って涙を流す主様を見上げた。
「主様、どうされましたか? 休憩いたしましょう。お紅茶をお持ちしますね」
「大丈夫、すみません、平気です。ベリアンさんの声があまりにも優しいから、涙腺にきちゃって」
「執事に敬称も敬語も不要ですよ。……声、ですか?」
「はい、あ、うん。すごく優しい……もしかしてそういう仕組みではない?」
「ええ、それはただの写真ですので」
「なんと」
驚きで主様の涙が引っ込む。ベリアンは主様の持つ自分の写真をまじまじと見たが、ただの写真だ。音も声も聞こえない。
ベリアンが思案している間に、次の写真を見た主様がまた嗚咽を漏らした。
「主様、無理をされずとも良いのですよ」
「そういうわけじゃないんだよ。優しい労いとか褒め言葉とか、メンタルを痛めたしがない会社員の心に沁みて……」
ストレスからの涙ではなく、どちらかというと安堵からの涙らしい。それならば無理に止める必要はないのかもしれないと、ベリアンはハンカチを渡して主様の様子を見守った。
泣きながら一通り写真を見た主様は、ハンカチを顔に当ててさらに泣く。ベリアンが主様の肩や背中を撫でていると、やがて嗚咽も聞こえなくなった。
主様は一枚の写真を示しながら、真っ赤になった目でベリアンを見る。
「彼で、お願いします。ええと……ハウレスさん?」
自分が指名されなかったことにやや落胆したが、ハウレスは真面目で模範的な良い執事だ。主様の担当として不足はないだろう。
「分かりました。彼は今屋敷に居ますから、すぐに呼んできますね」
「号泣した後だけど大丈夫かな? ビビらせない?」
「ふふ、ビビりませんよ。ですが、そうですね……もう少し落ち着いてからのほうが良いかもしれませんね。お紅茶とお菓子をお持ちします」
「至れり尽くせりすぎてちょっとこわい」
「主様は、主様ですので」
にっこり笑って伝えると、愛想笑いが返ってくる。まだ疑心暗鬼といった風だ。
何度もデビルズパレスに帰って来て、たくさん執事と言葉を交わして、この環境を心地良いと思ってくれたら僥倖だ。デビルズパレスの執事は、誰もが主様との時間を楽しみにしている。
主様尊い……。
そよ風のかんざし
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