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 僕たち三人は、とても仲が良かった。家が点々としかない田舎で、他に年の近い子どもが近所に住んでいなかったため、自然とそうなったのだろう。学校に行くようになると友達は増えたけれど、家が遠いので、遊ぶとなればやはり三人だった。
 三人での遊びは単純だ。リスを追いかけたり、互いの家で飼っている犬と戯れたり、とにかく外を走り回った。抜け道や登りやすい木がある場所、小さな花がたくさん咲いている場所など、大人たちよりも詳しかった。三人で、のんびり昼寝をする場所も決まっていた。
 僕たちは都会っぽい遊びを知らず、おしゃれな話題もない。普段は動物か草木の話しかしないので、幼馴染の一人が白い何かを頭にかぶった時も、ピンとこなかった。

「なにそれ?」
「カーテン?おばさんに怒られるよ」
「あのね、花嫁さんの!」

 僕は、リビングに飾ってある両親の結婚式の写真を思い起こした。幼馴染は、花嫁が頭にかぶっている白い薄布のことを言っているのだ。もう一人の幼馴染も、結婚式の、と頷いていた。
 家の小窓のカーテンを勝手に持って来たらしい幼馴染は、僕らの中で一番活発だった。一番小さいくせに、目一杯動いてきゃらきゃら笑う。今も、楽しそうにくるくる踊っていた。
 
「わたし、花嫁さんになりたい!お母さんのアルバムを見せてもらったら、すっごくきれいでかわいかったから!」
「じゃあ相手を見つけないといけないね」
「みんなで結婚しよ!」
「え、三人で?」
「みんなでドレス着よーよ!」
「みんな!?」
「ふ、あはは!いいかもね!」
「でしょ?三人でドレスを着て、一緒に写真を撮るの!」

 その日以来、幼馴染はよく布をかぶって結婚式ごっこをした。僕やもう一人の幼馴染は、交代で新郎や神父の役をする。花嫁役はいつも同じだった。三人で花嫁をしたこともあったが、結婚式が進まないので一回きりだった。
 そんなごっこ遊びの最中だった。僕らの家や遊び場が、突然なくなってしまったのだ。
 僕は、その時のことをほとんど覚えていない。何度も転びながら走って、いつの間にか二人とははぐれて、それでも走った。息をひそめて石のようにじっとしていたこともあったような気がする。
 自分がどこにいるのか分からなくなり、家にも帰れず、いつしか、二人のことは忘れていた。
 
「おい、大丈夫か、しっかりしろ。よく頑張ったな」

 どういう状況なのか全く分からなかったけれど、僕は軍人に拾われた。良い人ばかりで、安全な場所まで僕を連れていくと言ってくれた。丁寧に怪我を手当てし、食事も用意してくれた。泣いてばかりいた僕を抱きしめて慰めてくれた。
 優しい軍人いわく、僕がいた地域はとても危険らしい。僕が一人で生き延びられたのは、"一人だからこそ"目立たなかったためだろうと言った。
 僕は自分の身が安全だと実感し、そこでやっと家族や幼馴染たちのことを思い出した。
 
「家族や友達のことは心配だろうが、今は信じよう。避難出来ているかもしれない。君と同じように、どこかで保護されているかもしれない」
「……うん」
「どんな子なんだ?」
「……いっつもにこにこ笑ってる子。リスを見つけるのが早いんだ、走るのも速いよ。あと、ちょっとおとなしい子もいる。マイペースだから、いつも引っ張られてるんだ」
「仲良しなんだな」
「とっても」

 優しい軍人に甘えて、幼馴染をたくさん自慢した。僕は、これからまた日常に戻れると疑っていなかったのだ。
 現実は冷たいものだと突き付けられたのは、かたい毛布にくるまって寝ていた夜のこと。バラバラバラ、ダンダンダン、と嫌な音で目を覚ました。僕は寝ぼけており、ヒョウが降っているのかと平和な勘違いをしたが、軍人たちが武器を構えているのを見て、そんな呑気な事態ではないと気付いた。
 軍人たちの声は耳に入らなかった。僕は手を引かれて逃げていた。呆然としていて、何も考えられなかった。
 ただ、無線機を握って怖い顔をする軍人の言葉は、妙に頭に残っている。

「"毒蛇(ブラックマンバ)"がいる」
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