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全編現パロ(主に神居商事パロ)/順不同/随時修正
*0225:宇佐美/誕生日
「先輩、今日誕生日なんです」
モニターを凝視している彼女の視界にひょっこり入り込み、宇佐美はそう告げた。にっこりと、いかにもかわいい後輩ですという顔で笑ってみせる。
「誰の?」と、彼女は視線を固定したまま尋ねる。
「いやだなあ、知ってるくせに。僕に決まってるじゃないですか」
「……だよね」
そこでようやく、彼女の視線が宇佐美に向けられた。
「宇佐美くん、他人の誕生日なんて興味なさそうだもん」
つまらなさそうな声と瞳に、宇佐美の背中がぞくりと震える。
「先輩と鶴見部長以外は、ですよ」
「……はいはい」
モニターへ目を戻した彼女の横顔を、宇佐美はじっとりと眺める。しばらくそうしていると、彼女が眉間に皺を寄せた。
「……なに?」
「だーかーらぁ、誕生日なんです」
言葉尻をあげて甘えた声を出す宇佐美に、彼女はしぶしぶ口を開く。
「……おめでとう」
「ありがとうございます!」
満面の笑みを向けられた彼女は小さくため息をこぼす。
「なんで君はわたしなんかにかまうかなあ」
きゃあきゃあ言われてるくせに、と呟きながら、彼女はデスクから棒のついたキャンディを取り出した。
「はい、これプレゼントね」
どこにでも売っている 飾り気のかけらもないそれに、宇佐美は喉の奥で笑う。
「よく尾形くんと食べてるでしょ。宇佐美くんのほしいものなんて知らないし、それでいいよね?」
さっさと仕事をしなさい、と彼女の手がひらひら揺れた。
「わかってないなあ」
華奢な背中へ静かにつぶやいて、宇佐美は唇を舐める。
「――僕は、あなたがほしいんだけど」
*0214:白石/バレンタイン
「しっつれーしまーす!」
がらんとした室内に響く快活な声に、柚芽は顔を上げた。
「よろずぼーたろ王国の白石でーすっ」
ふざけた社名に軽いノリだが、オフィスのお困り事を一手に引き受ける、やり手業者のスタッフである。目を引くピンクのジャケットの背中には、でかでかと社名のロゴが入っている。
白石さん、と手を挙げると、目ざとく柚芽を見つけた白石が「お、柚芽ちゃんじゃーん!」と飛んできた。
閑散としたフロアを見渡し、「ひとり?」と尋ねる白石に柚芽は頷く。
「そっかそっか、昼時だもんな……で?柚芽ちゃんは調子の悪い複合機の業者対応、頼まれちゃった?」
「ふふふ、あたりです。あ、これ貰い物なんですけど、おひとつどうですか?」
柚芽が差し出した、今人気のモスモスショコラの箱を前に、白石は目を見張る。
「え、いいのぉ?」
そして、ちなみに、と視線を逸らす。
「……今日がなんの日かは、知ってるよねえ?」
「え?バレンタインですよね。あ、房太郎さんにもおひとつどうぞ」
「房太郎にもぉ?ちぇっ、俺にだけ特別かと思ったのにぃ」
子どものように唇を尖らせる白石に、柚芽は思わず吹き出す。
「それじゃあ、白石さんには特別に」
そう言って、白石の着ているジャケットと同じピンクの包みをつまんだ。
「この色たくさん残ってるからもうひとつあげちゃいます」
「えぇ、残り物ぉ……?」
「うそうそ。白石さん、ピンク似合いますよね」
そう言いながら、柚芽は白石の手のひらにチョコレートを乗せる。その瞬間彼の指先がピクリと跳ねた気がしたが、白石はすぐに「ぴゅう!ホワイトデーをお楽しみにぃ!」といつもの調子でウインクを寄越した。
「さてと、それじゃあその問題児はどこかな〜?」
そう促され、柚芽はフロアの隅に設置された複合機へと白石を案内する。
お仕事お仕事、と白石は早速カバンからタブレットを出して作業を始めた。
「異音がした、ねえ」
そう報告が来ているらしいが、エラーが出ている様子もなく、柚芽には何が悪いのかさっぱり分からない。
「すみません、わたしなにも聞いてなくて……」
「だいじょぶだいじょぶ任せて!」
恐縮する柚芽を励ますように、白石は親指を立てた。
そしてタブレット片手に、複合機の内部を確認していく。んー、と隅々までチェックする白石は、普段のおちゃらけた姿とは打って変わって真剣な表情をしている。その横顔を柚芽はぼんやりと見つめた。
「白石さんて、」
「んー?」
「きれいな顔してますよね」
瞬間白石の手が止まり、続いてがちゃん、とタブレットが落ちる。
「な、ななななななんて⁉︎ 」
「え?きれいな――」
「あーあーあーあー!!!」
白石の声に、開いている扉から数人が顔を覗かせたのが見えた。
「お、俺はそういうキャラじゃないんだって!」
「え、でも……」と続けようとする柚芽を「ほら、さっさと終わらせようぜ!」と白石は遮り、タブレットを拾い上げる。
「――柚芽ちゃんてさぁあ?」
「はい?」
「……いんや、何でもない」
薔薇の花束を手にした白石が、いつになく必死な顔で交際を申し込み 柚芽を驚かせるのは、そのひと月後のお話――。
*0203:鯉登,月島,菊田,有古,宇佐美,尾形/節分
定時を30分ほど過ぎた18:33。
飲み終わったカップを持って給湯室へ向かっていた柚芽は、背後からかけられた声に振り向いた。そこには、コート姿の鯉登と月島が両手に紙袋を持って立っている。現在は別部署だが、ふたりとも元直属の上司である。
「節分をするぞ!」と意気込む鯉登の横で、月島は「強要するとパワハラになりますよ」と呆れた様子を見せる。周りに誰もいないことを確認し、柚芽は自分を指差した。
楽しげにそうだと頷く鯉登を無視して、月島が口を開く。
「予定があるなら無理はするな」
「ちなみにそちらは――?」
視線で示すと、鯉登が誇らしげに紙袋を突き出した。
「ふふふふ、鯉登家御用達の職人に作らせた海鮮恵方巻きだ!」
「こっちは俺の行きつけの寿司屋のだ。シンプルだがうまいぞ」
月島も苦笑しつつ続ける。
むろん願ってもないお誘いを断る柚芽ではない。
その数分後には、空いている小会議室に広げられた恵方巻きを前に、目を輝かせていた。
ちなみに、節分の作法としては、豆をまいて厄を払ったのち恵方巻きを食べるのが正しい順序だと言われている。
「ふむ、ではまず豆をまくか」
「誰が鬼を?」
「私は豆をまきたい」
鯉登が即座に口を開き、月島は黙り込む。
「ええっと、よければわたしが――」
「「だめだ」」
ご馳走になるのだからそれくらい、と手を挙げた柚芽の言葉はすぐさま却下された。
「ええー……」
女性に豆を投げつけるわけにはいかないという趣旨の言葉をそれぞれが口にして、柚芽は口を尖らせる。
誰か呼び出すか、と鯉登がスマホを取り出し、しばらく画面を見つめて耳に当てた。
「鬼にならないか?」とよくわからない誘い文句で呼び出された菊田を前に、月島と柚芽はひくりと頬を震わせる。鯉登からすれば部下だろうが、ふたりからすると上司なのである。
だが菊田は、鬼役を思いの外すんなり、むしろ快く引き受けた。しかも運悪く通りかかった有古を捕まえて、「一緒に鬼にならねぇか?」と誘う。
そこに、面白そうな匂いを嗅ぎつけた宇佐美が尾形を連れてやってきて、豆まきが始まったのだが――。
「はぁ?なにが!社畜だ!労働は!クソだ!」
「いいぞ月島!」
「ちょ、ちょっと待て!」
「い、痛っ!俺、こんなの聞いてませんけど!」
ブチ切れたように豆を投げつける月島に、煽る鯉登、恐れ慄く菊田に今にも泣き出しそうな有古、そして笑い転げる宇佐美。
柚芽が身を隠したテーブルの下では、尾形がひとり恵方巻きを頬張っていた。
節分の夜は、こうして賑やかに過ぎていくのであった。
*0122:尾形/誕生日
俺のまわりは、何故かお節介なやつが多い。
「まだ誘ってないの?あの子だって暇じゃないんじゃない?」と、ほぼ毎日のように絡んでくる宇佐美。昨日など「誰かに掻っ攫われちゃうよ」「は、誰にだよ」「僕、とか?」とのたまったので、一発殴っておいた。宇佐美だけではない。あのバルチョーナク鯉登は、「何、誕生日に彼女と食事をしたい?! ちょっと待っていろ」とスマホを取り出し、ものの数秒で高級フレンチを予約した。言っておくが、一言どころか一文字さえそんなことは口にしていない。
月島さんは「仕事をよこせ」と積み上がった書類を持ってデスクに帰った。宇佐美曰く、残業しなくてすむように、だそうだ。
菊田さんに至っては、あいつに聞こえる声でわざと「お、尾形!今月誕生日なのか!いやあ めでたい!いつだって?え、22日!1月22日だな!そうかそうか!」と大声をフロアに響き渡らせた。恐ろしいことに俺は一言も発していない。というのは確か先週末のことだったか。
社外でいうとサバゲー仲間のヴァシリと義弟の勇作さんからもよくわからんメッセージが入る。どいつもこいつも暇なのか?
そんなやつらのせいで、俺の誕生日はあいつに知られているはずだった。
「え?今日がなんの日かって?」
なぜこの女は、きょとんという擬音しか当てはまらないような馬鹿面をしているのか。じっと顔を見つめ、無言の圧をかける。知っているんだろう、そんな純真無垢な顔をして。騙されんぞ。
「え、ていうか、そもそも今日って何月何日?2月…あれ、まだ1月?」
…………もしかすると本物の馬鹿だったのかもしれん。これなら菊田さんの大声すら耳に入らなかったと言われても頷ける。よもや聞こえていたが忘れたとは言わんだろうな。
「1月22日だ阿呆め」
痺れを切らして告げると、瞳孔が開くのが見えた。
お誕生日、おめでとう!
*1223:鯉登/誕生日
その日、鯉登の心はとても騒がしかった。
実際には言動も大いに忙しなかったのだが、誰も言及しなかったこともあり、当人は知らない。
華奢な背中を見つけて名を呼んだ。声が少々上擦っているのを自覚して、ひとつ咳払いをする。廊下の窓からは眩しいほどの西陽が差し込んでいる。振り向いた彼女が微笑んで、それだけで気持ちが弾んだ。
「き、今日、時間はあるだろうか」
思い切って口にすると、彼女は考えるように視線を流した。そして目を合わせてこう言った。
「特に急ぎの仕事はなかったと思います。なにかお手伝いすることがありますか?」
唖然とした。完璧に言葉を間違えた。ずうんと重い空気を纏う己に、彼女が不思議そうに数度瞬きをする。
「…………ファイリングを」
「わかりました、後でデスクに行きますね」
助かる、と呟いて頭を悩ませる。恥を忍んで再度誘いを試みてもよいものだろうか。もっとスマートに誘うはずだったものをぉぉ!と歯噛みしていると、彼女が恐る恐る言葉を紡ぐ。
「……あの…今夜なにか予定って――」
「キェ?! ない!」
反射的に叫んでいた。彼女は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしたあと、再度躊躇いがちに口を開く。
「もし、よかったら……その、一緒にご飯でも――」
「い、行く!」
またしても反射的に叫んだ返答に、彼女が嬉しそうに笑った。
*1126:菊田/誕生日
――ああ疲れた。
首と肩を回しながら社食を見渡す。忙しさで長らく訪れていなかったが、昼時という時間も相まって混み合っている。見知った顔を見つけ空いてるかとジェスチャーを向ければ、彼女は大きく頷いた。適当に日替わり定食を選んでテーブルへつく。
「菊田さんお疲れさまです」
「お疲れさん」
向かいで笑う彼女の前には、ほぼ空になった皿。休憩はもう終わるのだろうか。年甲斐もなく残念に思う自分に苦笑する。ふと、今しがた部下からもらって腕にぶら下げていた巾着袋が目についた。あー……と声を出すと、グラスの水をコクンと飲んだ彼女の視線が上がる。
「お前さん、大福は好きか?」
「大福?」
「誕生日プレゼントだともらったんだが、1人で食い切れる気がしなくてな」
言って、しまったこれはもしやハラスメントか?そう慌てていると、彼女は黒目がちな瞳を丸くさせる。
「菊田さん、今日お誕生日なんですか?」
「あ?ああ、まあ」
「おめでとうございます!わたしなにも用意してないのに、その上大福もらうつもりでいますけどいいですか?」
その言い分が可笑しくていいよと笑う。
「ご飯終わるの待ってますから、コーヒーくらい奢らせてくださいね」
願ってもない提案に目尻が下がった。
昼飯が終わり、開けた巾着の中には大福が3つ。鮮やかな苺が乗って可愛らしいそれに、彼女が「わあ」と歓声を上げる。あいつら、ジジイだから大福を寄越したと思っていたが、もしかすると違うのか?
きっと上司を上司とも思っていないであろうふたりに、今日ばかりは感謝――
と思ったところを、苺大福を頬張る彼女越しにニタニタと笑うふたりを見つけて、感謝など消え失せたのだった。
*1111:月島/ポッキープリッツの日
「二階堂くんの義手って」
向かいに座る彼女が唐突に口を開いた。昼飯時のことである。白飯から視線を移動させると、彼女は自分の箸を見つめている。
「お箸入ってるじゃない?」
それがという思いも相まり、「はあ」というぼやけた相槌を打つ。
「ポッキー入れたらだめかなあ?」
「、ポッキー?」
「形状似てるし」
「……なんのために」
「おやつに」
「誰の」
「わたしの」
「補給は誰が」
「二階堂くん?」
首を傾げる彼女に苦笑が漏れる。
「つまり、二階堂にたかるつもりだと」
「んー?んふふ」
子どものような笑顔に、菓子で釣れるなら安いものだと内心思う。
「あ、もしかしてプリッツ派?」
どっちもおいしいよねと続く会話を聞き流しつつ、食事を再開させる。
――どうでもいいが、ポッキーはどちら向きに入れるのだろう。そもそも箸はどう入っていた?と、ひとり頭を悩ませながら。