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煌びやかなネオン。
はしゃぐ子供の声。
ただよう甘い香り。
初めて目にする光景に、思わず目を瞬かせてしまう。
傍らの男は、緊張の面持ちをさっぱり隠すこともなく、おびえた表情のまま先ほどから私の横へぴったりとくっついている。
正確には私がその腕を抱えるようにして引き連れて回っているからこそ、まるで逃げ出すのを阻止されるかのごとく寄り添い歩いている状態なのだが。
第三者から見れば、仲の良い父娘の図だろう。男は少々成金じみた三つ揃えの背広姿で、かくいう私も、そんな父親に溺愛されているかの如く、可愛らしく着飾っている。
しかし実際のところ、私たちが親子でないのは言わずもがな。強いて関係性を上げるならば、搾取する側とされる側といったところか。男の及び腰っぷりは全く意に介さず、私はこの数時間ほど、己の欲求を忠実に実現させながら遊園地を楽しんでいる。
トロピカルランドの入口を抜けた直ぐ先、土産物屋が立ち並ぶバザールを抜けた広場で、キャラメルポップコーンのかぐわしい香りにつられ、おもむろに足を止めた。それにつられて男が慌ててたたらを踏んで止まる。
「ね、おじさん。わたしあのお菓子が食べたい」
「あ、あぁ。うん、うん…ちょっと待ってね、うん」
全くもって落ち着きのない返答である。胸元から財布を取りだしつつ、さりげなく腕から逃れようとする男を許さず、文字通り男を引き摺ってワゴンへ近づいた。
「それからね、それを食べたらパレードが見たいの」
「そ、そう。パレードね、うん。時間を調べなきゃあね、「大丈夫よ、もうすぐ始まるの。入口においてあったパンフレットに書いてあった」…あー…そ、そうなの」
「そうなの」
一方的に予定を組まれ、男の顔色がもう一段階ほど青くなる。どうやらこの後の己の予定が心底気になって仕方ないようだ。
男の表情にちら、と目を向けてから時計を確認し、笑顔で男に告げた。
「大丈夫よ、おじさん」
あれは丁度昼を過ぎたころだったろうか。突然着信を告げたスマートフォンを取れば、ウォッカからのヘルプコールだった。
昼過ぎの取引のはずが、なんとも見事に殺人事件に出くわして足止めを食らっているらしいと。極めつけは場所が遊園地ときたものだから、隠すことなく腹を抱えて笑ってしまった。
取引相手の社長をヒヨらせないように念押しとして急遽、トロピカルランドへ呼び出された私は、任務はさておき生まれて初めての遊園地に心躍らせたのである。
電話の切り際にウォッカへ特別報酬として鎌倉山の有名なチーズケーキを強請ってみたが、お願いだから取引相手のジジィに頼んでくれと素気無くされたのが少々遺憾ではあった。
あとで帰り際におねだりしてみようかしら、と邪なことを考えつつも、抱きしめるには少々心地の悪い男の腕を、再度引っ張って歩き出す。もちろんポップコーンバケットは男の首へひっかけてから。
怖がらないで。といったように、抱えた腕を優しくなでれば、それは逆に更なる強張りをみせる。
どうしてそんなに怯えてるの?と呟くが、一瞬交わった視線はすぐさまあらぬ方向へ逸らされた。
「もうすぐちゃんと、ジンのところへ連れて行ってあげるから、ね?」
男が更に脂汗をかき始めたのは最早言うまでもなかった。