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 宮野明美には生まれた時から幼馴染がいる。

 実際の所、幼馴染は明美よりずっと年上であったうえに、どこか生きる場所の違う人種で、正確に言うと幼馴染とは言えないのかもしれない。
 
 けれど物心ついたころから同じ屋根の下で過ごしてきた彼女――ましろは、明美にとってはやはり無二の親友で、大切な幼馴染だった。




 
「ねえりんごちゃん」

「…林檎じゃないわよ。ましろよ」

「だってお母さんがりんごちゃんのこと、りんごちゃんって呼ぶもん」

「あの女…」




 今思えば母は彼女に随分と、それらしく可愛らしいあだ名をつけたものだ、と少し笑ってしまう。


 明美が5歳になるかならないかといった頃、ほぼ同じくらいの見た目の癖に「もうとっくに煙草だって吸えるの」と嘯くましろの顔は、表情こそ大人びていたものの、今よりは少し幼さがあった。
 そんな風に大人びた様子でいつも、達観したように自分を見守ってくれていた彼女の隣は当然の如く居心地がよく、常にその後ろをついて回り、隣からいなくなった時はその姿をひたすら探し回った。
 最初はついて回られる事に少々面倒そうな顔もされたものだ。
 しかし態度とは裏腹に、ましろは明美がもたつけば歩調ゆるめるし、転んでしまえば驚いた顔をして駆け寄ってきた。呼べば必ず返事をしてくれるし、手をつなげば明美がそれを離すまでずっとつないだままでいてくれる。優しい姉のような存在だった。


「りんごちゃんは明美の家の子にならないの?」

「いきなりどういう事なの」


 ある日二人で人形遊びをしている時にふと、明美は湧き出た疑問を投げかけた。神妙な面持ちでバービー人形の服を縫っていたましろは、当然の如く素っ頓狂な声を上げる。


「だってこんなにずーっと一緒にいるのに。お姉ちゃんみたいなのに」

 
 プツ、と縫い終わりに糸を切り離したましろは、ため息を一つ吐いて針を裁縫箱に戻した。次いでその口から出てきた言葉に、思わず明美は目を丸くする。


「…私だって好きでここにいる訳じゃ…―――あ、ちょっと。ねぇ、そんな顔しないでよ。言葉のアヤよ」

「…あやちゃんの家の子になるの?」

「ああもうこれだからガキンチョは!」


 泣き出しそうな顔をしていたのだろう。明美の表情をみて今度はましろが目を丸くし、慌てた。見当違いの事をのたまう幼い少女をなだめるように、彼女はその頭を撫ぜる。


「私が隣にいる内は…まあ、お姉ちゃんの代わり位ならしてあげてもいいよ」

「ほんとう!?じゃあずーっと一緒ね!ずっと!」

「ずーっとって…」

「だって明美、りんごちゃんがどっかに行っちゃったときに探すの得意だもの」

「ああ…確かにかくれんぼとか、べらぼうに強いわね…」


 苦笑いを浮かべたましろを見て、明美は首をかしげた。


「だからってずっとは無理よ」

「どうして?」

「だって人間ってみんな、いつかは死んじゃうのよ」


 そう言って明美から視線を逸らしたましろの表情は、今思えばどこか淋しげなものだった。


「じゃあ、お母さんに死なないお薬作ってもらおうよ」

「…あんたちょっと他力本願過ぎるんじゃない」

「??」

「自分で何とかしないと駄目よってこと」

「じゃあ明美がいーっぱい勉強して、りんごちゃんにお薬作ってあげる!」


 子供の頃は誰でも、何でもできると思っていたものだ。
 意気揚々と声を上げた私に、何もわかっていなかった私に、彼女は少し困ったように笑ったのだった。


「フフッ…自分の分を忘れないようにね、Schwester」



 時折混じる彼女のドイツ語が、明美は好きだった。
 



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