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 砂袋のような音をたて、力なく男がくずおれた。
 乱れた衿元を整えた私は、床に転がるその頭を踏みつける。

「ほんと、変態が多いのね。最近」 

 やんなっちゃう。舌打ちを飲み込んでから、仕上げにかかるべく男の着衣に手を伸ばした。


 



 不本意な事に、今回引き受けた任務は二つあった。
 今更思い返したくもないのだが、任務のメールを見た瞬間は思わず絶句した。『ハワイに飛べ』という指令のついでとも言わんばかりに、追伸メールにて空港での一仕事を追加させられたのだ。
 別口の取引に向かう途中である運び屋の男から『情報の詰まった記憶媒体』を横取りよろしく奪取するという、子どもの遣いでもできそうな任務をこなすべく、私は苛立ちもそのままに成田空港へ入った。


 その後、ターゲットの男を空港のロビー内で捕捉した私は、そのまますぐさま行動に入った。
 本来の取引相手のフリをしながら、手っ取り早く多目的トイレへ連れ込みノックアウト。男が少女趣味だったようで幸いだった。
 
 荷物、衣服のポケットというポケットを探しつくした後、ふと目に入った大振りのネクタイピンをむしり取った。手で弄べばおもむろに横にスライドし、USBのジャックが出現する。ビンゴだ。

 
「Gut.あとは…」


 自分のスマートフォンを取り出し、リアカバーを剥がす。本来ならば電池とSIMカードなどがすぐに剥き出しになるはずの其処には、粘土質の物体がパテのように薄く塗り重ねてある。成田までのタクシー内で制作した、少量のC4を用いた簡易爆弾だ。スマホと連動させることで時限爆弾としての機能をDIYしている。それを男の懐に放り込んだ。
 表皮とその周辺を吹き飛ばしこそすれ、人を殺すまでは至らないだろうが、爆発してしまえば、『ネクタイピンがお釈迦になった』位には思ってくれるだろう。
 使用中ランプのボタンを叩き壊してからドアを閉めれば、カチャリと鍵のかかる音。これでしばらく男が見つかることもない。
 ここまで、およそ30分。
 誰ぞに自慢したくなるほどのスピーディーさだろう。
 しかし、私のひと時の満足感に水を差すかのような館内放送が耳をついた。
 

『迷子のお知らせをいたします。…東都からお越しの、白井林檎ちゃん。ご家族がお待ちです…』

「……あのバカ」







「お兄ちゃんが迎えに来てくれてよかったね」

「うん!!お姉さんありがとう!!!」


 笑顔のグランドスタッフへ元気よく返事をしつつ、繋がれた右手を握力の限りを尽くして握りしめれば、頭上から微かに痛みに呻く声が降ってくる。誰がシロイリンゴちゃんだ。ざまあみろ。
 


「だから毎度毎度、待ち合わせには場所を指定するものだと言ってるでしょう」


 途中でスマホもつながらくなるし、と睨めつけてくるバーボンから小振りのボストンバッグが放られる。そもそも、もう一つのスマートフォンを使って後から連絡を入れるつもりだったのだ。それをこのせっかちな男は。


「だってスマホ、時限装置に使っちゃったんだもの」

「……爆弾、作ったんです?」


 声をひそめたバーボンは、続けて懐から私のパスポートを取り出した。


「電話の後にちゃちゃっと」

「宿題片づけたみたいに言わないでください」


 呆れるバーボンを尻目に、私は保安検査場へ向かう。チケットの購入も、チェックインですら既にタクシー内で済ませてある上に、預入の手荷物も無い。最近の搭乗手続きは本当に楽で助かる。しかしボーディングタイムには突入しているため、少々気が急いてしまう。
 足早に歩いているつもりだが、傍らのバーボンは至って普通のスピードで並走してくる。嗚呼、むかつく程のコンパスの長さ。


「今日は随分忙しないですね」

「Das ist richtig.とっても急いでるの。あの銀髪野郎に目に物見せてやるんだから
 ――……あっ不味い、忘れてた!ねえ!バーボンこっち来て!」

「はい??」


  突如、スカートの下の重みをふと思い出し、思わず大きな声を上げてしまう。またもや手近の多目的トイレを探し当てた私は、引き摺ってきたバーボン共々そこへ引っ込む。

 ドアが閉まるやいなや、スカートを捲り上げた私にバーボンは一瞬ギョッとしたような表情を見せたが、すぐに察したようで代わりに裾を持ち上げてくれる。
 下穿きのパニエパンツの周囲へグルリと回されたベルトには、幾つかの暗器。そして腿にはデリンジャーが下がっている。それらを全て外し、バーボンに預けた。


「…剥き身のまま持って帰れと?」

「その大事な頭で考えなさいよ」
  

 腕に仕込んでいたクロスボウをも彼の腕中に放り込めば、眉間にしわが刻まれた。その辺に捨てられても困るので、仕方なくジャケットを脱いでそこに被せる。


「これで頑張って、お兄ちゃん」

「貸し3つですよ、シードル」

「多すぎるわよ」



 呑気に構えすぎた私の名前が、館内放送で呼び出しにかけられるまであと数分。

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