17
“もしもこれで組織から抜けることができたら
今度は本当に彼氏として付き合ってくれますか”
数年、久しく沈黙していた携帯が受け取ったメール。
10万キロ以上離れた彼女のもとから、たった今飛来したそのメールに、赤井は女々しくも保護をかける以外の術を持ち合わせていなかった。
スマートフォンとは異なる少々煩雑な操作を経て、メールに小さく鍵マークを付けさせた後、待受けに戻れば小さな画面の中に明美と、ハシバミ色の髪の少女が笑っていた。
“Umm…大。あなたって本当に可愛いものが似合わないわね”
かつてその少女と明美、己との三人で時折、街を巡り、海に赴き、果ては赤井を知る者なら目を丸くするであろう遊園地にまでも赴いた。
テーマパークの遊具を背景にしたその写真を撮ったのは勿論赤井自身で、その時はおそらくキャラクターもののカチューシャを無理やり被らされていた記憶がある。
いまだ鮮やかに蘇る記憶を紐解いていけば不意に、静止画のはずの少女が一瞬、微笑みを揺らしたような気がした。
三人で過ごしたあの不思議な時間は、赤井にとって暖かく、心地よく、それでいて今となっては傷口に食い込む棘のような記憶だった。
封印すれども捨てる事の出来ない思い出の数々は、とめどなく赤井の脳裏を駆け巡った。
にこやかな面持ちの少女を思い出す度に、赤井は時を同じくして、底のない沼のような記憶の中から無意識のうちに、彼女との初めての邂逅を思い起こしてしまう。
写真の中で微笑む姿とはうって変わって、その記憶の中では彼女、ましろは、まるで凍てつく氷のような面持ちで赤井を睨めつけていた。
“ライ。足を引っ張ったらその頭に風穴が開くわよ
―――…Viel Gluck?”
アイスブルーとも見紛う冷ややかなグリーンアイが、記憶の奥底で瞬いた。