・主人公≠審神者
・審神者は男(オリキャラ)
・主人公と審神者は友達同士
・一緒に連れてこられた設定
・主人公は本丸で雑用をこなす
「夜桜と月、なんて雅じゃない?」
歌仙が声をした方を見上げると、名前がにこにこしながら立っていた。
「君の場合は花より団子だろう」
歌仙はちらりと彼女の手にあるものを視界におさめると、馬鹿にしたように鼻で笑った。名前はむっと顔をしかめる。ただ、彼の憎まれ口はいつものことなので、軽く小突くだけで隣に腰を下ろした。そして、ゆっくりお猪口を口許に近付ける。
夜の本丸。中庭に面した縁側。歌仙兼定はそこでぼんやりと月を見上げていた。
このところの暖かさゆえか、中庭に植えられた桜の木のつぼみは少しずつ膨らんできており、いくつかは既に咲いている。つい先日、短刀たちが「花見だ、花見だ」と騒いでいたばかりだ。
風流を豪語する彼のことであるから、月や桜の木からなにか感じるものがあるのかもしれない。それとも、歌仙というぐらいだから何か句でも詠んでいたのだろうか。
「今日はすごく明るいね」
「そうだな」
あと数日もすれば、月は綺麗な丸になる。今夜の月は少々欠けているとはいえ、その美しさに変わりはなかった。
名前は歌仙と同じように月を見上げていたが、やがて目を細めると視線を下ろした。
月が持つ、闇夜を照らし世界をすっぽりと包み込むような眩しい光。それは幻想的だが、彼女が見馴れた人工的な光と比較すると、何処かほの暗い闇を抱えているように思えて恐ろしかった。
名前は変に覚めてしまった頭をもう一度埋めようと、ぐいっとお猪口を傾けた。隣の彼はそれを呆れたように眺める。ぼそりと、雅じゃないとこぼした。
徳利がふわりと浮かぶ。
「歌仙も飲むでしょ?」
「いや、僕は……」
「じゃあ俺が飲むー」
第三者の声に二人が驚いていると、歌仙用に用意されてあったお猪口があっという間に誰かの手のなかに移動された。二人から「あ」とも発される間もなく、その中身はどんどんと誰かのなかに溶け込んでいく。
「!、蛍丸!!」
「、あ、え、蛍丸!?
ちょっとなにしてんの!?」
歌仙の声に一瞬遅れて名前が反応した。小さい身体に高く間延びした声。―――蛍丸だった。歌仙は慌てて蛍丸の手からお猪口を取り上げようとしたのだが、彼はそれを予想していたようですらりと避けられてしまった。
機動――俊敏さに関しては歌仙の方が格段に上のはずだが、蛍丸は賢かった。それに、今は刀を持っていない。空になったお猪口を見せるとにんまり笑う。
「美味しいねーこれ」
「はぁ……」
歌仙は疲れたように顔を覆った。
「こら!蛍丸!これはお酒なんだよ?」
「だから?」
蛍丸はこてんと首を傾げる。
「子どもにはダメなの!」
「子ども?」
――俺が?蛍丸は眉間にシワを寄せた。そして、子どもじゃないよ?と、さも当たり前のことのように告げる。その眸に嘘は見当たらなかった。本心のようだ。
名前は、彼があまりにもそう自然と言うものだから、一瞬素直に肯定しそうになってしまった。しかし、空気を悟ったのか、歌仙が「その身体で何を言うんだ?」と 尋ねたのでそれには至らなかった。
「身体?小さいってこと?」
「あぁ」
「えー。確かに見た目は小さいけれど、年齢的には十分大人の仲間だと思うよ?それに、俺だって神さまだもん」
「「……」」
ぐうの音も出ないとはこのこと。名前と歌仙はお互い顔を見合わせると苦笑いした。
そもそも、蛍丸の言う通り“彼ら”はもともと刀に憑いた付喪神だ。人間の子どものような体格をとっている短刀たちもいるが、それらはあくまで見た目だけのものであり、それは人間の子どもとは本質的に異なる。となると、名前と歌仙が言った「子どもは酒を飲むな」という道理は通らないだろう。
歌仙はすぐに合点がいったようだった。自分もそうだからだろう。それに、蛍丸の方が歌仙よりも古い刀だ。ただ、名前は何となく釈然としないものがあったようで、未だに渋い顔をしていた。
蛍丸はおかわりをねだった。
「ちょーだい?」
「えー。まだ飲むの?」
「うんっ」
蛍丸は花が綻ぶような笑顔を見せた。名前は困ったように歌仙を見上げる。
「別に構わないんじゃないか?」
「えっ。歌仙ちゃん本気!?」
「かっ……」
歌仙ちゃん……。
歌仙はぴくりと口許を揺らしたが、一つ咳払いして言葉を続けた。
「僕は蛍丸の言うことは間違っていないと思う。蛍丸も“子どもではない”というのであれば、自分の身体ぐらい管理できるだろう。そうだろう?蛍丸」
「うんっ!俺できるよ!!」
蛍丸はその言葉に大きく頷くと、名前を見上げた。眸は爛々と輝いており、彼女からのオッケーサインを心待ちにしている。
「……あー、まぁ……うん。いっか」
「わーい!」
蛍丸は両手を挙げて喜ぶと、今まで自分が持っていたお猪口をさっと歌仙に手渡した。そして、そそくさと自分用の湯飲みを取りに走って行ったのだった。
***
「ね?あのねあのね?この前のね!」
名前は、自分の膝の上で上機嫌に身体を揺らす蛍丸を見て、深い溜め息を吐いた。隣に座る歌仙はそれに我関せずといった態度で、一人夜酒を楽しんでいる。
蛍丸はこの一時間、ずっと彼女の膝上を陣取っていた。しかも、ただ座るだけではなく激しく動き回るので、名前の足の痺れはとうに限界を超えてしまった。
彼女は何度目か分からない助けを乞う。
「かせんちゃん〜〜」
「名前!今俺とお話ちゅうだよ?」
蛍丸は、顔を背けた名前の両頬を掴むと、無理矢理元に戻した。
「うぐっ」
「楽しそうで何よりだ」
歌仙はくつくつ笑った。
「うん!たのしいよ〜〜」
「……あーもー歌仙!ちょっともうこれどうにかしなさいよ!!」
「これ〜〜?」
「ふむ、僕は知らないよ。責任はないからな」
「はっ!?」
頬を薄く染めた歌仙は、そう淡々と答えると瞼を擦った。夜も遅く、酒も入ったためそろそろ眠気がやってきたのであろう。
「え、待って。責任はないって?」
名前は目をぱちくりとさせた。
「そのままの意味だが?」
「……え、本気?何言ってんの?さっき蛍丸のこと擁護してたじゃん!」
「あれは擁護ではなく、意見だ。最終的に判断したのは君だろう。
それに僕はきちんと、『蛍丸が自身で管理できるなら』と言ったはずだ。つまりこのことに関しては蛍丸に責任がある。
そもそも、その小さい身体で飲む速度が早ければ、僕たちと比べて酔いが回るのも早いことくらい想像がつくだろう」
よって、やはり蛍丸が悪い。
歌仙は蛍丸の頭を軽く小突くと、腰をゆっくりと浮かせた。
そして、「では、僕はこれで失礼するよ。おやすみ」と愛想もなく告げ、この場を去っていこうとした。
「―――ちょっと待て」
――のだが。
名前に素早く着物の裾を掴まれ、身動きがとれない状態となってしまった。
「…離せ」
「……あのさぁ歌仙、」
額に青筋を浮かせた名前は、その裾を思いっきり引っ張った。「!」
歌仙にとってその行動は予想外であったが、日頃から鍛練をこなしているおかげで、ただふらつく程度ですんだ。
しかし、そこに畳み掛けるように蛍丸が飛び付いたのだった。
今度もまったく予期してはいなかったうえ、人一人の体重を支えきるのは、ふらついた状態では、さすがの歌仙もうまく対応することができなかった。
「、!?」
――どすんっ。
廊下に鈍い音が響いた。彼らは二人まとめて床に倒れ落ちてしまった。
「〜〜っ、貴様……!!」
「―――俺が、なんだって?」
滅多に聞いたこともない蛍丸の声音に、歌仙ははっとした。先ほどまでの酔っ払ったテンションはどこへいったやら、これでは戦場にいる時と変わらない。いや、むしろ相当な手練れである彼なので、戦場でもなかなか味わえないかもしれない。
「ほぉら歌仙。蛍丸が怒ったよ」
名前がにっこり笑った。
「俺の、責任?それじゃあ俺が自分のことも管理できないお馬鹿さんみたいじゃん。
てゆーか、歌仙のくせに俺の頭つんってするのとかナマイキだよね?」
「あ……蛍丸……?」
「なに」
「いや、酔っ払ってたんじゃ……」
「さてね」
蛍丸は鼻で笑うと、倒れたままの歌仙に馬乗りになった。そして、襟首を持ち、ぐっと顔を近づけた。その距離数センチ。
「名前、いーい?」
「はーい、やっちゃってくださーい」
「!?、待て。僕はただ、」
「あらら、」
「命乞いなんて、雅じゃないね?」
後日、本丸では、蛍丸を背負いながら歩き回る歌仙の姿が話題になったのであった。
(20150401)
蛍丸ちゃんは歌仙より自分は上だと思ってる。あと、蛍丸ちゃんは酔っ払った振りをしてるだけで、ただ主人公に甘えたかっただけだったらいいなあっていう妄想。