※海賊フェスより(保健室生中継後)
※主人公=朔間家長女(姉)
『太陽にやられて倒れちゃった……。
今は保健室で寝てます><』
*
「とかいうLINEがきたから来てあげたのに……。随分と楽しそうじゃない?」
名前は額に青筋を浮かべ、口許を引きつらせた。零は反対ににこにこと嬉しそうに笑っている。「名前ちゃん〜。待っておったよ!」そしてベッドから立ち上がると小走りで彼女を抱きしめた。その反動で、彼が先ほどまで楽しんでいた華やかなグラスの氷が、小さく音を立てた。
彼女は今日、自宅でのんびりと休みを満喫していた。もともとは買い物に出かける予定だったのだが、弟一号からライブがあることを聞き、それに行くことにしたのだ。それまでは、自宅で録りためたドラマを観ながら時間を潰す。彼女にとって、今日はなんてことない普通の休日だった。
冒頭の一文がその一号から送られてくるまでは。
「まぁ、いつもの通り、大したことじゃあないとは思ったけどね……」
「なんじゃ名前ちゃんは薄情じゃのう」
さみしい。零はその細長い指を目尻にあてて泣き真似をした。
「なに言ってんの。私はいつでも優しいでしょ?今日だって来たし」
その言葉に零は幼子のように頬を膨らませた。
「ほぉほぉ、そうじゃったかのぅ?どうせ暇じゃなかったら、我輩になど興味もないくせに」
ぷい、とそっぽを向く。
「あーあー、凛月はうらやましいのぉ。我輩と違って、どんなワガママを言っても許してもらえるからのぉー」
三人兄弟といえば、よく見られるのが一番上と下が極端に仲良くなる光景である。朔間家も三人姉弟だが、長子である名前が末っ子の凛月を気にかけて世話をするのは自然の流れだった。特に名前は責任感が強かったため、弟を守ろうといつも凛月のそばにいたおかげで、凛月自身も随分と名前になついて頼りにしていた。
どうやらそれが零には不満なようだ。
「もー、零ってばいつもそれ言うね」
「だって事実じゃ」
ふん、と鼻息。
「そのくせ凛月の前では“お兄ちゃん”でいたがるんだもんなぁ」
「…それはまぁ、しょうがないじゃろ」
「はいはい。まあ何でもいいけど。
でもとりあえず今は――、」
名前は自分に凭れたままの零を押し退けると、そのままベッドへと連行した。
「寝てようね」
まったく予期していなかったのか、その行動に狐につままれたような表情(かお)をした零はされるがままで、最終的にベッドに腰かけ、名前を見上げていた。
「なーに?」
「や、急にどうしたのかと思っての」
その言葉に彼女はやれやれと首を振って、近くの椅子を引き寄せ腰を下ろした。二人の眸が交わる。同じ色だった。
「だってまだ顔色悪いじゃない?」
零の頭を優しく名前の手が滑る。「完璧に覚醒したわけじゃないんでしょ?」一回。二回。三回。零は思わずうっとりと目を細めた。わんこみたい。名前が笑う。
「うーむ、まだまだ言いたいことはあるんじゃがの……。許してやらんこともない」
「ありがとうございまーす」
「その代わり、目一杯甘えさせておくれ」
零の腕が名前の腰を引き寄せた。ベッドが二人分の体重に軋む。そして彼女の首もとに鼻先を擦り付け始めた。「だーめ、」
「その前に、体力回復が先でしょ?」
頭頂からするすると下りてきた彼女の手が、零の頬を掴み、軽く捻った。
「どうせこんな状態でもライブには出るんでしょうから。寝なきゃだめ。中途半端なパフォーマンスなんて許さないよ」
「……む」
「かっこいいお兄ちゃんなんでしょ?」
「……今は名前しかおらん。甘えたがりのかわいい弟、じゃ」
零は頬にそえられた手に自分の手を重ねると、小さく指先でリズムを刻んだ。彼なりの『相手をしてほしい合図』だ。
「んー、じゃあライブが成功したらご飯食べに行こうか。それでいいでしょ?」
「……二人で?」
その言葉にぴたりと名前の動きが止まった。すると次第に小刻みに揺れ始める。「……ぶっ、ふ、」彼女は堪えられないとばかりに笑いを漏らした。
「………」
「…っ…はいはい、二人で……」
「よし、分かった。寝るとしようかの」
「はぁーーお子ちゃま零くんの相手は凛月と同じくらい面倒だわーー」
名前は未だしがみついたままの弟の背中を優しく叩くと、離すよう催促した。零は素直にそれに従い、寝床の準備をする。「あ、待って」
「?」
「寝る前にその衣装着替えちゃってね。シワになる。シミも拭いとくから」
シミ?彼が疑問に思って彼女の指先を見やると、たしかに胸元に何かがついている。大方グラスに飾られていたフルーツだろう。零はしまったと苦笑いした。
(20150826)土下座します。