朔間兄弟(+薫とKnights)




※この間の海賊フェス話の主人公と同じ
※朔間家長女(姉)
※朔間兄弟+薫とKnights




『はぁ?プレゼントを貰ってない?』

 薫の素っ頓狂な声に名前は苦笑いした。そうみたい、と告げれば電話越しに『くっだらねぇ!!』と他の誰かの声がする。恐らく晃牙だろう。『――んなどうでもいいこと忘れてシャキッとしやがれ!ぬるい演奏しやがって!!――あ!?なんだって!?――コラッ、寝るなよっ!!――、』そんな怒鳴り声とともに破裂音に似た音が耳に入ってきた。
 『煩くてごめんね?』と薫が言う。彼女はあははと笑い返して、こめかみを押さえた。
(こちらこそごめん……)
 そして人知れず溜息を漏らしたのだった。



 とりあえず来てという薫の懇願に負け、名前は今都内のイベントホールに訪れていた。駅前からの道のりはおしゃれをした女の子たちで溢れかえっており、みな一様に楽しげに笑っていた。
 11月某日、今日はUNDEADとKnightsの合同ライブだった。珍しい組み合わせではあるが、朔間零と瀬名泉、そして羽風薫の誕生日が11月初頭にまとまっていたこともあり、学園側――噂の転入生――が企画したものだった。所謂バースデーライブだ。ただ今回のライブは薫たっての希望で、学園内での開催ではなく、ホールを貸し切っての大きなイベントであった。零がわくわくするのぅと目を輝かせていたのを彼女は覚えている。
「失礼します」
 あらかじめ話は通してあったようで、名前はスタッフの一人にすんなりと控え室まで案内された。「UNDEAD様」と書かれた貼り紙のあるその扉は、なんとなく彼女を誇らしい気持ちにさせる。

「あ、名前さん!来た!!」
 薫が一目散に彼女のもとへ駆け寄ってきた。「良かった〜!ありがとう!もう朔間さんったらあれからずっとあんな調子で……」そう言って眉を下げた薫の視線の先を辿ると、ソファーにごろりと横たわる弟一号が目に入った。

「うわ…不機嫌そう……」

「そうなんだよね。これからライブだってのにすっかりへそ曲げちゃって」

「あー……ごめんね?」

「いや、俺もどっちかっていうと迷惑かける方だからなにも言えないけど」

「あー………、」
 名前は『そうだね』という言葉が出かかったがのみ込んだ。
「あ、そうだ薫くん、誕生日おめでとう」

「わー、ありがとう!嬉しいなぁ、名前さんに祝ってもらえるなんて思ってもみなかったよ!それに、」

 薫はそう言って言葉を切ると、自然な動きで名前の腰を引き寄せた。「名前さんが来てくれて本当に良かった。……会いたかったし」顔と顔が近くなり、美しい鼻筋に目がいった。彫刻のようだと名前はぼんやり考える。そのまますっと視線を上げれば、挑戦的な意思の強い眸と目が合った。睫毛がぱさりと揺れた。

「薫くん」
 ――と、ここにきてだんまりを決め込んでいた零が、初めて動いた。

「名前を口説くのは構わんが、適度な距離を保つようにといつも言っておるだろう」
 身体を起こした零はひとつ欠伸をして、無表情で二人を見つめた。その眸の輝きはひどく冷めきっており、語調もやや強い。
「名前ちゃんも、満更でもないって顔はやめなさい」
 指摘された本人はむっとして零を睨んだが、彼はしらんぷりをしてまた横になってしまった。

 辺りは静寂に包まれた。残された二人は顔を見合わすと苦笑いした。

「あちゃー…余計機嫌を悪くさせちゃったかな?ごめんね、名前さん」
 薫はひょいっと肩を竦めた。

「大丈夫大丈夫。何とかするよ。それより、大神くんとか大丈夫?怒ってない?乙狩くんもここにはいないみたいだし」

「あの二人なら今リハーサル中。晃牙くんは怒りが収まらないみたいで、とりあえず演奏で鬱憤晴らしてるところ。アドニスくんはそのお目付け役ってところかな」

「なるほど」

 薫は口では申し訳なさそうにしているものの、零の様子を物珍しそうにちらちら眺めていた。それもそのはず。零が人前で子供のように機嫌を悪くすることなど滅多になかった。先ほど名前を抱き寄せたのも、いつもの彼なりの挨拶ではあるが、半分は零をからかうためでもあった。普段、簡単な挑発には乗らない性質の零のその反応は、薫の好奇心を強くくすぐったのだ。
(―――まったく、)
 めんどくさい弟を持ったものだ、と名前は嘆息した。そして薫にお礼を言い、二人だけにするよう頼んだのだった。




「――零、行ったよ」

 足音が完璧に遠ざかったことを確認して、名前はソファーに横たわる弟に近付いた。すると彼は徐に起き上がり、顔をくしゃっと歪めた。

「名前ちゃん……」

 甘えるように腕を伸ばしてきたので、名前は両方の手を握ってやり、隣に座った。彼はそのぬくもりを頬に寄せ、ほうと一息吐く。そして身を寄せて後悔の言葉をこぼした。
「やってしもぅた…」
「そのようだね」
「はぁ……」
 重い溜息が部屋に浸透していって、ふと消えた。名前がなんて言葉をかけてやろうか思案していると、視線を向けられているのに気が付いた。目と目が合えば頼りなさげに微笑まれる。
「プロとして失格じゃの」そう大袈裟に肩を竦めた。

「…そんなにショックだったの?凛月がプレゼントくれないことなんていつものことじゃない」

「……もっとオブラートに包んで言ってほしいのじゃが…。いや、実はな、そのこと自体は然程気にしていなかったんじゃが……」

 零の話によるとこうだ。午前中、自分たちの順番を待つついでにKnightsのリハーサルを見学していた。するとKnigthtsの面々がプレゼントの話を始め、そこで凛月が自分には誕生日プレゼントをくれなかったのに、同じユニットの瀬名泉には渡していたことを知ってしまったらしい。

「おにいちゃん悲しい……」
 よろよろと、零はこれまた大袈裟に名前の肩へともたれかかった。

「…………」

「…………」

「…………」

「……名前ちゃん…馬鹿にする気持ちは百歩譲って許すとして、もっとオブラートに……。我輩だて、こんなにショックを受けるとは思ってもみなかったんじゃ。ただ、そのあと気乗りはせずともきちんとリハーサルをこなしたつもりだったんじゃが……、」
 零は深く息を吐く。

「……大神くん?」

「正解じゃ。わんこに目ざとく気づかれてしまってのぅ。それを指摘されてしもぅた」

「あちゃー」

「それでちぃとばかしイラッとしてしまっての、」

 このザマじゃ、と零はやれやれと言わんばかりに首を振った。
 本人が見たくないと思って蓋をしていたものにたまたま晃牙が気付いてしまい、掘り起こされてやる気がなくなってしまったらしい。零本人もライブは楽しみにしていたし、せっかくの自分のバースデーライブなのだから成功させたいとは思っているが、どうにも気持ちがついていかないのだろう。

「名前ちゃん……どうしたらいいじゃろうか……?」

 まるで捨てられそうな犬の如く必死にしがみついてくる。
 彼女は心底面倒くさいなあと思った。本来なら、そんなこと知ったことか、プロならシャキッとしなさい阿呆が!と突っぱねるところだが、今回は零一人のためのバースデーライブというわけではなく、瀬名泉や羽風薫、二人のためのライブでもある。愚弟たちのせいで二人、強いては二つのユニットメンバーに迷惑をかけるわけにはいかない。
 仕方ないな、と彼女はいよいよ目の前で眸を潤ませ始めた弟を眺めた。

「…はぁ…わかったよ。ちょっと待ってて」

「名前ちゃん……!」

 その言葉に、表情をくるっと180度変えて笑った彼を見て、彼女は弟の真の狙いを悟ったような気がした。




「あらぁ〜!あらあらあらぁ〜〜!!」

 鏡の前で丁寧に化粧を施していた嵐が、一際嬉しそうな声で叫んだ。すると、来客にも関わらず、特に気にすることなく各々の作業に集中していた他のメンバーも、つられて扉の方を振り向いた。

「お久しぶりね〜」
 嵐はそう言って腰を上げると、部屋を見渡した。「ええっと、凛月ちゃんなら……」だが驚くことにすでにその本人は名前のそばに立ち、……否彼女に抱き付き、首もとの匂いをくんくんと嗅いでいるところだった。
「ふふ、あいっかわらず凛月ちゃんはお姉さんが大好きね〜。焼いちゃうわぁ」
 嵐がくすくすと笑う。名前は苦笑いしながらKnightsの面々に挨拶をした。
 名前は零と別れたあと、Knightsの楽屋に訪れたのだった。

「こんにちは、忙しいところにごめんなさい。ちょっと凛月に急ぎの用事があって……。借りてもいいかな?」

 答えたのは泉だった。
「いいけどぉ、本番前にはちゃんと返してよねぇ」
 むすっとした顔でスマホを操作している。誰が来たのか確認できた時点で、彼の意識は作業に戻ったらしい。邪魔されたとばかりに少々不機嫌だった。

「ありがとう。……あ、そうだ、遅くなっちゃったけど瀬名くん誕生日おめでとう」

 泉がふと顔をあげた。名前と視線が絡む。そしてぶっきらぼうに「ドウモ」と返してまた視線を下ろした。
 すかさず司が声を荒げる。

「Oh…ちょっと待ってください瀬名先輩!せっかくお祝いをしてくれたLeadyにその態度はいかがなものかと……!」

「気にしないで、朱桜くん。これこそセッちゃ…じゃなかった、瀬名くんじゃない」
 凛月がいつもそう呼ぶものだから、つい『セッちゃん』と呼びそうになって慌てて訂正した。残念ながら泉は反応してしまったたようで彼女をじっと見つめている。

「あ〜……ごめんね?」

「…別にいいけどぉ」

「名前、」

 すると凛月が話を切るように名前を引っ張り、自分の正面に置いた。普段とろんとした彼の眸は珍しくも鋭く、まさに何かを糾弾しようという雰囲気だった。思わず名前は身構える。察しのいい彼女は既に何を言われるのか分かっていた。

「ゴミ虫に会ってきたでしょ」
 続けて「俺より優先したんだ」と血のごとく赤い眸がぎらぎらと輝きだす。

「……凛月、お兄ちゃんのことをそう呼ぶのはやめなさいっていつも言ってるでしょ?」

「ふぅん、あいつの肩を持つんだ」

「そんなこと言ってないって……」

 途端、凛月は顔を俯かせた。
「…名前はいつも俺がイチバンって言うけど、やっぱり本当はゴ……兄者の方が好きなんだ……嘘ついてたんだ……」

「だからぁ、」

 こうなった凛月はもう止められない。お得意のさみしんぼモードに突入してしまった。彼が満足するまで甘やかしてやらないかぎり、ずっと臍を曲げたままになる。特に今日は“兄者”のためのライブでもあるから、最悪歌わないとも言いかねない。
(……ほんっとうに面倒くさい弟たちを持ったなあ、私よ……)
 苛立ちでぴくぴくと痙攣する口許を隠し、そっと視線を泉の方に回した。彼は傍観者を決め込むようで、口パクで何かを伝えている。恐らく『何とかして』だ。彼は諦め、助けを求めて嵐や司を見てみるも、困ったように眉を寄せるだけで何かしてくれそうな気配はなかった。
 注釈しておくが、何もKnightsの面々が薄情な訳ではない。全員が全員、こうなった凛月を何とかできるのは名前だけだと思っているからこそ、傍観しているだけなのだ。勿論、名前自身もそれはできなくないと思っているが、如何せん面倒だった。


「おお?なんだどうした?」
 ふと扉が開いて、誰かが入ってきた。

「リッツと……んん?」
 それは既にステージ衣装を身に付けている他のメンバーと違い、何故か私服を着たままのレオだった。
「Leader!!!」
 司の怒号が飛んだ。名前は聞いたこともない司の声に驚いて飛び上がった。

「いったい今までどこにいらしたんですか!?もうRehearsalは終わってしまいましたよ!?あなたは何を考えて……!」

「あーあー、スオーはうるさいなあ。それより、リッツはどうしたんだ〜?それに、あんたは誰だ……?」
 眉間にシワを寄せ、むむ……と考えだしたレオに名前は苦笑いした。

「朔間名前です。凛月の姉の。前に会ったことあるんだけど、忘れちゃった?」

「……リッツのお姉さん?……あ、あーー!分かったぞ!思い出した!シスコンリッツの噂の姉か!!」

「…あぁ、うん……」
 なんとなく、お前にだけは言われたくないという雰囲気が部屋に漂った。

「それで?リッツはなんでそんなに泣きそうな顔してるんだ〜?喧嘩か〜?」
 レオがけらけらと笑う。

「まぁ喧嘩といえば、喧嘩だよねぇ?」
 泉がニヒルな笑みを浮かべた。
「でもぉ、本番まで時間も少なくなってきてるし、『王さま』も来たことだしぃ、そろそろ確認とかしたいんだけどぉ?」

「……」

 回りくどいが、要するにはやく片を付けろ、だ。彼女としても彼らの邪魔をするつもりは到底ないので元々そのつもりだったが、どうも自分が悪者扱いされているようで腹が立つ。泉を見やれば面白そうに笑っていた。また口パクで『がんばって』と、絶対に思っていないだろうことを伝えてくる。

「うん、うん……ごめんなさいね。ちょっと凛月を借りるから、すぐ、戻るから」
 名前はとりあえずこの場を後にして、凛月の機嫌を直そうと決めた。そして零の機嫌も直す。もう時間はあまりない。

「んん?わかったけど、はやく返してくれよー。リッツがいないと練習にならん」

 快活なレオの笑い声にまた司の怒号が飛んだようだった。しかし、既に部屋を出ていた名前には、何を言っているのかは聞こえなかった。




 むすっとしながらも一応は付いてくる弟の姿を確認し、名前は辺りを見渡した。二人きりになれる場所が良かった。
 忙しそうに駆け回る劇場スタッフたちが何事かと見てきた。アイドルが見たことのない女の子に引っ張られている姿など、あまりいい光景ではない。しかし、今はそんなことは気にしていられなかった。放っておけば弟サマの機嫌はマッハで降下していくし、もう一人の弟サマもどうなるか分かったものじゃない。ふわ、と欠伸をした凛月をおさめて、恐怖に身体がぴしっとなった。
(寝ちゃうかも!?)
 冷や汗を流す名前の視界に、一番始めに見たとある部屋の扉が見えてきた。そう『UNDEAD様』と書かれたあの部屋だ。そこでふと閃いた。ひとりひとり攻略するよりも、まとめて攻略した方がはやいかもしれない。意を決して、彼女は扉をノックした。
「どうぞ」零の声だった。
 しめた、と彼女は拳を握った。

「零、いま一人?」

「んん?おぉ、名前ちゃんか。そうじゃよ、我輩ひとり……」
 別れたあとまたふて寝していたのだろう。ソファーに寝そべっていた零は重たい身体を持ち上げ、瞼を擦った。アイドルらしかぬ大きな欠伸もひとつする。
「凛月もおったか」
 一瞬目をぱちくりとさせたが、すぐに目許をやわらげて笑った。

「……チッ」
 一方、凛月は会いたくない人物に会ってしまったため、不機嫌さを惜しげもなく出し、名前に掴まれてさえいなければ今にも部屋から飛び出してしまいそうだった。
「りつー、こっちきて」
「……」
 無言で首を左右に振る。
「おいで、いっぱいぎゅーしてあげるから」
「……」
 しばらく逡巡したが、その誘いは彼にとってとても魅力的だった。そのため兄を警戒しながらも、彼女とともに大人しくソファーに座ることにしたのだった。
 ソファーに朔間姉弟が三人、並ぶ。

「はいほらりっちゃんおいでー」
 名前が両腕を広げると、すかさず凛月が彼女を抱き締め自分の方へと引き寄せた。その様子を物欲しそうに眺めていた兄へ挑発的な視線を送り、ぺろりと舌なめずりする。
「……り、」
「凛月、歯を立てたら許さないからね」
「大丈夫。分かってるよ」
 首筋に鼻を寄せ、舌先でゆっくりと耳の裏まで味わうようになぞっていく。もちろん、見せつけるように零から見えやすいような角度でだ。時折視線で兄の様子を確かめるので、零は弟が自分を意識してくれていることに喜びを感じながらも、大切な姉を弄ばれていることへの苛立ちを感じていた。

「名前のニオイすき……」

 小さく、リップ音が鳴る。
 幼い子にするように背中を叩いてあげていた名前はそれにドキッとした。この場に二人だけではなく、零という第三者がいて、尚且つ二人の行為を見られていることを意識したからだろう。普段されるよりも幾分ドキドキして、背徳感に押し潰されそうになった。

「名前は俺と兄者、どっちがすき?」

 この質問は何度もされたものだった。

「……どっちも好きだよ」

 首もとから顔を離した凛月は、ぷっくりと頬を膨らませ不満げな顔をした。

「じゃあ、どっちが可愛い?」

 これも使い古された質問だった。

「うーん…………凛月、かなぁ」

 その言葉に彼は蕩けるような笑みを浮かべた。「うん、うん、だよねぇ。そうに決まってる」再び彼女を抱き寄せ、もう離さまいとしっかりと腕のなかに閉じ込めた。
 おかげでぽっかりと名前と零の間に距離が空く。凛月はそれを見て、次に無表情で二人を見つめる零を見て、花が綻ぶように笑った。一瞬、兄の眉間にシワが寄ったのを決して見逃さなかった。

「俺もね、名前のことが大好きだし、“誰よりも”一番大切に思ってるよ」
 そう言ってまた首筋に愛を落とした。彼の機嫌はすっかり直ってしまった。




「あのね凛月、話があるの」
 すりすりと甘えたがりの猫のように擦り寄っていた凛月は顔をあげ、なぁにと口許をやわらげた。――名前は確信した。彼は既にもう攻略できた、と。
 となると次は事の発端、一号の零くんである。凛月にしっかりとホールドされているため彼女には後ろの様子は分からないが、いい顔はしていないことだけは分かっている。さっきからちょいちょい服の裾を引っ張ってくるのだ。構ってほしい合図。
 不機嫌凛月くんを何とかするには、零の前で甘やかすのが一番だと思ってしたことだが、我ながら怖いことをしたものだと彼女は未来の自分にエールを送った。

「今日は零のバースデーライブでしょ?」

 凛月の動きが止まった。
 名前は言わないべきかとも悩んだが、もう後に引くわけにもいかなかった。

「……」

「そういえば誕生日パーティーみたいなことをしてなかったし、今度三人でやらない?お家でやるのもいいし、何処かに食べに行くのでもいいし。ね?」

「……」

 ぐっと眉間にシワを寄せて、彼は葛藤していた。彼もバカではないから、この質問で彼女が何をやりたかったのか気付いただろう。
 凛月とて、名前のお願いにはすべて是と答えてやりたいとは思っている。姉と二人でパーティーであればそれほど嬉しいことはないし、デートに出かけるのも申し分ない。だが、兄がいるのであれば話は違う。

「……ヤダ」
 散々悩んで、凛月は兄が喜ぶことに協力するのを忌避した。ぷい、とそっぽを向いて、この話を終わらせようと欠伸をした。

「……凛月、お願い」

「名前のお願いでもそれは無理。兄者とご飯なんて、考えただけでもぞっとする」

「……はぁ、」

「凛月、」

 今まで口を閉ざしていた零が前のめりになった。彼は自分からも言って聞かせようと思ったのだ。だが、名前に手で遮られてしまい、大人しく元の位置に戻った。
 名前が溜息を溢す。

「……お姉ちゃんね、たまには三人でご飯とか行ってみたいの」

 ちらりと凛月は姉を窺った。

「そういう姉弟っぽいことしたいのよ。二人とも最近はお仕事も波に乗ってるみたいであんまりお家にいないじゃない?だからちょっと……寂しいのよ……」

「……え」

 それは凛月にとって衝撃的な台詞だった。驚きで思考が止まる。ぼんやりと彼女の悲しげな顔を見つめた。
 彼らに名前が弱音を吐くことはほとんどといっていいほどない。彼女はプライドが高く、いつも彼らにとって最良の姉でいようと努めていたからだ。そのことを彼ら兄弟は歯痒く思うもよく理解していた。

「…………わかった」

 だから凛月は承諾した。
 たとえ姉が、自分を懐柔させようと嘘で言っているのだと分かっていたとしても。
 そんな姉にこれ以上ワガママを言うことなどできないと感じたからだ。

「ほんと?嬉しいなぁ、ありがとう!」

 ――それに、もしかしたら本当にそうなのかもしれないし。
 凛月は嬉しげに微笑む姉を見て、明日の仕事はバックレようと決めた。




 顔を真っ赤にした司――怒りとも羞恥心ともとれる――に引きずられていった末っ子を見送り、名前は脱力した。零はそんな彼女の肩を叩き、賞賛する。
 室内は零と名前の二人だけになった。

「さっすが名前ちゃんじゃの〜」
 零は上機嫌で拍手した。

「はいはい。これでいいんでしょ?……ったく、あとで三人に謝っておきなさいよ。巻き込んじゃってかわいそうに」

「…ふむ、やはり気付いておったか」
 事の真相について教えよう。
 実は今回の件、半分は零が仕組んだものであった。弟が自分以外の人間にプレゼントを渡していることを知り、傷ついたことこそ事実であるものの、そのあとの誕生日プレゼントをもらうまでのシナリオを作りあげたのは彼だった。落ち込み、やる気をなくした姿を見せれば姉が動いてくれると確信していたのだ。姉さえ味方になれば凛月も自ずと手に入るので、今回は全員、彼にうまく踊らされてしまったというわけだ。

「バカにしてんの?あんたの魂胆なんてバレバレだから。同じ血が流れてるのよ?」
 名前はいらいらしながら弟の頬を引っ張った。

「言っておくがすべて嘘ではないぞ?わんこのあれなど本当にキツかった」
 鼻を数回啜って泣き真似をした。名前の手が離れる。

「じゃあ、弟が自分を優先しないからって拗ねたのは本当なんだ」

「……ちぃとその表現は解せないが…まぁ、そうじゃな」

「はーー、あんたたちめんどくさすぎ」
 彼女は目眩に襲われような気がして、ふらっと体勢を崩した。するとすかさず零がそれを支え、腕のなかに彼女を閉じ込める。あまりの華麗な動作に反応できなかった。零も凛月も、すぐ彼女をしまいたがる。

「……やめなさい」

「クックック……じゃがうまいこと進んでくれて良かったわぃ。名前ちゃんのおかげじゃの〜。名演技じゃった」

「どーもー」
 そう言って彼女は弟と距離をとろうと手に力を込めた。
 動かない。

「凛月と食事なんていつぶりかのぅ。よきかなよきかな。今後いつこんな機会があるとも分からんから、楽しみじゃわぃ」

「お姉さまに感謝しなさいよ?もう二度とこんなことしないからね?今回のは来年の分の誕生日プレゼントだから。
 ……で、離してくれる?」

 しかし零からの返答はなかった。彼女が不思議に思って見上げてみると、にこにこと人好きする笑みを浮かべていた。聞こえていなかったのかと思い、念のためもう一度伝える。が、笑顔を崩さずそのままだった。
(……あ、こりゃ無理だ)
 彼女は瞬時に悟った。

「今度は我輩の番じゃろ?」

 そう言って彼は指先を彼女の唇に充てた。赤い眸がぎらぎらと輝きだす。
 彼女は本日何回目かの溜息をこぼした。




(20151211)このあとげきおこ晃牙がやってきてぎゃんぎゃん騒ぎまくる。
大変遅くなりましたが零くん、せないずみ、薫くん、誕生日おめでとうございました!!!!今回はKnightsも出せたので本当に嬉しいです〜〜!!

ALICE+