Knights




※瀬名姉
※瀬名泉イメージ崩れます注意
※デュエル後



「あらぁ、面白くなりそうね」

 Knightsの控室。
 開かれた扉に視線をやった嵐はそう言って口許を緩めた。そして横で寝そべっていた凛月の耳許に顔を寄せ、何かを呟く。すると普段なら巨石の如く動かない彼が徐に身体を起こし、嵐と同じく扉の方を見やった。
 にやり。何か良からぬことを企んでいる顔だ。二人は顔を見合わせくすくす笑った。
 司には二人が何を楽しんでいるのかが分からなかった。彼がその先を見ても何らおかしい点が見当たらなかったからだ。――女性が扉から入ってきたことを除いて。
 誰かの知り合いだろうか?司がぼんやりとその女性を記憶の底から探していると、泉が目の前を横切った。

「ほら、司ちゃんよく見ておきなさいよ。これから楽しいことが始まるから」

「え?」

 振り向けば、嵐が携帯を片手に肩を小刻みに揺らしている。眸が獲物を見つけた肉食動物のような輝きを持ち、少し怖い。「ス〜ちゃんも、はい」今度は凛月から声がかかった。何かを差し出されたので見れば、それは司の携帯であった。
 司はとりあえずお礼を言ってそれを受け取ると、携帯と先輩たちを交互に見比べた。やはり彼にはまったく意味が分からなかった。よくよく見れば、凛月も同じように携帯を握って肩を震わせている。二人とも必死に笑いを堪えている様子だった。

「…あの、いったいこれは……」

「まぁ見てれば分かるよ〜」

 そう言って凛月は、まるで彼の大好きな血にありつけたときのように、ご機嫌に指先をある方へと向けた。
 それは先ほど入ってきた女性と、慌てたように彼女に駆け寄った瀬名泉の姿だった。
 


「ど、どうしたのいきなり……」

 泉はぱぱっと乱れた髪を整えると、簡単に自分の身なりを確認した。おかしいところはない。強いていうならライブ後なため少し汗臭いくらいだろうか。彼は、すぐに着替えておけば良かったと後悔した。

「あ、泉お疲れさまー!いやぁ、せっかく見に来たんだし、久しぶりにKnightsのみんなや真くんに挨拶でもと思ってね!」

「っちょ、」

 名前は興奮気味に早口で伝えると、弟の返事も待たず真正面からハグした。「かっこよかったー!めっちゃ楽しかった!!」そしてそのままぴょんぴょん飛び跳ねる。あの曲のあそこが好きだの、あの時の泉のターンがきれっきれだったなどと、彼が固まっていることに気付いていないのか、ライブ感想は止まることをしらない。

 本日行われた『デュエル』は、歴史あるKnightsのお家芸のようなものだった。久しぶりに復活するということ、また対戦相手があの真の所属するTrickstarだというので、名前はこの日を前々から楽しみにしていた。弟からその話を聞いたとき、すでに入っていた予定を蹴ったくらいだった。
 ライブは彼女の予想以上だった。否、予想の何百倍も良かった。元々Knightsの歌は彼女の好みにあっていたが、何より今回は、歌っている彼らが今まで見たどのライブよりも輝いて見えたのだ。何も知らない彼女でも、前回見たときと今回では圧倒的に何か変化が起きていることを悟った。それは目の前のステージで、繕いもせず、年相応の笑顔を見せた弟が何よりの証拠だった。だから彼女はその彼らの熱気にやられ、随分と興奮してしまっていたのだった。
 それに彼女はとても感動していた。

「ん〜〜いずみくん!さすが私の自慢だ!なんでも買ってやるぞ〜〜!」
 言い終わった途端ぎゅっと抱き締める力を強め、頭を乱暴に撫でた。泉は声にならない悲鳴を上げ、再度固まった。
 ここにきて、あまりの急展開にただ見物するだけだった司が、慌てて立ち上がった。このままだと彼女が危ないと思ったからだ。泉が他人に容赦ない人間だというのはよく理解していたので、彼女のために止めに入るべきだと思っての行動だった。

「ダーメ」「ストップ」

「え、」

 しかし、そばにいた二人の先輩たちから同時に裾を引っ張られ、自然と元の位置に戻ってしまった。「な、なぜです!?なぜ止めるんです!?あのLadyがあぶなっ、」最後まで言い切る前に凛月によって口を塞がれてしまった。司はふがふがと不服の意を申し立てた。覆った犯人は一瞬そんな彼に視線を寄越すも、すぐに向こうへ意識を集中させた。
 つん、と司の頬がつつかれる。

「心配しなくても彼女は大丈夫よぉ。むしろ泉ちゃんの方が心配なくらい」
 嵐がくすくす笑った。

「……?」

「ほら、そんなことより司ちゃんもはやく携帯持って。泉ちゃん覚醒しちゃう」

「いや…、ですから、先ほどから私にはさっぱり何が何やら分からないのですが……」

「あら!そうね!先に説明しておきましょうか。まず彼女は泉ちゃんの、」
 そこまで嵐が意気揚々と語ったところで、凛月が二人の会話を遮った。
「動いた」 

 その言葉とともに、普段からは予想もつかない早さで凛月の手が離れ、携帯を構えた。
 促された方を見ると、先ほどまで抱きしめられて固まっていた泉が、ゆっくりゆっくりと腕を動かし、彼女をぎこちなく抱き締め返していたところだった。ひどく頼りない手つきだった。
 司は目を見張った。それだけではなく、泉が素直に「ありがとう」と答えたからだ。それも恥ずかしそうに、消え入りそうな声で。横で二人の先輩たちが同時に吹き出した。そしてお腹を抱えながら、震える腕を必死に堪えてその光景を連写している。

「え?……え?え、」

「つ、つか、つかさちゃ、シーッ」
 途中で笑い声を含めながらも、嵐が注意する。ほとんど声が出ていなかった。むしろそんな彼の方がうるさいくらいだった。むっとした司はそれを無視すると、また件の泉たちの方に視線を向けた。
(あの瀬名先輩があんなに大人しくなるなんて……。彼らはとても親密な仲に違いありません。もしやgirl friendでしょうか?)
 気になるが、今訊いたところで誰も答えてくれないだろう。二人とも写真を撮るのに一生懸命だった。それに凛月に至っては動画を撮り始めたようで、改めて声を出さないようにと指を立てて注意された。
 あんなにもじもじおどおどした瀬名泉など、彼は今まで見たことがなかった。やっと距離をとった彼女は、名残惜しそうに泉の頭を撫でる。それを泉が本当に嬉しそうに受け止め、彼女からの誉め言葉にいちいち「うん」「ありがとう」などと健気にも答えていた。ほとんど天変地異だった。

「俺、かっこよかった…?」
 泉がはにかみながら問う。

「!…また…これはなんと……」

 ほとんど無意識だった。あまりの衝撃で、この時のことを彼はよく覚えていないと後程語る。つい、司も二人につられて携帯を構え、写真を撮った。
 ――パシャ。音が響いた。

「!、っちょ、!?なにっ、」

 その音にだらしなく顔をゆるめさせていた泉が普段の彼を取り戻したようだった。司は気付いていなかったが、凛月と嵐は写真を撮る際、シャッター音を鳴らしていなかった。だからこそここまで気付かれなかったのだが、そのことについて彼は知らなかった。
 どすどすと苛立ちを足音に表しながら、泉は三人に近付く。「一体なにしてるのかなぁ〜!?」その般若の如き形相に思わず司は身を縮ませた。握られた拳に殴られると思って目を瞑った。「今すぐその写真を消し、」ふいに泉の言葉が不自然にも切られた。不思議に思った司がそろそろと瞼を開けると、二人の先輩が携帯画面を泉に向けている。それを、まじまじと彼は見つめていた。そしてほんのりと染まる頬。

「よく撮れてるでショ〜?」
 嵐が甘ったるく話しかける。

「二人とも、お似合いだねぇ」
 凛月がにこにこ笑った。

「……、」

 泉がぐっと押し黙った。しばらくの間、拳を開いたり握ったりとしていたが、やがて「……それ、後で送って……」と恥ずかしそうに呟くと、またそそくさと彼女の元へと戻っていった。
 ぽかんと、信じられない思いで司はそれを眺めていた。まさか、あの瀬名泉が大人しく引き下がるなんて。彼女に、なんでもないと大袈裟に身振り手振りで伝える彼と普段の彼が同一人物など有り得ない。

「…Oh my god……」

「ね?面白いでしょ?」
 嵐がくすくすと司の脇腹を小突く。

「これでしばらくはセッちゃんを好きなように使えるねぇ」
 凛月がこてんと司の肩にもたれて携帯を揺らした。

 司は二人と視線を交わせると、期待感に胸を膨らませた。むずむずした感覚が彼のなかに広がっていく。

「確かに、これはとっても……“面白い”ですね」

 そして新しい玩具を手に入れた子供のように、無邪気に笑った。


(20160215)瀬名泉がめっちゃシスコンだったら面白いですね。knightsは本当に書いてて楽しいです。

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