『ふたり』
おれはどこにもいかないよ。彼女に言ったそんな言葉はきっとうそだった。正しくない言葉であると自覚しながら言うものがうそと定義するならば、紛れもなくそれはうそだった。
夜空を見上げる。眠ることを失った彼はひとり、こうして夜をひとりで眺めているのだろうか。彼に「つまんないうそつくね」とわらわれたような気がしたから、あの日ただしく言うべきだった言葉が白い吐息とともに漏れていく。
「おれはどこにもいけないよ」
どこにもいけない。ここでしかいきていけない。迅悠一は、ここで生きて、ここで死ぬ。よりよい未来を選ぶために、最良の死に際をここで選ぶ。
きっと、最後まで彼女には言えないけれど。