そして袋小路
照準をあわせる。
十字に区切られた丸い視界で、ただしい位置にひとの頭が見えそうだ。さん、に、いち、とカウントダウンは頭の中で響いて、指に力を込める。
いま撃てば、ただしいところへ位置されたひとの頭は熟れたトマトのように爆散することがわかっていた。それが望まれていることを知っていた。戦争ごっこの真っ只中、やけに静かなその場所で、自分の荒い呼吸の音だけが響く。
どうせトリオン体なのだから、頭ひとつ弾け飛んだところでひとは死なない。鳩原がそうであるように、作戦室のベッドから起き上がって悔しさに顔を歪めたり、やられたと言って笑ったりするだけだ。
そんなこと、いわれるまでもなくわかっている。それでも呼吸は荒くなり、手は無意識に震えてしまう。
幸福と呼ばれるものは、とかく鳩原未来を望む先から遠ざける。かみさまのいないこの街で、何度空を仰いだことだろう。もう数えきれないほど、無力感や絶望はそのたび丁寧に鳩原の心を灼いた。
かつてあたたかい家で美味しいご飯を食べながら家族と笑いあった記憶が、引き金に力をこめようとする指を詰る。
かつてともに育ちながらも瓦礫にうずもれ無惨にも死んでいった友人たちとの想い出が、丸い視界の中にいる人の頭を弾き飛ばそうとする意志を責める。
ああ、と息を吐いた。崩れ落ちるようにしゃがみこんだ。うまく呼吸ができなくて、ひどく苦しい。酸素の供給がなくとも生きていけるはずのからだは、まるでほんとうの生命をもつ肉体のように喘ぐ。
「ごめんなさい」
なみだすら流れることのない、このかりそめの肉体さえも砕けない、自分の弱さが厭わしかった。こんなことならいつかなくなる幸せなんてひとつだって要らなかったのにと叫んでみても、きっとなにひとつかわらない。