残り火
ずっと一緒にいたわけでは決してなかった。ミスラがチレッタの一番の理解者であったことは一度もないし、その逆もまた然りだ。寒く厳しい北の国で一人で生まれ、一人で生きてきたミスラとチレッタは孤独以外に馴染まない。たとえ束の間そばにいたって、冬が戻って秋になり積もった雪が溶けていくような、そんな違和感を拭えないからミスラはチレッタと離れていく。時は巻き戻ってはいけないし、死者は蘇ってはならないし、月は落ちてきてはならない。生きていくためにはおかしてはいけない不文律というものが確かに存在しているのだから。
ひとりで生まれてきたからには、ひとりで生きていかなくてはならない。ひとりで生まれたものがふたりで生きていこうとすれば、必ず歪みが生じてどちらかを、あるいは両方を損なうだろう。チレッタは孤独だからこそ美しく、ミスラは孤独だからこそ獣と恐れられるほどに強い。だから正しいはずだった。孤独を保ちながら、束の間そばにいて笑いあい、たまに生きているかなと思考する、それが正しい関係だ。
(正しかった、はずなのに)
鳴り響くベルの音は軽やかなはずなのに今までのすべてを否定するように重く、訳の分からない感情の奔流に襲われてミスラはただ立ち竦んだ。孤独だからこそ美しかったはずの魔女は孤独を打ち捨てて虫けらのように弱い人間と添うことを決めたのに、それでもその美しさはひとかけらも損なわれることはなかった。目を伏せて幸福そうにはにかみ笑うその顔は、まったく知らない人のようで。
(あなたは、)
そのときはじめて気が付いた。
孤独に生まれてきたから孤独以外に馴染まなかったのではなく、ただミスラは、チレッタに選ばれなかっただけなのだと。それは臓腑にすとんと落ちてきて、そしてそのままじりじりとやわらかな肉を灼く。その熱を持て余す頭の中に、また鐘の音が響く。
だれがいなくてもいきていける。
だけど。
(俺は、)
もうすべて手遅れの熱が望んだ痺れるほどの願い事は、口にする前に崩れていった。