ただの恋だよ。
夜更けすぎ、灯りに乏しい本丸は、ろうそくを持たなければ足元さえも覚束ないほどの闇にすっぽりと包まれる。さして役にも立たない裸電球を点けて、目をこらしながら調べ物をしていたとき、ふいに後ろから声がかかった。
「最近きみは俺を避けていないか」
夜闇に浮かぶ白い装束。金の瞳をゆるりと細め、鶴丸国永は静かな口調でそう言った。
「……気のせいでしょう?」
短い言葉でそう答え、わたしはまた書類に目を落とす。「それだ」と彼は端的に言った。
「きみはそうやって、俺との話を避けている。意図的じゃないなんて言わせないぜ」
「………………」
「俺がきみを不愉快にさせるようなことをしたのなら謝る。なあきみ、そんな態度をとられるのはこちらとしてもつらいんだ。許してくれとは言わない。俺の至らないところを、どうか教えてくれないか」
「……いたらない、ところなんて」
思わず言葉がつまる。きっと鶴丸は、わたしが考えている以上に傷ついている。
傷つけたのは、わたしだ。
「至らないところなんてないわ」
「じゃあきみは」
いつのまにか後ろに立っていた鶴丸は、しゃがみこんでわたしの手を掴んだ。ぐい、と身体ごとそちらを向かされ、蜂蜜色の瞳と間近に見つめ合う。
「どうしていつも、そんなに泣きそうな顔をしているんだ」
俺と話すときはいつもそうだ、と、やわい蜂蜜色が自分のほうが泣きそうな色をにじませていう。
ああ、ちがうのよ。思いながらわたしは顔を逸らす。彼が傷つく音が聞こえる気がする。
「ほんとうに、ちがうの」
言えない言葉を呑み込んで、わたしはただそうくりかえす。