強がりな彼女
例えば気が強そうだとか、人を頼らなそうだとか、一人でなんでもできそうだとか。そう周りから言われるけど、決してそんなことはない。印象が一人歩きしているだけだ。
仕事で必要なことを指摘しているだけだし、人を頼りたいけど迷惑ではないだろうかと考えてしまい声をかけるのが苦手で、一人でなんでもできるわけではない。
それなのに「俺がいなくても生きていけそうだから」なんて理由で先週彼氏に振られた。
「もーほんっとにどうしてなの」
「ははっ、いつもその理由で振られてんね」
「……そんなに強そうに見える?見えないでしょ」
「よくしなしなになってるから俺にはそう見えないけど」
「そうでしょうそうでしょう」
梅酒の氷をカラカラと揺らしながらカウンターの端っこで不貞腐れる。こうして振られるのは一度や二度ではない。どこからそんな印象を抱くのかわからないけれど、何故なのかそう言われることが多い。
今私の愚痴に付き合ってくれているのは、高校の同級生である黒尾。彼とはこうして偶にさし飲みする仲ではある。勿論お互い彼氏や彼女がいる時は二人で飲むなんてことはしないけれど。
……あれ?社会人になってから黒尾が彼女いたことってあったっけ。黙っていればイケメンで、家事もできるし自立してるし何より面倒見が良くて優しい。こんな優良物件、周りの女が放っておくわけないと思うんだけど。
もしかして黙っていれば、の部分が見透かされているとか?いやでもそれを差し引いても悪くないと思う。もしかして私が知らないだけで実は彼女がいるのだろうか。
「ねぇ黒尾は彼女いないの?二人で飲んでて大丈夫そ?」
「いねーよ、社会人になってから一度もね」
自分の心を見透かされたような回答にどきりとする。「俺の事気になっちゃった?」なんて揶揄うように彼は口端を上げた。
「や、黙っていれば結構優良物件だよなと思って」
「一言多いんだよお前は。でもま、ずーっと気になってる人はいる」
「なに、なんで言ってくれないの!高校からの付き合いじゃん、言ってよ!私の知ってる人なら面白……協力できるかもしれないのに」
「本音出てたって。まぁ協力してほしいなとは思いますけど」
「言ってみてよ、水くさいなぁ」
これはいい酒の肴だと、心を躍らせ耳を傾ける。実に楽しそうな話ではないか。
「まぁ結構長い付き合いになる人。小心者で甘え下手で手のかかる奴なんだよ」
「へぇ手がかかるんだ、でもそんなところがいいんでしょ」
にんまりとしながら小突けば、目を細めいたく優しい声色で「まぁな」なんて口にする。本当にその人のことが好きなんだろうなと、彼のその表情から明白だ。
黒尾の好きな人の話なんか初めて聞いたから、それだけでこっちまで口角が上がる。話の腰を折らない程度に茶々を入れながらその相手を想像した。
「周りに頼るのも下手くそで、とりあえずで色んなこと抱え込むんだよな」
「うんうん」
「そのせいか一人で生きていけそうなんて言われてこの前彼氏に振られてたなぁ」
ちょっと待って、雲行きが怪しくなってきた。……まさかそんな偶然ある?彼がずっと気になってる人ってまさか。
じわりと顔に熱が集まるのがわかる。なんだか変な汗まで出てきた。どうか気の所為であってほしいと思いながらも目は泳ぐ。
「まぁでも、そんな一面は俺だけ知ってたらいいって思ってるし。……な、そろそろ男として見てくれてもいいんでない?」
私の動揺が見て取れたのか、黒尾は意地の悪い笑みを浮かべてそう口にした。