2024/09/23 - 甲斐田

メンヘラ甲斐田
「遅かったね、同窓会楽しかった?」
「うん、話が弾んで連絡しそびれちゃった」
「僕も今配信終わったとこだけど、まだ帰ってないなって思ったから心配になってさ」
「ごめんごめん」

玄関に入れば晴がリビングからひょっこりと顔を出した。時間を見て急いで帰ってきたけれど、やっぱり心配させてしまったようだ。先に連絡入れればよかったと少し後悔する。

「連絡入れればよかったね、次からそうするよ」
「うん、でももう大丈夫かも」
「……そ?」

ヒールを脱いで玄関のラックに鞄と上着をかけ、晴に抱き付く。「晴いい匂い」飲み会は香水だのタバコだのキツイ匂いが多かったから、彼の香りに安心を覚える。「甘えたじゃん。ほら行こう、疲れたでしょ」とそのまま抱っこしてリビングにあるソファーへとおろされた。

「……で?男の人もいたんだよね、楽しかった?」
「え?なに」

ソファーに片膝をついて、私のすぐ横に手をつく彼。突如雰囲気が変わったような気がするのはきっと気のせいじゃない。顔はいつもの笑顔なのに声は笑っていなくて、ひゅっと息を呑んだ。いつもと様子が違う、なに、どうしたの?
するりと私の髪を掬い「……たばこの匂いがするね」なんて言ったそのすぐ後、首元を甘噛みする彼に動揺が隠せない。

「……っ」
「あーあ、行く前にマーキングしておけばよかったかな」
「晴……?どうしたの、なんかいつもと」
「いつもと違うって言いたいの?そうかもね、でもさ、本当の僕はこれ。きみのことを愛してて、本当は誰の目にも触れさせたくなくて、他の奴の匂いをつけてくるなんて言語道断だよ」
「は、る」
「今まで嫌われたくないから隠してたけど、もういいよね?きみも僕のことが好きなんだし。……ふふ、かわいい」
「なに……」

違和感のある首元を手で触れれば、何かがつけられている。ネックレスではない、これは「チョーカー……?」と、こぼれた私の言葉に彼は満足げに笑みを浮かべた。

「そうだよ、やっぱり似合ってるなぁ。鍵付きにしてよかった。あとこれも」

呆然としている私の手首にかけられたのは、ブレスレットなんて可愛いものではない。その言葉を聞くと無機質で痛い物という印象を覚えるけど、全然痛くなくて。でも、なによりも怖い。

「心配しなくて大丈夫だよ、痛くないように作ったからね」
「晴、どうしちゃったの?これ、外して……」
「だーめ、いつ逃げちゃうかわかんないから。でも大丈夫、もう君は働かなくても生きていけるくらいのお金は十分あるから安心して」
「はる……」
「ふふ、これから」

ずっと一緒だね。

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