そろりそろりと近づいて、びっくりさせようと思ってもいつも気づかれてしまう。
「わっ!」
「……驚かないと何度言ったらわかる」
「いつかは驚くかなって」
「無駄なことだ」
何度チャレンジしても結果はいつも同じ。自分では足音も気配も消しているつもりだが、何故か気づかれてしまう。
危険な仕事もしているというし、特殊な訓練でもしているのだろうか。
それでも有の驚いた顔が見てみたいというのは私の単なる好奇心だ。いつも涼しい顔をしている有の一風変わった表情はどんなものだろうと、ただそれだけ。
「付き合う前というか、出会った最初の頃は俺の背後に立つな。とか言ってたよね」
「そうだったか」
「ゴルゴかと思った」
「ゴルゴ……? よくわからないが、もう少しでご飯ができる。大人しく待ってろ」
「はあい」
彼はゴルゴを知らないようで、頭の上に疑問符を浮かべている。こういう微妙な変化も好きなんだけれども、もっとあっと驚いた顔が見たい!
キッチンから追いやられた私は、ソファーへ腰かけ【動じない人 驚かせる方法】を検索した。
…
ーーとはいえ、簡単に見つかるものではなかった。寝起きドッキリみたいに、寝てる時とか? でも有が寝てる時は大抵私も寝てるし。ぼーっとしている時は……ないな。うーん、付け入る隙が見つからない。
「ーー聞こえてるか」
「うわっ! ……びっくりした」
耳元で響いた私の名前を呼ぶ彼の声に、心臓がどっと音を立てる。探すことに集中していて、声をかけられていることに全然気が付かなかった。
呆気にとられたまま瞬きをしていると、ご飯ができたことを教えてくれた。
「あ、ありがと」
「……ふっ」
有の口元がほんの少しだけ緩んで小さく息が漏れたのを、私は見逃さなかった。でも、一体どこに笑う要素があったかは疑問だけれど。
「有、何が面白いの?」
「いや、なるほどと思っただけだ」
「なんのこと――」
「驚いた顔が見たいなら、好きにすればいい」
「え、」
「あんたのそんな顔も悪くない」
彼のその言葉を理解すると同時に、じわりと頬へ熱が集まる。前触れもなくそういうことを言うのは反則だよ。
「……ずるいわ」
「? そう思われるようなことはしていないはずだが」
本当にわかっていないとでもいうような顔をしていて、それが少しだけ悔しかった。