寝落ちたあと6

……あれ、なんで寝……っていうか重。
ぼんやりとした頭で薄く瞼を開けると、私の視界に鎖骨が飛び込んできた。驚きから一瞬で目が覚めて、少し視線を上げれば「おはようございまーす」と添くんが笑っている。

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「え!? ……いっつー」
「はは、寝ぼけてます?」

距離の近さにのけぞると、思い切り壁に後頭部をつけた。めちゃくちゃ痛い。
とはいえ、離れようと思っても腰には彼の腕が回され、足は絡められていて。先程よりもしっかりと抱えられているので、それ以上身動きは取れなかった。
カーテンの隙間から見える空は暗くなっていて、部屋にはいつの間にかオレンジの明かりが点けられている。

「待っ、え、なに。どういう、」
「あんたから会いに来たんでしょ」

この体制は一旦置いておいて。その言葉を咀嚼しながら半分寝ていた脳を叩き起こすと、先ほどまでのことを一気に思い出した。
成り行きとはいえ彼の職場に行くなんて……改めて考えても非常識だし恥ずかしすぎる。

「あれは、そうじゃなくて」
「あーあ、あそこは寮でもあるのに。上司にも顔知られちゃいましたね、突撃してきたのはオレの彼女だって」
「エッ……」

寮でもある? 職場じゃなくて? だから帰ってたとか、そんな風に西園さんは言ってたんだ。
サッと血の気が引く。そんなプライベートな空間にずけずけと乗り込んだ彼女というレッテルを貼られたじゃん、絶対。あーなんですぐに断れなかったんだろう。なんて、今さら後悔しても遅いけれど。

「赤くなったり青くなったり忙しいですねー」
「だ、誰のせいだと思って……」
「オレのせいじゃないですよね」

──ぐうの音も出ない。どちらかと言えば違いした西園さんと、それに流された私のせいだ。服を返しに行くなんて思わなきゃよかった。

「……で、わざわざ服返しに来ただけ?」
「全然連絡がつかないから、少し心配で。……あとは会えなくなる前に、服だけでも返そうと」
「へぇ。んで、あわよくばフェードアウトしようと思ったわけですか」
「そんなことは思って……ないよ」
「わかりやすいって言われません?」

まあこの関係に終止符を打ちたいと、全く思ってないと言えば嘘になる。けれど、連絡が取れなくて少し心配していた気持ちは本当だ。
その結果、またこうして一緒にいるわけだけど。……本当に、この人はなにをしたいんだろう。

「何か聞きたいことあるって顔してますねー」
「……聞いたら教えてくれるの?」
「言わないですけど」

にっこりとそう口にするものだから少し腹が立つ。身動きの取れない状態でも顎に頭突きはできそうだ。試しにやってみたけれど難なく躱され、そのまま首元へと顔を埋める形になってしまった。

「アハハ、大胆ー」
「ちょっちが……っ」

後頭部も押さえつけられる中、自由に動く腕で彼の背中の服を掴んで引っ張ってもびくともしない。逆に動いたせいで彼の香りが鼻腔を満たし、くっついた肌から直接体温を感じた。
……よく考えたら密着しすぎじゃない!?
このゼロ距離に改めて気づき、顔だけではおさまらず全身が沸騰したかのように熱くなる。もぞもぞと抜け出せないかと動けば腹部に硬いものが当たり「あ……え、」なんてわかりやすく動揺の声が漏れた。

「……あんたが動くからでしょ。生理現象なんでその内おさまりますよ」
「や……でも、」
「なに、じゃああんたが相手してくれるんです?」
「それは、」
「なら、大人しくしといてください」

押さえつけられているせいで、彼の表情はわからない。──とはいえ、この状態で大人しくしてるだなんて。
私の心臓は今にも壊れそうなほど、どくどくと音を立てているのに。……しかしこれ以上為す術もないので、一先ずその腕の中に収まることにした。

「よーやく諦めました? じゃあもう少しこのまま。オレ、すごーく疲れてるんで」
「……成り行きとはいえ、休んでたの邪魔したならごめん」
「わかってるなら黙って抱き枕にでもなっててくださいよ」
「ハイ……」

間もなくして、また静寂が訪れる。
そういえば、起きた後は元の軽い彼に戻っていた。疲れや寝不足から機嫌が悪かったのかはわからないけれど、今の様子なら私の命が危ぶまれるようなことはないだろう。
久しぶりに会って、何もせずただこうして抱きしめられていることに少しだけ安堵を覚える。
彼の服を掴んでいた手を背中へと滑らせ、子供をあやすようにとんとんと軽く叩いた。