中間テスト前日に、暗殺があるからそれでいいや、と勉強の目標を低くしていた皆に、殺せんせーはアドバイスという名の警告した。
“第二の刃を持たざる者は、暗殺者を名乗る資格なし”
クラス全員が50位以内を取ること。それが俺らに与えられたミッション。
…が、結果はE組もとい殺せんせーの惨敗。理事長先生が2日前に出題範囲を全教科大幅に変えたらしい。あーあ、殺せんせー大分落ち込んじゃってるけど、まぁ、俺と名字さんには関係ないね。
落ち込む殺せんせーに追い打ちをかけるよう挑発すれば、皆も俺に合わせて便乗した。すると殺せんせーはムキになりながら期末テストでリベンジすると意気込んでいた。その様子はまるで本物のタコみたいに顔を真っ赤にしてみせた。
充分に殺せんせーで遊んだ俺は席に戻ると、赤羽君…、と右隣から控えめに声を掛けられた。
「あのね、問11教えてほしいんだけど…」
名字さんは遠慮がちに数学の答案用紙を見せてくれた。問11以外は丸が付けられていたが、ひとつだけ三角のマークを見つけた。
「へえ、意外。名字さん問11解けているかと思ったよ」
「私、数学苦手で…。難しすぎるよ…」
眉を八の字にさせ、溜め息を吐く姿に新鮮味があった。名字さんを浅野ぐらい完璧な人間かと勝手に思い込んでいたけど、どうやら違ったらしい。
自分の椅子を名字さんの机に近付かせ、俺は解答用紙の隅の空白を使って、問11の解説を始めた。俺が説明する度に名字さんは頷きながら、なるほど、そういうことか。と、呟きながらシャーペンを走らせた。
ふわりと揺れる名字さんの髪の毛から香る匂いに一瞬くらりと眩暈がした。…すげーいい匂い。何のシャンプー使ってんだろ。なんてくだらない事を考えていた。
「ありがとう、赤羽君。すっごく分かりやすかった。この前に勧めてくれたいちご煮オレも美味しかったし…何かお礼したいな」
「はは、どーも。名字さん飲み込み早いから教えやすかったよ。でしょ?美味しかったっしょ?え、いいよ別に」
………いや、せっかく名字さんがお礼したいって言ってくれるんだし、好意を素直に受け止めないと、ね?
「…お礼、何でもいいの?」
「私に出来ることなら…」
「ふーん。じゃあさ、俺のこと名前で呼んでよ」
「え、名前?…それだけでいいの?」
それがいいの、だって名字さんだけだよ?俺を名字で呼ぶの。と、念を押せば、名字さんは一旦間を置いて、カルマ君、とふわりと笑った。
「っ、…俺もさ、名字さんのこと名前で呼んでもいい?」
もちろん、と言って笑ってみせる名前ちゃんとそれ以降視線が交わることはなかった。ただ名前を呼ばれだけなのに、こんなに心臓ってうるさいワケ?……全く、厄介な隣人だよ。
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