名字名前さん。
小学校6年に上がる前、ご両親とご兄弟の方々が旅行中に交通事故で他界。名字さんはその日は用事があり、一人で留守を任されていた。
その後は母方の祖父母に引き取られ、現在一緒に3人で暮らしている。
上記の内容が、E組の担任になる前に防衛省から渡された資料に記されていた。
「ニュル…どこか引っ掛かりますねぇ」
なんと言いますか…事情が単調すぎる。確かに現在は祖父母の家で暮らしていますが(マッハ20で調査済みです)、本当に名字さんのご家族の死因は交通事故なのか。なぜ小学生だった名字さんを置いてご家族の方々は旅行に行かれてしまったのか。
小学生の高学年といえば、思春期独特の難しい時期と思われますが、名字さんとご家族の仲はむしろ良好で、よくご家族と一緒に出掛ける回数の方が寧ろ多かったみたいですねぇ。勿論これもマッハ20で調査済みです。
…となると、名字さんだけを置いて旅行に行ってしまい、その道中に交通事故に遭われ亡くなってしまった点はますます怪しい。まるで他の真実を隠蔽しているみたいだ。
「…名字さんについては、もう少し掘り下げて調査した方がよろしいですかねぇ」
コンコン、と私だけしか居ない職員室にノックの音が転がった。
「失礼します、名字です。殺せんせー、今日教わった授業について質問したい箇所があるんですが…」
「名字さんでしたか!毎日放課後まで勉強熱心で先生感動です!」
「いえ、そんな…。私、人より飲み込みが遅いので、こうして理解するまで勉強しないと気が済まないんです」
「理解するまで勉強することはとても大切なことです。そのときに覚えたことは早々に忘れる物ではありません。その努力が、名字さんの成績に表れてますよ」
タコ二重丸です、と触手で名字さんの頭を撫でれば照れ臭そうに、ありがとうございます、と微笑んだ。
元はA組の生徒であり、成績優秀。クラスメートや他の先生からの人望も厚かった。E組に落ちた原因は烏間先生曰く、名字さんの意志でE組に来たとのこと。
…ますます謎が深まりますねぇ。
「…名字さん」
「はい、何ですか?」
私は名字さんの顔を見据えた。
「困ったことがありましたら先生になんなりと申しつけて下さい!先生自慢のマッハ20で解決して差し上げますよ!ヌルフフフ…」
でも先生、名字さんについて一つだけわかることがあるんです。
「…とても心強いです。頼りにしてます、殺せんせー」
きっと貴女は、たった一人でとてつもない闇を抱えているのでは?
決して私に対してではない、瞳の奥で見え隠れしている殺意は、一体誰に向けられているのですかねぇ…。
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