いつもなら二度寝をかます時間帯に起きちまったけど、不思議と眠気はなくて、家に居ても何もすることがない俺は学校へ向かうことに決めた。

毎日通っている通学路はいつもと雰囲気が違っていた。早朝の空気、すれ違う人々、何もかも新鮮だった。…こんな朝も悪くねぇな。

いつもとは違う朝を感じながら、学校に着けば、朝のホームルームまで一眠りすっか、と考えながら教室のドアを開けた。

「あ、菅谷君。おはよう」

こんな朝早くに誰も居ないと勝手に思い込んでいた。まさか名字が居るとは思わず、息を飲んだ。

名字は自分の席ではなく、教室内の窓際にもたれるよう、佇んでいた。そんな名字の姿をきちんと確認して、一度咳払いをしてから挨拶を返した。

「…名字、こんな朝早くから何してんだ?」

俺の席は、窓際から2列目だから席に向かう俺は自然と名字との距離が縮まる。

「いつもより早起きしたんだけど、目が完全に覚めちゃって、暇だから学校に来て、ぼーっと外の景色眺めてたの」
「マジで?俺も珍しく目が覚めちゃってさ、こんな朝っぱらに誰もいないと思ってたから名字がいてビビったわ」

私もいきなりドアが開いたから吃驚したよ〜、と笑う名字に、こうして2人で話すの初めてだなと改めて認識した。

今は2人きり。チャンスは今しかない。眠気はとうに吹き飛んでいた。

「………なぁ、名字」

唐突に真剣な表情で迫る俺に名字は、ん?と首を傾げた。

「みんなが登校するまでの間………、モデルになってくんねぇか?」
「えっ、モデル?……私が?」

実は前から名字の身体のラインが美しいと密かに思っていた。片岡と並ぶ身長にすらりとした手足。そして顔立ちも良しと来た。俺にとっちゃ一度は描いてみたい人物像だった。俺からの席じゃ名字は見えないし、何も接点がないまま過ごしていた。

早朝の教室に2人きり。誰かが登校するまで30分ぐらいはあるだろう。このチャンスを逃すもんか。

「ああ…ずっと名字を描きたいって思ってた…って、いや別に変な意味じゃねーよ!?ただ、純粋に、!」

思わず漏れた本音を必死で誤魔化す俺の姿に名字は肩を震わせながら笑っていた。

「っ、ふふ、私で良ければ、いいよ?」
「………笑い過ぎだぜ、名字」
「ごめんごめん。それで、私はどうしてたらいい?」
「ああ、そのままでいい。普通にしていてくれ」

鞄の中からノートと鉛筆を取り出し、椅子と体を名字に向けた。名字は、普通にかぁ、と呟きながら視線を窓の外へ移した。ただ、窓際に立って外を眺める姿が、1枚の絵になる。

ああ…、やっぱり綺麗だ。

岡島みたいなゲスな気持ちは微塵もなく、モデルとして、1人の女性として、本当に美しいと思う。そんな名字との2人きりの朝を堪能する暇もなく、罫線の入ったノートに俺はひたすら鉛筆を走らせた。


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