切原家と幼稚園



神奈川県内のとある幼稚園。

そこは私の職場である。今年、先生として四年目を迎える。園長先生をはじめ、優しい先輩や可愛い後輩、そして私の大好きな子供達に囲まれ、申し分無く充実した毎日を過ごしている。

…ある厄介な保護者を除いては。

「名前さぁ〜ん!おはよーございぁますっ!今日もかわいーっスね!」
「名前せんせー!おはよーございまぁすっ!」

特徴的なうねりのある髪型に子供のような屈託のない笑顔が印象な男性。そして、その遺伝子を受け継いだ可愛らしい女の子。彼、切原さんと、その娘さんであり私の生徒であるあかねちゃんだ。

「おはよう、あかねちゃん。………と、切原さんも…おはようございます」
「名前さん!俺、今度の週末休みなんスよ!デートしましょーよ!」

ひょんなことから、切原さんに口説かれるようになったのだ。

…だけど切原さんは、ご覧の通り子持ちであり、バツイチでもある。

名前さん、どこ行きたいっすか!?と、未だに返事を返さない私にノンストップで話し掛けてくる切原さん。正直うるさい。

「じゃあ、あかねちゃん。みんな教室に集まっているから行こうか」
「はぁーい!パパ、ばいばぁーい!」
「ちょ、まっ、名前さぁん!?お前だけズリィぞ、あかね!迎えのとき覚えとけよ!!」

ちゃんとお迎えは来るんだ、と内心苦笑いを浮かべながら、私はあかねちゃんと手を繋いで教室へと向かった。

切原さんをちらりと見れば、ばっちり視線が絡み合い「名前さぁーん!今日もお仕事頑張って下さいッス!」と、仕事の癖かビシッと敬礼を決めていた。

そんな姿にくすりと笑えた。

あかねちゃんに「名前せんせー、うれしそう!」と、私の顔を覗き込むように見上げた。私達の身長差から自然に上目遣いになるあかねちゃんに、きゅんとした。

「…そう、かな?」

うん、絶対そーだよ!と、私の手をぎゅっと握り締めた。…全く、可愛いなぁ。

「あかねちゃんが言うなら、そうかもね」

私は強過ぎず弱過ぎず、あかねちゃんの小さな手を握り返した。

パシャリ。

不意に後ろから聞き慣れたシャッター音が聞こえた。恐る恐る振り向けば、切原さんが携帯を片手に「まるで本物の母と娘のようだ…!名前さん、良かったら俺たちホントの家族に…」と言い終わる前に、私は教室のドアを閉めた。

…毎日毎日、冗談が飽きない人だ。

「あかね、名前せんせーがママなら大賛成だよ!」

あかねちゃんの真っ直ぐな言葉に、私は苦笑いしか返せなかった。




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