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今のフェニックスワンダーランドの方針を覆すほどのショーをやる。それを実現するのは程遠い事は充分にわかっている。だがそれでもやりきりると決めた、だから全力で挑みたいとも思える。
だが今は次の演目が間近だ。今日は通しをしつつ深く掘り下げるように練習する日。メンバーはショーコンテストで頭がいっぱいのようだが「目の前の課題から一つずつクリアしていこう」と決め直近のショーについて集中していた。
「緋透ちゃん!冒頭のあたし達の掛け合いシーンなんだけどもっとシュバババーン!キリッとポンッてキレイに決めたいから通す前に少し合わせたいけどいいかな?」
「おおぅ…擬音が多いな…言いたい事はなんとなくわかるから一回合わせるかぁ…」
やったー!と嬉しそうに飛び跳ねるえむを見て相変わらず元気だなぁ…と呑気そうに見てる。どの辺からかいつまんでやるかを台本を眺めつつこの辺りから始めようと2人で決めて、始める。
『そんな、お姉ちゃんのわからずや!どうしていけない事なの!!』
『それは外の世界は危険がいっぱいだからよ。小さい頃から教えてるはずです』
『嘘だもん!旅人さんは外には沢山の楽しい事や面白いものがあるって教えてくれたんだよ!だから私も外の世界に旅しに行きたいの!』
『あっ、こらっ!待ちなさい!!……それでも私は貴女に怖い思いをさせたくないの…わかって…』
一通り確認したい所を流してやるとえむはぱちくりと目を丸くして不思議そうに緋透の方を見る。なんだろうと思いきょとんとしてるとむむむっと唸るようにえむは何か言いたげにこちらを見ていた。
「緋透ちゃん…どこか具合悪いの?」
「へっ?」
まさかそんな事を言われるとは思わず緋透は声が裏返った。なんの事だ?と不思議そうにしているとあうあうとさらにわたわたし始めるえむを見て「大丈夫だよ」って笑って言うがさらに困惑し始めた。何の事かと疑問を持ちながらステージ付近にいた司が「通しを始めるぞ」との声がかかる。えむも何か言いたげな表情をしていたが大丈夫だよねと心配そうに一緒に向かった。
「今日から通しを始めるけど今回内容を少しだけまとめてみよっか」
次回のショーは外の世界に怯える姉と外の世界に興味がある妹が夢を運ぶ旅人とその仲間達と出会い世界を知るという話。姉役は緋透、妹役はえむ、夢を運ぶ旅人は司、その仲間達は寧々、ネネロボ、類の配役だ。
ある日妹が旅人に出会い外の世界の話を聞き旅に出たいと姉を説得するがだめだと否定、その後妹と旅人仲間達が姉に世界はこんなにも素敵な場所だと教え、皆で旅をすると、ありきたりなハッピーエンドでもある。
「それじゃあ頭から始めようか、まずは司くんとえむくん。旅人と出会うシーンから」
そう類が言うと2人は舞台の上に立つ。類の「はじめ」と言う合図で2人は役になりきり演じ始める。
『うわっ!?こ、こんな所に人が…?』
『えっ?なんでなんで、なんでここに人が!?あわわわわっどうしよう……』
『ま、待て!怪しいやつではない…って言ってもこの状況だと怪しく見えるな…俺は旅人だ、ここには迷い込んでしまったんだ』
『迷い込んだ?旅人さん?』
順調に話が進む。出だしは上々だ、このまま進めば緋透の出番になる。そろそろ出番だと類が合図を送る。緋透も頭の中にはもう完璧なほどセリフは入っている。間違えるわけはない。
次のシーンは旅人を仲間達に送り返し、自分も旅に出たいとお願いをする場面だ。先程えむと練習した場所だ、失敗はしないだろう。
『そんな、お姉ちゃんのわからずや!どうしていけない事なの!!』
『それは外の世界は危険がいっぱいだからよ。小さい頃から教えてるはずです』
『嘘だもん!旅人さんは外には沢山の楽しい事や面白いものがあるって教えてくれたんだよ!だから私も外の世界に旅しに行きたいの!』
『あっ、こらっ!待ちなさい!!……それでも私は貴女に怖い思いをさせた……』
「ストップ、そこまで」
急な静止、ここまで順調に進んでた話は類の一声によって止められた。何がおきたか一瞬わからなかった緋透は周囲を見回すと誰もが心配そうな顔してこちらを見ていたのがわかる。
きょとんとしてると何か言いたそうな顔、誰も何も言わないのはなぜ?と考えてると類がそんな場の空気がよくない中、重い口を開いたわ、
「緋透くん、役になりきれてないよ」
「……は?」
あまりにも突拍子に言われた言葉に抜けたような声で返事をしてしまった。今なんて言われたのか理解するのに時間がかかってしまった。わからない、意味がと声に出す前に類が悲しそうな顔して首を横に振った。まさかそんなはずはないとちゃんとなりきれてるはずだ。
だが先程えむに言われた言葉を思い出す。そう考えるとどこか腑に落た。なるほど、そういう事かと納得したと同時にこの感覚は昔自分は体験した事がある。小さくため息をついた。
「………またか」
「緋透ちゃん?」
ぽそりとか細い声はえむ以外の人には聞こえなかった。一瞬だけ諦めに近い表情を、そのあと何事もなかったかのようにいつもの表情をに戻る。
「悪かった、もう一度そこから頼む」
「本当に大丈夫か?緋透がいいなら問題ないが…えむ、もう一度頼む」
はーいと少し心配そうに返事をするえむ。緋透の様子を伺うように顔を覗くと目が合いにこりと笑った。その表情に少しの違和感と、無理して笑ってるのがわかってしまったえむは不安そうに台詞を吐いた。
だが何度繰り返しても同じような指摘を緋透は受けていた。何度も何度も同じシーン、同じセリフ、同じ表情で何度もやり直しを受けた。
珍しい、普段は一回やればほぼ完璧に近い彼女が何度もリテイクを言われるなんて思っても見なくて一度流しを止めた。
おかしいな、と本人は何もわかってないような顔をして悩み始めるが、明らかに類達は驚いたり、困ったり、心配するような顔でこちらを見ていた。
「緋透大丈夫…?今日調子悪いとか?」
「何か変なものとか食べちゃったとか?」
「司じゃあるまいし…」と寧々のぼそっと言った言葉に司は「そんなことするか!」と元気よく言った。急に叫ばれてもきょとんとする緋透に類は何かを察したように、隠すように彼女の近くまできて、緋透しか聞こえないように耳元でぽそりと小さく問いかける。
「まさか…昔みたいに……?」
昔みたいに。そう言われた緋透は一瞬たが硬直する。それを見逃さない類はやっぱりと呟き困った顔をする。
知っているのだ、その状況の彼女を。だから他の人より彼女の状況を把握し、誰よりも早く察することができた。類はこの状況をどうするかと悩み始める。この状況で練習してもお互いベストは出せないし緋透も無意識のうちに負担がかかると。過去、中学の頃がそうだからと思い出す。
そしてその事を彼女は仲間にバレない様に隠しているのを類は知っている。問題を先送りにしかできないが、今の状況をどうにかしなければと類はその事しか頭になかった。
「緋透が調子が悪いなら今日の通しは終わりにしよう。調子が悪いのか?」
「え、うーん最近ちょっと家の事で忙しかったからなぁ…それで自分でも思ってた以上に疲労が残ってたとか?」
きょとんとした顔をしたと思ったら少し申し訳なさそうな顔をした。
「わかった。今日はこれで解散で皆いいか?」
と司が問うとえむや寧々はうなづいた。緋透は自分のせいで中断したのが申し訳なさそうに「ごめん」と謝り、今日の練習はここで終わった。
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