手首の傷痕


「その傷、いつからあるんだ?」
 唐突に聞かれた質問にアリアはびっくりした顔で質問した相手、蓮の方を向いた。数日前に巻かれた包帯を巻き直そうと剥がしてる所をたまたま蓮に見られながら巻き直そうとすると彼はアリアが作った傷口をじっと見ていた。
 見られていると撒き直しづらいと苦笑いをしながら「なに?」と聞くと蓮はアリアの手首にそっと触れた。
「触り心地悪いな」
「そりゃあ傷が沢山あるからね」
 何かを確かめるように触る蓮を好きに触らせるアリア。最初の頃は嫌悪が走り触れることすら拒絶していたが、今となれば慣れて好きにさせてる。
 無数にあるアリアの手首の傷跡、古く傷が残った痛々しいものもあれば最近できた真新しくやっと治りかけてるものもあった。
 蓮は悲しそうにしている。何度もやめろと言ってもアリアは一向にやめない。何度口約束、喧嘩をしてもそれでも新しい傷を作る。
「多分ね、一生止められても僕はやめれなよ。だって僕の流れてるものはアイツと同じだから…そう思うと気持ち悪くて捨てるために切ってるから」
 最近やっと初めてアリアの自傷について語られた。そんな事はないと、蓮も何度も伝えたがアリア本人がそれを認めないからずっと平行線でいる。
 伝わらないから伝わるまで何度もとめ、喧嘩もする。その度に最後は「ごめんね」と困った顔で笑われる。
 新しくできた傷、瘡蓋になってる所を見つけ「またやったのか」とじっ、っと睨みつけるとあははと乾いた笑いを零しながらアリアは手持ちの包帯を手に取る。
 そろそろ巻き直したいからやめてくれの合図だ。
「見てていいものじゃないのによくいつも見てるよね」
 離れたのを見るとアリアは隠すように傷跡に包帯を慣れた手つきで撒き始める。
「で、これはいつからあるんだ?」
 話を戻されて包帯を巻く手が止まる。珍しい、そこまでこの話を広げることをあまりしない蓮が聞いてくるなんて。
 アリアは困った顔をしながら答えるか否かとうーんと悩む。別に今更隠す事なんてないと判断したのか再び包帯を巻くのを再開しながらポツリと呟くように語り始めた。
「最初は妹の葬式の日、アイツが火事を仕組んだって知って僕も同じ血が流れてると分かった時気持ち悪くて思いっきり切った」
「死にたかったからか?」
「ちょっと違うかなぁ…僕の自傷は死にたいからしてるわけではないからね」
 片手首が綺麗に巻き終わると反対の手首も隠すように巻き始める。
「ただ抜きたかったんだと思う。流せば新しいものになると思い込んで切り続けた」
「おかしな話でしょ?」とニコニコと笑っていたが本人もそれを信じて続けてきた事だと蓮も察した。信じて疑わなかった、そう思い続けていかないとどうしようもなかったから。
 そう生きてきたから、アリアにとっては慣れであり習慣だった。だから止めてもその習慣は急にはやめられなかった。
「だけど」
「…?」
「最近は殆どやってないだろ?」
 そんな蓮の言葉にキョトンとするアリア。包帯を巻く手をとめて最後にしたのはいつだろうと考えると最後に切ってからの傷が瘡蓋になってからはしてないことに気づいた。
 言われるまで気づかなかったがここ最近の自傷行為が減った気がする。本人もなぜ減ったのかわからないが一般的にはそれがいいと言われるだろう。
 わからないまま蓮を見ると少し安心したような顔してこちらを見ていた。蓮にとってはやらないのが一番いいと、そう気づいたアリアはため息をつきながらそっと蓮に寄り添うように彼の肩に頭を乗せた。
「そうだね、最近は蓮が隣にいるとこんな事するのを忘れちゃうらしい」
「…そうか、それはいいことだな」
 そんな言葉が返ってくるとは思わず蓮は嬉しそうにアリアの頭を優しく撫でた。
「ってか最近してないって事実を知ったからしたくなってきた」
「するなよ」
「……考えとくよ」
 あははと苦笑いするアリアを見てこのあとやるんだなと察する蓮。とりあえずとめはするが後はアリア次第になるのはいつものことだ。だがそんな考えをアリアもわかっていたのかにこりと優しく微笑んだ。
「今日はしないよ。多分しなくても平気だと思うから」
「そうか、だけど聞き捨てならないことも聞いたぞ」
「気のせいだと思っといて」
 蓮に軽くこつかれるがアリアも痛い、と返すがそこまでは痛くはなかった。
「まあ、けど…蓮が一緒にいてくれるなら回数を減るんじゃない?」
「やめる努力をしろ」
 それはちょっと難しいかなとまたアリアは苦笑いをした。

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