prolog


『俺、忍足謙也。よろしゅう!』

彼がそう気さくに話し掛けてくれたのは、入学して一週間ぐらい経った頃だった。
入学式の次の日、クラスで自己紹介の時間も設けてあったし(出身小学校や希望する部活などをみんな思い思いに口にしていたっけ)、忍足くんはクラスの男子でも目立つ方だったからちゃんと名前は覚えていた。確かテニス部に入るんだと言っていたな。

「あ、えと…私は桜木ゆ」
『ゆのやろ?俺のことも謙也でええから!』
「は、はぁ…」

何と人懐っこい子なんだろう。私はどちらかと言えば人見知りをするので何だか気圧されてしまった。
ニコニコする忍…謙也くんに、「謙也くん」と声を掛けたら『何?』なんて何処か嬉しそうに聞いてくるものだから、何だか擽ったくなった。

後から白石くんに聞いた話によると、謙也くんは私に一目惚れしてくれていたらしい。
一週間、どう話し掛けるか悩んで、みんなにアドバイスをもらって、第一声がアレだったようだ。
そんな謙也くんの気持ちを私が知るのは、まだまだ先のお話──…