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▼ 王子一彰は『プリンちゃん』派








「珍しい。今日は一人なんだね」
「王子……先輩じゃあないですか」
「呼び捨てでいいよ。もしくは、そうだな。カズくんで手を打ってあげてもいいかな」
「か、カズくんって……私は先輩の彼女でもなんでもないので そんな馴れ馴れしい呼び方は出来ませんよ」
「手厳しい……というよりも、独自規定が厳しいとみた。じゃあ早いうちに彼氏に立候補しておこうかな」



 別に本気じゃあないにしたって冗談ではないというのに、最近『マメちゃん』だとかいう名前で良く話題の中心になっている目の前の女の子は僕の言葉を当然のように右から左に受け流して「またまたあ」と笑顔を浮かべている。慣れているなあ。

 まあ、これだけ上等な顔面をもっているのだからそれも仕方がないといってしまえば そのたった一言で片付けることだって出来てしまうのだけれど 簡単に引き下がってしまうのはもったいないな。けれどそうはいっても、彼女は冬島隊の『お姫様』であり『エース』。あんまりしつこいと噂の『特攻隊長』が出てくるに違いない。僕なんて普通に普通校に通っているわけだから教室に入って来られてしまうかもわからない。カゲくんやゾエくんなら上手く交わせるけど、その他の人に来られたら面倒くさそうだな。特にA組陣営は怖いからなあ。



「それに彼氏って今はつくる気は全然なくて、携帯画面の向こう側に恋人がいるということにしています」
「えー、せめて同じ次元で恋しようよ」
「私は現実よりも平面に恋をしたほうが平和に暮らせる事実を身をもって知りました」
「それは随分と勿体ない。でもいま青春を謳歌しないで いつする気なのかな?」
「…………痛いところをつきますよね」
「ついでにいうと、僕の名前を敢えて呼ばないように会話をしている事にも 気付いているから『よろしく』ね」



 そういって、念を押すと『マメちゃん』は、勘弁してくださいよ、といいつつも、僕の事を『王子』という風に呼んでくれる。彼女とは未だ数える程しか会話をしたことがないけれど、毎回同じ事を思う。ああ、多分この子は 押しまくれば流されるな、と。

 それが果たして『どこからどこまで』流されてくれるのかは定かではないけれど、偶に出てくる彼女の『明らかに男の経験がありません』というオーラを見る限りでは押して押して押しまくれば、好きになってくれそうだとすら思う。まあ別に本気じゃあないから そんな愚かな事をして多くのボーダー隊員を敵に回すつもりは更々ないけれど、彼女と そこそこ長い付き合いのある澄晴スミくんあたりは この作戦でいってみたらいいのにと思わない事もない。というか、面倒くさい相談云々が本当に最近は結構面倒くさいからこの戦法をとってくれたらありがたい。



「色々言ったけどさ、勿体ないっていった言葉は ちゃんと本当だよ。これはあくまでも僕の考えでしかないけれど、僕は世の中は何事も経験値だと思っているからさ」
「でも、適当な人とは付き合えないし……」
「真面目だなあ、『マメちゃん』は」
「あれ、王子……も、その呼び方に?」
「ん? 流行には乗っかろうかなって。前の方が個人的には好きなんだけれど、最近イマイチ伝わらないんだ」
「そうなんだ……。私は結構好きだったんですけれど、なんか可愛いじゃあないですか。『プリンちゃん』って」
「!………………贅沢な子だよね、きみ」



 僕の言葉に首を傾げた『マメちゃん』もとい『プリンちゃん』は その言葉の意味を知らないで可愛いなんていう言葉を口にしているのだろう。そうじゃあないとするならば、彼女は相当腹黒く、計算高い。昔のままならば、そうであると仮定付けたかもしれないけれど、今のこの彼女の様子を見る限りでは本心からの言葉なのだろうと思う。演技ではないというのならば、だけれど。まあたまに明らかに持っている空気感が変わるから演技かと疑ってしまうところもあるけれど、ここまで人に疑われない演技というのも難しいのだろうから、演技ではないということにしている。

 何故このようなことを言うのかといえば、その『プリンちゃん』の言葉が『プリンセス』から来ているからだった。元々は『エーシェル』と『プリンちゃん』との二択で迷っていたのだけれど、冬島隊の(真木ちゃんを含む)女の子贔屓が物凄く有名であった事と、(真木ちゃん含む)冬島隊の彼女への対応があんまりにも特別だった為に『お姫様』つまり『プリンセス』という言葉は当時の僕から見ても結構ハマっていた。けれど、プリンセスではあまりにも露骨。では、どのような言葉ならば丁度いいのか。そこまで考えたところで、僕と彼女の初対面のエピソードが始まるのだけれど、長いから割愛。



「そうだ。プリンちゃんがカゲくんのところでアルバイトを始めたっていう面白い話を聞いたんだけれど」
「……もしかして ゾエさんから聞いたんですか!? 言わないでって言っておいたのに!」
「いや澄晴スミくんと生駒イコさんだったかな」
「いや、なんで!!!?」
「その疑問が どういう意味なのかがイマイチわからないけれど、それを僕に聞かれても困るかな」



 僕の返しに謝罪した プリンちゃんは二人と どういうわけなのか(生駒イコさんとは)面識があまりないという風な内容の言葉をブツブツと呟いている。しかも、その内容が相当面白い。生駒イコさんに関しては、僕にも最早理解が出来ないのだけれど プリンちゃん曰く、会話もしたことがないらしい。まあそれも、事実関係は不明。だって生駒イコさんがあんなに知っているかのように話すくらいなのだから。寧ろ、本当に面識がないというのならば、は? あの生駒イコさんがどうした?と思う。いや、実際に そうなってみたら一周回って大笑いするかもしれない。気をつけておこう。

 いやでも、今本当に面白いのはこっち。

 あんなにプリンちゃんを好きだのと(口では言われたことがないけれど、オーラが)いっているくせに当の本人を目の前にすると、どうやら澄晴スミくんは物凄い空回りをするらしい。これは面白い。暫く、これをネタに澄晴スミくんと遊べそうなくらい面白い。あんなに女の子扱いは得意です、みたいな顔をしているくせに空まわるなんて凄い。いや、微塵も悟っていなかったわけじゃないけれどさ。


「プリンちゃんは相変わらずネタの宝庫だね。アルバイト先にも今度お邪魔させてもらおうかな」
「絶対にやめてくださいね、絶対に」
「なるほど、それがフリか」


 ポンッと手を合わせて笑うとドン引きしましたという表情を浮かべているプリンちゃんが視界に入る。冗談冗談と笑い飛ばしてあげようかとも悩むけれど、別に冗談ではないし、どちらかというと本気なのでスケジュールの確認をする。

 あ、近々だと今週の土曜日が空いている。ゾエくんの話だと土曜日にはプリンちゃんがシフトを入れるおかげでカゲくんの家が繁盛していると聞いたから土曜日に行こう。そうしよう。カゲくんとプリンちゃんは どんな表情をみせてくれるだろう。弓場さんを連れて行こうかなあ。ああでも、弓場さんのスケジュールは把握していない。こんなに近々の誘いは迷惑かもしれないから、それなりに把握できている身近な人がいいな。それならば、カシオあたりがいいかな。カシオならプリンちゃんを好きになることはないだろうから、色々な意味で安パイ。ついでにゾエくんも誘おう。そうしたら 盛り上がりそうだ。


「僕が遊びに行くのは決まってしまった事だし、この話は一度切り上げよう。話を戻すけれど、きみが一人なのは珍しいね」
「……あ、そこまで戻すんですね」
「実際に最近だと珍しいしね。何度か見かけた事はあるけれど、空間が完成しすぎているから声もかけづらい」
「唯我くんとか?」
「いやそれは見た事ないな。よく見かけるのは てるてる達と良く集まって勉強しているところとか」
「あ〜〜〜」
「そうだ。プリンちゃんは勉強をしている時みたいに髪の毛を纏めている方が今よりずっと可愛いよ」
「か、かわ……っ!!?」
「因みに僕個人としては お団子よりもポニーテールの方が好きかな」



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